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地獄門使いの異邦人〈エトランジェ〉  作者: 織田昌内
第三章 チェンジリング
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青い小悪魔(一)

気持ちよく覚醒した俺はしばらくの間、隣で熟睡する赤姫を観察した。


地獄の一領主である赤姫は、初めて出会った時は近寄り難い威厳を惜しげも無く醸し出していたというのに、今や巫女服は盛大に乱れ、顔にはよだれの跡が見られる。


可愛さの点では言うことなしなのだろうが、俺は赤姫にそんなものを求めていないような気がしてくる。


神々しさを感じさせたあの時の立ち居振る舞いは確かに俺の心を魅了した。


今は魔力不足でこんな姿だが、すぐ元の姿に戻ってくれるのだろうか。最悪、俺の魔力を使ってでも戻ってもらいたい。


もちろんこの姿が嫌いというわけではないが、こんな姿のままではいけないという妙な焦燥感にかき立てられる。


この気持ちは一体・・・


「う〜ん・・・」


「顔でも洗ってくるか」


寝返りをうつ赤姫に押しのけられる形で俺は立ち上がった。


この宿の朝は早い。食堂を兼ねたロビーは多くの客で賑わっている。


従業員は休む暇もなく料理を運んだり、注文を受けたりしている。


昨日夕食を食べなかったため、さすがに小腹が空いてきた俺は赤姫を起こしにいくことなく朝食をとることにした。


軽めの料理を早々に平らげた俺は自分の部屋に戻り、赤姫が起きたのかを確認するが、寝相のだらしなさが増すばかりで全く目覚める気配がなかった。


無理やり起こすのも悪い気がした俺は白丸を呼び出す。


「俺はエイアブさんのところに行ってくるから、帰ってくるまでこいつを見張っておいてくれ。目を離すとすぐにとんでもないことをしでかしそうだからな」


「わかりました。では、こうするのはどうでしょう・・・」


そう言うと、急に輝き出した白丸の身体から何かが分離するように生え出てきた。それは数秒もしないうちに形あるものへと変わっていった。


「これは・・・白丸か?」


「その通りです。しかし、私よりも数段能力が劣ります」


元の姿よりひとまわり小さいことを除けば瓜二つだ。


「こっちは喋れるのか?」


「喋れます」


確かに喋ったな。


これはなかなか便利な能力じゃないか。索敵や潜入にうってつけだ。


俺は白丸(小)を部屋に留め、本体を剣の中に戻してから宿を出た。


するとそこでシルヴィーと鉢合わせた。


「剣夜さん!おはようございます。間に合ってよかったです。今からお出かけですよね」


「おはよう、シルヴィー」


「あの子はいないのですか?」


シルヴィーは赤姫の姿が見えないことに疑問を抱いたが、ただ単に寝ているだけだと俺が説明すると、すぐに理解してくれた。


「シルヴィーの方こそ、ナターリャさんがいないのは珍しいな」


「それが・・・」


シルヴィーはまるで痛いところを突かれてしまったかのように先ほどまでの快活な笑顔を曇らせた。


俺は無理に話すことはないと伝えたが、シルヴィーはゆっくりとその訳を話し始めた。


「実は、城を出る前に、その・・・ナターリャさんにわがままを言ってしまって・・・」


「わがまま?」


「剣夜さんのお手伝いをするにあたって、できればわたくし一人にして欲しいと・・・」


「なるほど」


「もちろん反対されましたが、そのまま振り切って来てしまいました・・・」


かなり危ないことをするな。


今はドレスを着ていないからお姫様に見えないかもしれないが、シルヴィーの容姿を見れば間違いなく貴族以上の身分であることが誰にでもわかるはずだ。


傭兵なんてものがごろついているこの世界で、女の子が一人でいることは相当リスクの高い行為だ。


ナターリャさんならおそらく、そのことを十分わきまえているだろうから影でこっそり見守ってくれているはずだが、それでもシルヴィーには今の状況がどれほど危険なことなのか理解してもらわねばなるまい。


「シルヴィーの気持ちも尊重してやりたいが、ナターリャさんの気持ちもわかるだろ?シルヴィーの安全のために最大限尽力してくれてるんだ」


「はい・・・」


「だが、俺も相談に乗るから、元気を出してくれ」


「ありがとうございます」


浮かない顔を見せるシルヴィーをなんとか励まそうとする俺だったが、なんと声をかければいいのか正直わからなかった。


独り立ちしようとする子供を持つ親の気持ちはこんな感じなのだろうか。


シルヴィーの意志を尊重するのか、それとも安全を尊重するのか。女の子であるからこそ一層悩ましい問題だ。


俺も将来直面するかもしれない選択だと思うと、対岸の火事というわけにもいかない。


「ナターリャさんが心配してるだろうから、今から王城に戻るか」


「ですが、剣夜さんのお時間を奪うわけにはいきません。わたくし一人で戻ります・・・」


「俺のことは気にしなくいいさ。それに、言っただろ。相談に乗る、ってな」


「剣夜さん・・・ありがとうございます!」


いくらか明るさを取り戻したシルヴィーは俺の腕に勢いよくしがみついた。


喜んでくれたのはありがたいが、俺はこの後ナターリャさんにどう話せばよいのかということで頭がいっぱいだった・・・

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