青い小悪魔(二)
「・・・お話はわかりました。私もシルヴィー様をいたずらに箱入り娘として扱いたいわけではありません。ですが、これも国王陛下やセルフィーラ様の愛情の裏返しだということをご理解ください」
「はい・・・」
ナターリャさんにシルヴィーの気持ちを説明した俺だったが、むしろこちらが説得されそうになる。
シルヴィーも堂々としたナターリャさんの前になかなか反論する機会を見出せずにいた。
全てはシルヴィーのためだという理屈を並べられては、いつまでたってもナターリャさんたちを説得することができそうにないが、後味が悪くならないよう今の段階できっちりと納得してもらわなければ。
「俺が言うのも筋違いかもしれないが、愛情を注ぐことと保護者としての責任を全うすることは似て非なるものだと俺は思う。前者は目的、後者は手段だ。なら、少しくらい娘を放任したからといって愛情を注いでいないことにはならないはずだ」
「確かにそうかもしれませんが・・・」
「それに、シルヴィーは十分とは言えないまでも心身ともに強い。たまに危なっかしいところがあるかもしれないが、その時だけそっと手を貸してやればいいじゃないか。もちろん、俺も最大限協力する」
「剣夜さん・・・わたくし、この決意をお父様とお母様に直接伝えたいと思います」
何を思ったのか、シルヴィーはそう言ってすぐに部屋を飛び出した。
いきなりのことに俺とナターリャさんは一瞬呆然としてしまったが、すぐにシルヴィーを追いかけた。
その間、ナターリャさんはどこか落ち込んだような表情を浮かべていた。
シルヴィーのことを相当心配しているのだろう。
人が人を支えるということがどれほど大変なことなのか、俺には全く想像もつかないが、他人のためにこれほど悩むことができるなんて本当にすごいことだと思う。
献身的であればあるほど、自分と支える相手との区別が見えにくくなっていくのかもしれない。
「お騒がせして申し訳ございません、剣夜様。私もシルヴィー様にはのびのびと暮らしてもらいたいのですが、心配で心配で仕方がないのです。私事でみっともないとはわかっているのですが・・・」
「確かに外の世界は危険なことや人で溢れている。だが、いつまでも自分の殻に閉じこもったまま生きていけるやつなんていやしないんだ。生きていれば、必ず外の世界に触れることになる。だったら、いつかは破れる殻を強化するよりも、今の内に外で生きていくための術を習得した方がいいと俺は思う。シルヴィーならきっとすぐに成長できるはずだ。そのことは俺なんかよりもずっとわかってるんじゃないか?」
「・・・そうですね。私ももっとシルヴィー様の将来について深く考えるべきでした」
駆け足気味にシルヴィーを追いかけた俺たちはようやく国王の部屋に到着した。
重い扉を開くと、中ではすでに息を切らしたシルヴィーと国王の二人が向かい合っていた。
「どうしたのだ、シルヴィー」
「・・・お父様、わたくしは剣夜さんのお手伝いをするため、しばらくここには帰ってこないつもりです。もちろん、メイドや護衛をつける必要はありません」
「それは・・・」
「それはやりすぎじゃないか、シルヴィー。家に帰ってくるくらいいいじゃないか」
「いえ。これくらいの覚悟でなければ、守ってもらわなくていいなんて言うことはできません」
急のことに国王は驚くばかりだったが、ようやくシルヴィーの言わんとすることを理解したようで、顎に手を当てながら深く考え込み始めた。
するとここで、ナターリャさんが一歩前に出た。
「差し出がましくて申し訳ございませんが、私からもお願いいたします、オズカール様」
「ナターリャまで・・・」
国王の名前は「オズカール」というのか、と今更ながら婚約者の父親の名前を知らなかった自分に驚いていると、ナターリャさんがさらに歩みを進めた。
「どうかシルヴィー様のことを信じてあげてください。これは剣夜様に気付かせていただいたことですが、守っているだけではシルヴィー様のためにならないのだと」
「ナターリャさん・・・」
「剣夜殿も同じ意見ということかな?」
「その通りだ」
「そうか・・・シルヴィーがここまでの覚悟をしているというのに、止めるようではむしろ親失格なのかもしれんな。わかった。当分はシルヴィーの意志に任せよう。けして無理をしてはならんぞ」
「ありがとうございます、お父様」
これで一件落着か。
しかし、俺も学ぶことがたくさんあった。自分が親になるなんてことは全く想像できないが、将来のためにも覚えておくことにしょう。
「では、早く準備をしてきなさい。剣夜殿を待たせてしまっているだろ」
「はい」
そう言って、シルヴィーはナターリャさんを連れて部屋を出て行った。
俺が二人を追うように部屋を出ようとした間際、オズカールさんが俺に一言だけ声をかけた。
「シルヴィーのことを支えてやってくれ」
言われなくてもそのつもりだ。




