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地獄門使いの異邦人〈エトランジェ〉  作者: 織田昌内
第三章 チェンジリング
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真夜中の談義(二)

結局リーニアの同意を得られないまま、俺たちはオルドックス家の屋敷にたどり着いた。


門の前には見慣れない二人の男が槍を構えながら両脇に直立していたが、リーニアの姿を確認した二人は扉を開き、快く迎え入れてくれた。門番を雇ったわけか。


さすがにオルドックス夫妻は寝てしまっているだろうと思ったが、屋敷の扉をゆっくり開くと、まだ明かりがついているのがすぐにわかった。


そしてすぐにメイド服の女性が現れる。


「おかえりなさいませ、リーニア様」


「メレオラさん!戻ってきてくれたのですか!?」


「もちろんです。私がオルドックス家に、どれほど献身的にお仕えしてきたとお思いですか。それとも、私がお嬢様方を簡単に見限るような薄情者だと思っていたのですか・・・はぁ、そうですよね・・・所詮私はお嬢様方を追いかけるほどの度胸はありませんでしたよ・・・」


明るく出迎えてくれたと思えば、メレオラさんは一人で勝手に落ち込み始めた。


えらくネガティブな人のようだ。リーニアとは正反対だな。


しかし、さすがは貴族のメイドをしているだけあって、メレオラさんは気持ちをすぐに切り替えた。


「すぐにお風呂を沸かしますが、ご夕飯はどうされますか?」


「別にお腹はすい・・・ぐぅ〜・・・ち、違いますわよ、剣夜様!」


リーニアは必死になってごまかそうとするが、聞こえてしまったものはどうすることもできない。


メレオラさんはお淑やかに微笑んでいるだけのようだが、どこか笑いを堪えているようにも見える。


「・・・ではすぐにご用意させていただきますね。剣夜様はどういたしますか?」


「ん、俺か?俺は特に問題ないが・・・赤姫はどうだ?」


「んん・・・」


振り返ってみれば、赤姫は目をこすりながら非常に眠そうな声を上げる。


外見通り夜はあまり長くないようだ。


それに、今日は赤姫にとって初めてのことがたくさんあったからな、疲れてしまうのも無理はないか。


俺はいまにも倒れそうな赤姫をリーニアの時と同じようにおんぶしようしたが、背中に赤姫が触れることのできない聖剣が装備されていることに気付き、仕方なく腕で抱きかかえる事にした。


やはり軽いな。


「こいつを早く寝かせないといけないんで、俺は帰らさせてもらうよ」


「ここに泊まっていくのがよいと思いますわ」


「お嬢様。それにはオルドックス家の当主でいらっしゃるウェイン様の許可が必要です。しかし、夫妻はともに就寝していらっしゃるため、認められません」


「でしたら、私が・・・」


「諦めてください、お嬢様」


なかなか諦めようとしないリーニアはメレオラさんに半ば強引に奥へと引っ張られて行く。


「おやすみ、リーニア」


「明日もお会いできますわよね!」


「もちろん」


俺の言葉を聞いたリーニアは、安心した様子で一人奥の部屋へと向かって行った。


これで俺もようやく宿に戻れそうだ。


気持ち良さそうに眠る赤姫の寝顔を見ているうちに俺も睡魔に負けてしまいそうになるが、もう少しの辛抱だと思いながら俺は宿に戻った。


「おかえり。遅かったね」


「まだ起きてたのか?」


「なんだか眠れなくてね。それより、早く部屋に戻ったほうがいいよ」


「なぜだ?」


「それは行ってからのお楽しみだね」


女主人は不敵な笑みを浮かべながら俺のことをジロジロと眺めてくる。


まあ、言われなくても早く行くがな。


彼女の言わんとすることに疑問を抱きながら二階に上がると、俺は自分の部屋の前で立ち止まった。


扉を開けるために赤姫を片手で持ち直していると、なんと扉の方から開いてくれた。


驚きながらもぶつからないように一歩下がると、中から背の低い影が一つ、俺に向かって突進してきた。


「剣夜さん!」


「シルヴィー・・・どうしてここに」


「心配しましたよ。こんなに遅くなるのなら、わたくしに一言あってもいいと思いますが・・・それはなんですか、剣夜さん?」


「これは人だが・・・」


「それはわかりますが、どうして・・・まさか、剣夜さん。攫ってきて・・・」


「それはない。こいつは知り合いだよ。仕事の途中にたまたま会ったんだ」


「親御さんは・・・」


「・・・とりあえず、中に入らないか?」


シルヴィーの顔が徐々に険しくなっていく一方で、このままでは朝までここに立ち尽くしていそうだと思った俺は無理やり話を中断した。


シルヴィーはしょうがないといった様子で部屋の中に入った後、「どうぞ」と俺に入ってくるよう促した。


一応ここは俺の部屋なんだが・・・


中にはシルヴィー専属のメイドであるナターリャさんが部屋の隅に控えていた。


とりあえず俺は抱えていた赤姫をベッドの上に寝かせた。


俺もかなり疲れているため、ベッドの空いたところに腰を下ろすと、シルヴィーはごく自然に俺の隣に座った。


決して怒っているわけではないと思うが、シルヴィーの眼差しは一貫して鋭い。


「では、話の続きに参りましょう」


「続きと言われても・・・こいつは遠い場所から来たんで、この辺りに知り合いは俺しかいないんだ。赤姫っていうんだが・・・」


「赤姫?それは以前、剣夜さんがおっしゃっていた黒馬の飼い主という・・・」


「そういえば、この前話したばかりだったか。まあ、つまりそういうことだ」


「そうですか・・・」


俺が頑なに話をしたがらないことを察したのか、シルヴィーは諦めた様子でこれ以上は追求してこなかった。


全てを打ち明けてやりたいのはやまやまだが、その辺りは明日、赤姫と相談してみるか。


「それで、シルヴィーはどうなんだ?」


「えっ?」


「俺に話したいことがあるから待っていたんだろ」


「そうですが、剣夜さんはもうお疲れでは・・・」


「俺は大丈夫だ。それに、長い時間待たせてしまった俺が悪いしな。思う存分話してくれ」


「ありがとうございます。実は剣夜さんにお願いがありまして・・・明日からはわたくしも剣夜さんのお手伝いをさせていただきたいのです」


「シルヴィーは学校があるんじゃないのか?」


「それは問題ありません。今日卒業してきましたので」


なんだそれは。そんな簡単に卒業することが許されるのか?


そういえば、シルヴィーはすでに卒業要項を満たしているとか言っていたな。


「そんなあっさりやめていいのか?学校にだって楽しいことはあるだろ」


「それもそうですが、わたくしは剣夜さんの婚約者として早くお力になりたいのです。それに、リーニアだけずるいですよ・・・」


後半はよく聞き取れなかったが、シルヴィーがそれなりの覚悟をもって学校をやめるという選択をしたのだということは伝わってきた。


ただ、卒業資格を持っているからといって好き勝手に卒業してもいいのだろうか。


学校は決して与えられた課題を淡々とこなしていくためだけの場所ではないからな。


親友を作るまでに至らなくとも、同級生と関わることで心身ともに成長することができるだろうし、大人になってからは決して得られないような経験をすることができる。


先走りたい気持ちもわからなくはないが、悩む時間はそれなりにあっても良いと思うんだがな・・・


「まあ、過ぎたことをとやかく言っても仕方がないか。だが次から、こういった大事なことは俺にも相談してくれ」


「わかりました。剣夜さんも、ですからね」


抜け目がない・・・

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