無形の襲撃者(六)
「・・・ぅん・・・ここは・・・」
「身体は平気か、リーニア?」
「剣夜様・・・あっ!」
リーニアの顔色を確かめるために軽く振り返ると、危うくリーニアの顔とぶつかってしまいそうになった。
俺が至近距離からまじまじと見つめてしまったためか、リーニアの顔は火山が噴火したような勢いで真っ赤に染まった。
「大丈夫か?」
「ど、どうして私が剣夜様にお、おんぶをされているのでしょう!?」
「ああ、悪い」
リーニアの言葉を聞くとすぐに、俺はゆっくりと膝をおとしながら彼女を地面に下ろした。
まだ聖霊の術の後遺症があるかもしれないため、俺はリーニアが倒れてしまわないように彼女の体に軽く手を添えた。
やはり十五歳ともなると、おんぶは恥ずかしいよな・・・
すると、リーニアは困惑から一転、絶望するような表情を浮かべた。
「・・・どうして、おろしてしまうのですか?」
「おんぶなんて子供っぽくて嫌だろ。それとも、まだうまく立てないか?」
「だ、大丈夫ですわ!」
リーニアは俺の手を払うようにしながらそっぽを向いてしまった。
今日はよく不機嫌になるな・・・
「それで、どうして私をおぶっていたのですか?」
「それは、きっとリーニアがもう疲れていて・・・」
「剣夜様」
まあ、誤魔化すのは無理か・・・
リーニアは頬を膨らませながら俺との距離を詰めてくる。
さっきはあんなにも恥ずかしがっていたというのに、こういったことになるとリーニアはまっすぐにくまなき瞳を向けてくる。
こればかりは俺も逆らうことができない。しかし、聖霊のことを説明するのは気がひける。
リーニアにどう説明したものかと悩んでいたところ、コートの裾が引っ張られる。
「なあ、剣夜。結局あの聖霊どもは何がしたかったんじゃ?」
「お、おい」
「今聖霊って言いましたか、赤姫ちゃん!?」
「えっ、あの・・・」
一日目にしてすでに恒例行事となりつつあるようにおしゃべりな赤姫の口を塞ごうとすると、今まで見たことがないような興奮を見せながらリーニアは赤姫に迫っていた。
一方の迫られる赤姫は急におどおどし始めたと思えば、隠れるように俺の背中へ回った。
これだけ人見知りだと、赤姫の話し相手を探すのも前途多難だ。というか、さっきまでの大胆不敵な態度はどこへいったのやら・・・
「聖霊を知っているのか、リーニア」
「知っているといいますか、書物で読んだことがあるだけですわ。伝説の大魔導士たちだけが見えたという不思議な力を持った存在だと」
「なるほど・・・いつも人間界にいる聖霊の存在は認知されているというわけか」
「どういうことですか?」
「いや、なんでもない。それより、リーニアは聖霊について他に何か知らないか?」
「そう言われましても、聖霊を見たと言われる大魔導士達が存命だったのは遠い昔の話ですし、最近見られたという報告も全くされていませんので、そもそも聖霊が本当に存在していたかどうかも怪しいと言われていますわ」
聖霊は『天国領』で転生するのにふさわしい精神や肉体を持った人間を選別する。
つまり、大きな力を持っていたと思われる大魔導士とやらに聖霊が見えたというのはあながち間違ったことではない。
だがそれだけでは最近になって聖霊が見られなくなった説明にはならない。ただ単に優秀な魔法使いが現れなくなったというだけのことかもしれないが・・・
「とりあえず、この話は街に戻ってからだな」
「そうですわね」
俺は早速『ゲート』から黒馬を呼び出すと、依然として俺の背中にしがみつく赤姫を持ち上げ、黒馬に乗せた。
その後、白丸から受け取った剣を背中に装備し、俺とリーニアも素早く乗馬した。
「王都に着くのは真夜中になりそうだな。疲れたらいつでも言っていいからな、リーニア」
「私は大丈夫ですわ!」
「なぜ儂には聞かぬのじゃ?」
「悪い、悪い」
不満げな表情を浮かべる赤姫の頭を軽く撫でつつ、俺は巫女服についていた埃を払ってやった。
ありがとな・・・




