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地獄門使いの異邦人〈エトランジェ〉  作者: 織田昌内
第三章 チェンジリング
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探索と危難(四)

「もうそろそろです」


 白丸からの念話を受け取った俺はすかさず臨戦態勢に入った。


 こんな狭い場所で強力な魔法を使うわけにはいかないため俺は白丸を戻した聖剣を握りしめた。


 次第に地響きが鳴り始める。しかも不規則な足音が幾重にも重なっているようだった。


「一匹ではないな」


「そのようね。群れで行動する生物なのかしら」


 サフィーレには全く動揺する様子が見られない。


 戦闘経験があるのだろうか。


 シルヴィーとリーニアはかなり緊張しているようで、足や手が小刻みに振動している。


 こんな経験しないに越しことはないのかもしれないが、この先どんな試練が待ち構えているかもわからない以上、今の内に慣れておくのも悪くはないか。


 俺はシルヴィーとリーニアの緊張をできるだけほぐそうと、二人の肩の上に交互に手を置いた。


「剣夜さん・・・」


「心配ない。俺がついてる」


「剣夜様・・・」


「いつも通りにしていれば怖いものなんてないさ」


 こんな小さく柔らかい少女たちの肩を震わせてしまっている自分の甲斐性なさに嫌気がさしつつも、俺は一段と気を引き締めた。


「見えたわ!」


 サフィーレが指差した方向からは激しく土埃を巻き上げる生物が突進して来ていた。


 だんだんと輪郭がはっきりしてきたその姿は言うなれば巨大化したイグアナのようであった。


「あれに見覚えは?」


「形的にはオオツメイグアナみたいだけれど、大きさが・・・」


「どうしますか、剣夜さん!」


「もうそこまで来てるわよ!」


「とりあえず姿は見れたし、退避するぞ、サフ」


「そうね」


 サフィーレは消極的でありながらも俺の言う通り避難してくれるようだ。


 戦わなくていいのなら戦わないに限る。


 俺が三人を連れて出口に向かって走り出そうとしたその時・・・


「剣夜殿、悪いお知らせが・・・」


「どうした」


「こちらからも何かが向かって来ました」


「数は」


「四、五匹だと思われます」


「どうしたんですか、剣夜さん?」


 急に立ち止まったことを不思議に思ったシルヴィーが俺の顔を覗き込んできた。


 これはかなり厳しい状況だ。


 この先から何が向かって来ているのかはまだわからないが、おそらく同じような生物だろう。


 とすると、このまま進めば間違いなく戦闘になる。


 かといって後ろに戻るわけにもいかない。


「前からも何か来てるわね。どうするのかしら?判断は剣夜に任せるわ」


「・・・このまま進む。後ろの洞窟は出口がどこにあるのかはっきりしないからな」


「私もそれがいいと思うわ」


「そういうことだ。シルヴィーとリーニアは気を抜かないでおいてくれ」


「わかりましたわ」


「お任せください」


 三人が臨戦態勢に入ったことを確認した俺はこれからの作戦を説明した。


 基本的には俺が一人突っ込んで敵を撹乱する。


 まだ三人の実力が判然としない今の状況ではそれがベストだと判断した。


 リーニアは自分も切り込むと言い張ったが、今回ばかりは俺が強くそれを退けた。


「今回は抑えてくれ。決してリーニアの腕を信じていないわけじゃない」


「はい・・・」


 シュンとするリーニアを見て、これも立派な過保護なのかもしれないと俺は少し反省した。


 作戦会議を終了した俺はまず後ろの穴を塞ぎ、退路を絶った。


 挟み撃ちされてはたまらないからな。


 そしてすぐに前に向かって走り出した。


 後ろからはリーニア、サフィーレ、シルヴィーの順についてくる。


 リーニアには攻撃魔法を、サフィーレには阻害魔法を、シルヴィーには回復魔法を担当してもらうということになっている。


 敵との距離が縮まってきたのを感じた俺は聖剣を強く握りしめ、白丸に念話を送った。


「『雪隠れ』だ」


「わかりました」


 剣先から噴き出した吹雪が勢いよく前方に向かっていった。


 これで十分敵を撹乱することができる。あわよくば凍ってくれればいいのだが・・・


「その魔法についても後で教えてちょうだいね」


 サフィーレはどんな時でもサフィーレであった。


 緊張感のない軽やかな声で俺にそう告げてきた。


 それにつられて俺の表情も少しだけ柔らかくなるのを感じた。


 これは彼女なりに緊張感を緩和しようとしてくれたのかもしれない。


 走ること十数秒、俺はようやく敵の全貌を捉えた。


 やはり先ほど見たイグアナのような生物だ。


 ゴツゴツとした皮膚に、鋭く伸びた爪。暗闇をものともしないギラギラと輝く目。そして人間を一飲みにできる大きな口。


 もう少し洞窟を小さめに掘っていればこいつらは入ってこれなかっただろうに、と後悔してしまう。


 ただ、『雪隠れ』が思っていた以上に効果を発揮してくれたようで、イグアナたちの動きは明らかに鈍っている。


 あんな熱帯地方に生息している生物だと寒さへの耐性も薄いのだろう。


 敵の足が完全に停止したことを確認した俺は『雪隠れ』を止めた。


 だが、息の根を止めた訳ではないためまだ油断することはできない。


「シャー」


 イグアナは弱々しい音を発しながら俺を睨みつけてくる。


 そして前足を振り上げ、鋭い爪で俺を切りつけようとするが、動きがあまりにも鈍すぎた。


 俺がもう一方の前足を一刀両断すると、バランスを崩したイグアナは前のめりに倒れこんだ。


「『赤色の輝き、我を導け、エクスプロージョン』」


 そこにすかさずリーニアの魔法が打ち込まれると、イグアナの頭部は黒焦げとなり、絶命したのがわかった。


 こんな狭い場所で『エクスプロージョン』を使うのはどうかと思ったが、リーニアはちゃんと威力を調節してイグアナの頭部だけに魔法が当たるようにしていたため、洞窟が崩落する心配はなさそうだった。


 一匹目を仕留めた後、俺はすかさず二匹目に突進しようとしたが、危険を察知した後続のイグアナたちは背中を向けて逃げ出し始めた。


 追い討ちをかけることは十分可能だが、戦うのが目的ではないため俺はゆっくりと逃げていく四匹のイグアナを追わなかった。


「なんだかあっさりしていたわね」


「またこっちに向かってくるかもしれないし、俺たちも早くここを出るぞ」


 俺は『テクトニズム』でイグアナの死体を地中に埋めた後、急いで出口に向かった。

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