青い小悪魔(四)
「この後は昼食を先にとってからもう一度鉱脈の情報を集めようと思う。昨日買った本は全て溶けてしまったからな」
「でしたらここでいただきましょう。今日は私が準備してまいりましたので」
そう言って、リーニアは手に持っていたバスケットの中から大きめの敷物を取り出し、それを平らな地面の上に敷いた。
「座ってください」
リーニアに促されるまま俺とシルヴィーは敷物の上に座った。
すると、リーニアはバスケットの中からティーセットを取り出しお茶を入れ始めた。
どこにお湯があったのか疑問に思ったが、青色魔法と赤色魔法を組み合わせることで一瞬のうちに生成したようだ。
こういう使い方もできるわけか。
俺なんかはすぐ戦うことばかりに重点を置いてしまっていけない。
「この中には野菜やお肉などをパンで挟んだものがありますので、自由にお取りください剣夜様。もちろんシルヴィーも」
「わたくしはついでですか!?」
俺は早速バスケットの中に手を伸ばし、サンドイッチを一つ取り出した。
真っ白いパンはキャベツやトマトのような野菜とスクランブルエッグを挟んでいる。
噛みしめるたびに野菜の豊潤な食感を味わうことができた。シンプルであるからこその繊細な美味しさだ。
少しばかり拗ねていたシルヴィーもその美味しさに満足げな表情を浮かべている。
「美味しいです・・・」
「これはリーニアが?」
「はい。ですが、これは試作品として作ったもので・・・」
「その割には完成度が高いな。すごく美味しい。リーニアには料理の才能まであったんだな」
「剣夜様・・・」
「剣夜さんに食べて欲しくて持ってきたんじゃないんですか?」
「そ、そういうわけじゃ!」
シルヴィーに茶化されて少しだけ動揺するリーニア。
まあ、動機が何であれ、俺は満足だ。
食後にリーニアが入れてくれたお茶を飲みつつ束の間の休息を楽しんだ俺たちは早速帝都へ向かうことにした。
王都ブルーゲに負けないほどの活況を見せる帝都にはもちろん様々な店が立ち並んでいる。煌びやかな店構えから、何を売っているのか想像もつかないような禍々しさを放つ看板まで、何度来ても人を飽きさせないような都市である。
本屋までの道中、シルヴィーとリーニアはある店の前で足を止めた。
二人がじっと見つめる大きな窓ガラスの中には花嫁衣裳と思われるような豪華絢爛のドレスが飾られている。
普段から綺麗な服を着ている二人でも、これはさすがに着たことがないだろう。
女の子として憧れを持つのは当然か。
「そんなに気になるなら入っていていいぞ。その間に俺が本を買ってくる」
「そういうわけには・・・」
「どんな本を買うかはすでに決まってるからそんなに時間はかからないはずだ。俺が戻ってくるまでこの中で待っていてくれればいいさ」
「剣夜様がそうおっしゃるのなら・・・」
二人はどこかうしろめたさを感じているようだったが、そう時間も経たないうちに店の中に入っていった。
その時の横顔はとても楽しそうであったので俺はひとまずホッとした。
二人に仕事を手伝ってもらうだけでは俺の方が心苦しいからな。
なるべく二人に長く楽しんでもらおうと、俺は少しだけゆったりとした歩調で本屋に向かった。
店内には相変わらず本の山が築かれており、まだ昼だというのに中は薄暗い。
こんなんでちゃんと店として機能しているのか心配になってくる。
俺は隙間隙間を通り抜けながら、昨日買った本が置いてあったはずの場所を探した。
リーニアはよくこの中から目当ての本を探したな・・・
リーニアの手際の良さに感心しつつ、だらしなく積まれた本に目を向けていると、俺は少しばかり前方不注意になっていたようで、誰かにぶつかってしまった。
ただ、先に言わせてもらうが、こんな狭い場所でいきなり横から現れたら、それが何であれ気付くのが遅れてしまうものだ。
「おっと・・・」
本が盛大に落ちていく。
よくもまあこれほどの本を抱えていたものだ。
そういえば、昨日来た時にも似たようなことがあったような・・・
「悪い」
「いえ、私の方こそごめんなさい」
この声には聞き覚えがある。
足元に散乱した本を拾いながら、俺は声の主の顔を確認しようとしたが、それよりも先に向こうの方からちょこっと顔を覗かせてきた。
端正な顔立ちはさることながら、透き通るような空色の長い髪の毛がとても印象的だった。
昨日見た時にも感じたが、いくら魔法が実在する世界だからといっても、ここまで浮世離れしていると感じさせた髪を見たことがない。
まあ、俺はこの世界に来てまだ一週間も経っていないからな。こういった種族がいるのかもしれないが・・・




