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地獄門使いの異邦人〈エトランジェ〉  作者: 織田昌内
第三章 チェンジリング
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真夜中の談義(三)

「もう一つ剣夜さんにお話しておきたいことがあるのですが、よろしいでしょうか」


「どうしたんだ?」


「以前、離れた場所から『聖遺物』に触れずに魔法を発動させることができたことを覚えていますか?」


「もちろん」


「その際に発動される魔法の規模がなぜ小さくなるのか疑問に思っていたのですが、今日の研究でとある仮説を立てました」


「仮説?」


「昔からどの本を読んでも、誰に聞いても、魔法の源は『聖遺物』の中にあると言われてきましたが、わたくしは魔法の源は『聖遺物』の中ではなく、わたくしたちの中にあるのではないかと思うのです。だからこそ魔法が使える者、使えない者に別れるのではないかと。剣夜さんはどう思われますか?」


驚いたな。まさか一人でその考えに至るとは。


俺も赤姫の拙い説明を聞いただけで、実際のところはよくわからないが、おそらくそれが正しいのだろう。


もしかすると、魔法を使うときに感じられた身体内を対流するような何かの正体は魔力だったのかもしれない。


「シルヴィーの言っていることは概ね正しいと思う」


「剣夜さんにそう言ってもらうと自信が増します。ですが、「概ね」というのはどういう意味ですか?」


「シルヴィーは、『聖遺物』の中には魔法の源が一切ないように言うが、俺はどうも違うような気がするんだ」


「『聖遺物』の中にも何かがあるということですか?」


「決定的な証拠があるわけじゃないんだが、俺はこのコートから何らかの力が伝わってきているような気がするんだ。これは白い『聖遺物』の特性を持っているかもしれないといわれていただろ」


「このコートはエイアブさんの店で買ったものだったのですか!?ですが、どうしてこんなにも真っ黒くなってしまったのですか?」


驚きの表情を見せながらもシルヴィーは注意深く調べるように俺のコートに触れた。


こうなってしまった時の事情を俺が説明すると、シルヴィーは思いつめたような表情に豹変した。


そしてしばらくの間何かを呟きながら考え込んだと思えば、シルヴィーはほぼ密着していると言ってもよい俺との距離をさらに縮めてきた。


「もしかして、これは黒い『聖遺物』なのでしょうか・・・」


「どういうことだ?」


「剣夜さんは黒い『聖遺物』を見たことがありますか?」


「そういえば、ないな・・・」


「実は、黒色魔法や黒い『聖遺物』は存在しないと言われているのです。そもそも、その存在がほのめかされたのは、遥か昔の大魔導士たちが使っていたと伝えられているからなのです」


そういえば、リーニアも似たようなことを言っていたな。


大魔導士にのみ聖霊が見えて、黒色魔法が使えた。つまり、聖霊が関心を寄せるほどの強大な魔力を持った者のみが黒色魔法を扱えた、というわけだ。


だが、魔法が未確認でも黒い『聖遺物』が発見されていないというのは変な話じゃないか?


まさかその大魔導士たちが使い果たしたということなのか・・・


「『聖遺物』は使いすぎると消滅するという話はあるのか?」


「そういったことは聞いたことがありません。剣夜さんは、黒い『聖遺物』は全て使い果たされてしまったとお考えですか?」


「その可能性もないことはないが、地上から地中に至るまでの世界中全ての黒い『聖遺物』を使い切ることなんて現実的に可能だと思うか?」


「確かに・・・となると、黒い『聖遺物』はもともと自然の中には存在しない、ということでしょうか?」


「それなんだが・・・シルヴィーがこのコートを黒い『聖遺物』と言ったことで思いついたんだが、全ての黒い『聖遺物』は白い『聖遺物』から生じるんじゃないか?」


「!?」


俺も半信半疑の仮説だが、このコートを見る限りではそれ以外に考えられない。


上級魔法の『テクトニズム』を使ったことで俺の内に潜んでいた大量の魔力が表に湧き上がり、それをこのコートが吸収した。


初級魔法の『シンティラ』を使った時に変化がなかったのは、黒くなるのに必要な魔力が足りなかったからなのかもしれない。


「この場に白い『聖遺物』があれば実証できたかもしれないんだが・・・」


「わたくしも持ち合わせがありません。学校にならいくつか置いてあるので、時間が空いた時にでも確認してみましょう」


「研究棟にもないのか?」


「白い『聖遺物』の個人所有は聖教会によって固く禁止されているため、わたくしも学校でしか扱うことが許されていません」


「聖教会ってのはなんだ?」


「・・・ご冗談ですよね?」


シルヴィーは呆然とした表情を浮かるだけで俺の質問になかなか答えようとしない。


今まで俺の様々な質問に快く答えてくれたが、今回はそれほどまでに自明だということなのか?


「悪いな。俺は世間知らずなんだ」


「例えそうだとしても、聖教会を知らないというのはあまりにも大胆といいますか、剣夜さんらしいといいますか・・・」


シルヴィーは依然として困惑した様子で俺を見つめる。


「俺らしい」とは一体どういうことなのか問い詰めたいところだが、ひとまずこの話はこの辺りでお開きとするか。


さすがにシルヴィーも眠そうな表情を隠しきれなくなっている。


ふとナターリャさんの方に目を向けると、そろそろシリヴィーが限界だろうということを伝えようとしている気がした。


「とりあえず今回の話はここまでとしよう。俺もそろそろ限界だ。続きは明日でいいだろ?」


「そうですね。シルヴィー様、帰りますよ」


「ですが・・・」


リーニアの時と同様、なかなか引き下がろうとしないシルヴィーはナターリャさんに引っ張られる形で俺の部屋から出た。


「・・・おやすみなさない、剣夜さん。明日朝一にまた伺いますね」


「ああ。おやすみ、シルヴィー」


そう言って、二人を見送った俺は我が物顔でベッドを独占する赤姫を脇に寄せ、彼女の隣に寝転んだ。

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