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地獄門使いの異邦人〈エトランジェ〉  作者: 織田昌内
第二章 芳しき乙女たち
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小さな再会(二)

「驚くなよ、リーニア」


「えっ・・・」


一応の断りを入れつつ、俺は白丸に念話を送った。すると、背中のあたりが少しだけ光るのを感じるや否や、俺たちの前に相変わらず小さな銀狼が現れた。


その姿を見たリーニアは驚きを隠すことができず、さらにちょっとした嫌悪感をにじませているようだった。なんとか納得してもらうため、俺はリーニアに大雑把な経緯を説明した。


「・・・というわけで、仲良くしてくれとは言わないが、白丸をなんとか認めてくれないか?白丸も謝っておけ」


「申し訳ありませぬ」


「・・・わかりましたわ。剣夜様がおっしゃるのなら、致し方ありません」


リーニアはいまだ納得しきれていない様子だが、ここは白丸の力が必要だ。帰ったらシルヴィーにも話さなくてはならないのだろう。


「それで、白丸ちゃんをどのように使うのですか?」


「白丸ちゃん!?我をちゃん付けするなど・・・」


「ここは黙っておけ、白丸」


「・・・わかりました」


「白丸には洞窟内を探索し、中の状況を俺に伝えてもらう。敵の全貌が明らかになったら、白丸の能力を使いつつ女性を救出し、一気に撤退する。これでいいだろ」


リーニアと白丸に俺の作戦を理解してもらった後、俺たちは早速洞窟に近付いた。


洞窟内に入って行った白丸は逐一俺に念話を送ってくる。内部はそれほど複雑な構造になっているわけではないようで、白丸はすぐに男たちの声を感知した。


「男が五人、女が一人です。女の方は身動きが取れないようです。どうしますか?」


「『雪隠れ』で撹乱を頼む。男たちが洞窟の外に出てきたら、俺がなんとかしよう」


白丸に念話で指示した後、リーニアに戦う準備を促すと、彼女はレイピアを構えつつ、『聖遺物』を左手で握りしめた。俺も『聖遺物』の準備をし、洞窟の前に陣取る。


しばらくすると、洞窟の奥から男たちの悲鳴が聞こえてくる。白丸が派手にやっているのだろう。


野太い絶叫が次第に大きくなってくるのを感じ取った俺は聖文を唱え始める。使うのはもちろん『シンティラ』だ。ここで『エクスプロージョン』を使うほど頭のネジは飛んでいない。


「どうなってんだ!?どうして急に吹雪いてくんだよ!」


「俺が知るか!」


「女はどうした!」


「そんなこと気にしてる場合じゃねぇぞ!なんかヤバいもんがいる!」


「ありゃ、化け物だ!って、ぎゃあー!」


一番に飛び出してきた男めがけて放った魔法は、豪快な音と火花を散らしながら男の足に命中した。


男はそのまま悲鳴をあげながら崩れ落ち、悶え始めた。あまり少女に見せられるものではない。


「どうした!」


「外に誰かいるぞ!」


「あいつがやったのか!」


「構うな!やっちまえ!」


次から次へと飛び出してきた男たちは俺めがけて突進してくるが、洞窟から十分に距離を取っていた俺の元に辿り着くよりも先に俺の放った魔法の餌食となっていく。


いたって単調的な動きしかしない彼らに魔法を当てることは非常に容易かった。


しかし、聖文の詠唱は長ったらしいな・・・


「さすが剣夜様です。全部片付けてしまったのですか?」


「おそらくな。早く女性を解放しにいこうか」


そう言って、倒れる男たちを避けながら洞窟に近付くと、中から新たな影が現れた。俺は一瞬身構えてしまうが、それが女性であると認識すると、警戒を解いた。その後ろには白丸もついてきている。


「剣夜殿、女を縛っていた縄をちぎっておきました」


「お疲れ」


「あの・・・これは一体?」


「こいつらはあんたを攫った、間違いないか?」


「はい・・・」


「なら、今すぐ逃げた方がいい。こいつらに追いかける力はもうないだろうが」


「あ、ありがとうございます!」


二十代半ばといったところで、質素な服を着た女性は足早に去って行った。


そういえば、この近くに村があるんだったか。そこに住んでいるのだろうか。


そんなことを考えつつ、俺は倒れる男たちに近付いた。


「お前たちに与えられた選択肢は二つ。このまま放置されるか、あの世に送られるかだ」


「ふ、ふざけるな!」


「そうだ!俺たちにこんなことしておいて、頭領が黙ってないぞ!」


頭領?まさか、もう一人いるのか・・・


「きゃー!」


悲鳴が聞こえた。女性が逃げて行った方に目を向けると、こちらに戻ってくる彼女ともう一人、大柄のいかつい男が向かってくる。あいつが頭領か?


「どうして女が逃げ出してる!そこのお前!お前がやったのか!」


「リーニア、女性の方を頼む。あいつは俺に任せろ」


「わかりましたわ」


追いかけてくる男を辛うじて振り切った女性はリーニアに任せ、俺は男の方へと剣を鋭く伸ばした。太陽の光を反射しながらキラキラと輝く刀身には一点の曇りもない。


「確かにこいつらは俺が倒した。で、お前が頭領だな」


「おのれ・・・タダで済むと思うなよ!」


話をする気など全くないようで、男は勢いよく突進してくる。


見た目の割に俊敏な動きを見せる男は、大きな斧を軽々と掲げ、獰猛な野獣のごとく大声をあげている。だが、俺は決して動かない。剣先を男に向けたまま俺は頃合いを見計らった。そして・・・


「何つったんてんだ!びびっちまったか!」


「白丸」


「はい」


「『雪隠れ』」


俺の掛け声に素早く反応した白丸は姿を消した。そして、剣先から放たれる激しい吹雪が目の前の男に直撃した。


その勢いは次第に増していき、男の姿がとうとう視認できなくなってしまった。


これでは、“隠している”のは俺ではなく、敵の方になる。なんだか想像していたのと違うな・・・


「敵の姿が見えなくなったぞ」


「姿を見ようとするのではなく、相手の体温や震えを感じ取るのがコツです」


そう言われてもな・・・


俺は言われた通り、目ではなく肌に神経を集中させた。すると、次第にモヤッとした何かを感じとるようになり、それらの情報を統合していくと、男の姿がくっきりと現れてくる。サーモグラフィーのような感じだ。


それより、あいつ完全に凍ってないか?


「もう止めていいぞ」


吹雪が次第に収まっていくと、目の前に大きな雪だるまが出現した。もちろん丸い形にはなっておらず、どちらかといえば、スノーモンスターに近い。


俺は雪の怪物に近づき、雪を払っていく。すると、中から完全な氷漬けとなってしまった男の姿が現れた。動き出す気配が全くない。


「死んだのか?」


「まだ生きておりますが、このままでは十分ともたないでしょう」


さすがに殺してしまうのはまずいと悟った俺だったが、後始末は他の山賊たちにやってもらうことにした。手当てをする義理はないしな。


「後はお前たちがなんとかしろ。それと、二度と人攫いなどするな。次は容赦しないからな」


「ヒィー!」


俺の鋭い眼光を浴びた男たちはそそくさと立ち上がり、頭領を抱えつつこの場を去ろうとした。


足をやられているからなのか、冷たいからなのか、何度か頭領を落としながら走り去っていく男たちの姿が見えなくなるのを確認した俺は、リーニアたちと合流した。

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