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地獄門使いの異邦人〈エトランジェ〉  作者: 織田昌内
第三章 チェンジリング
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無形の襲撃者(一)

「大きな都市ですわね。王都ブルーゲもかなり大きい方だと思っていましたが、ここはそれ以上ですわ・・・」


そんな驚きの声を上げるリーニアに共感しつつ、俺は帝都の町並みにくまなく目をやった。


帝都イリンゼンは王都同様に大中小、様々な建物がひしめき合っている中、多くの人で賑わいを見せている。


キョロキョロ辺りを見渡す俺の真似をしてなのか、赤姫もわざとらしく手をかざしながら首を横に振っていた。


赤姫にはあまり目立つようなことをしないでもらいたいんだがな。街中を闊歩しているだけでも、この世界では全く見られない巫女装束を着た美少女というのは目立ってしまうのだから。


まあ、どれもこれも赤姫にとっては初体験だろうからな、多めに見てやるか。


かくいう俺も、この黒光りするコートで衆目を集めてしまっている・・・


「剣夜様、あそこのお店はどうでしょう?いい匂いがしますわ」


「そうだな」


リーニアに言われるがまま、俺たちはとある食堂に足を踏み入れた。


お昼時はとっくに過ぎているためか、中にはそれほど人がおらず、三人分の席はすぐに確保できた。


壁に書かれたメニューの中から無難な料理を注文し、待つこと五分・・・


「お待ちどう!」


元気なウェイトレスが運んできた三種類の料理を俺たちはそれぞれ味わった。


この世界の料理はなかなかいける。肉はそれなりに柔らかく、野菜もシャキシャキとしている。


初めは怪訝な様子の赤姫だったが、俺が美味しそうに食べる姿を見て、ゆっくりと自分の料理を口に運ぼうとした。しかし、鷲掴みにしたスプーンやフォークからは料理の三分の一がこぼれてしまっている。


「おいおい。きれいな服を汚すなよ」


俺はそう言いながら、手頃な布巾をよだれかけのようにして赤姫に装備してやった。


幼児の世話は大変だ・・・


そんな俺の苦労に労いの言葉もかけず、赤姫はがむしゃらに料理を頬張っていた。


「おお、うまいのう!味覚を働かせたのはいつ以来か・・・」


「赤姫ちゃんはそんなにひもじい生活をしていたのですか?」


そういうことじゃないんだが・・・


「おい、お主。儂の名を軽々しく呼ぶでないぞ。それにちゃん付けも禁止じゃ!」


「剣夜様はいいのですか?」


「まあ、剣夜がくれた名前じゃからのう・・・」


「えっ?」


・・・もうこいつはダメかもしれない。


さっさと全てをリーニアに暴露して楽になりたかったが、俺はその気持ちをぐっと抑え、姑息療法的な言い訳を並べた。


「「赤姫」というのはあだ名なんだ。ちなみに、こいつの本名は長ったらしいから、聞くだけ損だぞ」


「そうでしたか・・・」


「それと、赤姫。名前を呼ぶくらいは許してやれ。さもなくば、話し相手を失っていくぞ」


「むぅ・・・」


赤姫は俺の言葉を聞き流しながら黙々と食事を続ける。ちゃんとわかってるのか、こいつは?


俺は赤姫を一睨みしつつ、自分の料理を平らげた。


十分ほどで食事を終わらせ、店を出た俺たちは早速鉱脈についての情報を探すことにした。


どうやって情報を集めようかリーニアと相談しつつ、街中を歩き回っていると、俺は本屋らしき建物を発見した。


王都にもあったかもしれないが、ここで調べてみるか。


俺はリーニアと赤姫を引き連れながら古びた建物に入った。


中に入った俺は、眼前に広がる無数の本棚や所狭しと積まれていた本に圧倒された。


この中から探すのはかなり骨が折れそうだ・・・


奥のカウンターに座っていた店長に聞いてみたものの、一つ一つの本の場所など覚えているわけがないと言われてしまった。なんと適当な・・・


仕方なく、俺たちは手分けをして役立ちそうな本を探すことにした。この辺りの地形図でもあればいいんだが。


「リーニアは一階を頼む。俺たちは二階にいくぞ、赤姫」


「わかりましたわ」


「儂もやるのか?」


「・・・」


確かにこれは俺の仕事だが、そういうことじゃないだろ。


俺は赤姫を無理やり引っ張りながら、二階へと続く階段に向かった。


急な階段を登るため上を見上げると、そこには巨大な本の塊が浮いていた・・・もちろんそんなことはなく、下の方には申し訳ない程度に小さな手が添えられている。


あんな弱々しい手でよく持てるな。


「・・・おっと、と・・・」


「・・・手を貸そうか?」


「あら、ありがとう。でも、大丈夫よ」


声の主は危うく本を落としそうにしながらも器用に階段を降りてきたため、俺たちは道を譲った。


すれ違いざまに顔が見えるかと思ったのだが、俺が確認できたのは少女のものと思えるような長く伸びた髪の毛だけだった。


透き通るような空色に染まった彼女の髪の毛からはどこか浮世離れしたような雰囲気が感じられる。


俺より少し低いくらいの彼女の後ろ姿に見入っていると、彼女も少しばかり足を止めた。


「あなたの背中・・・」


「背中?」


「・・・いえ、なんでもないわ」


何かを言いかけた彼女は決して振り向かないまま、カウンターの方へと向かって行ってしまったため、俺は特に気に止めることもなく階段を登った。


二階にも溢れんばかりの本が敷き詰められており、これまた探し出すのに骨が折れそうだ。


まあ、二階に来たのは赤姫と二人きりになるためでもあるんだが。


「さあ、他に人もいないようだし、色々喋ってもらうぞ、赤姫」


「なんじゃ。儂だって聞きたいことがあるというのに・・・」


「俺と別れてからのことを教えてくれればいいさ」


「そうじゃのう・・・」

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