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地獄門使いの異邦人〈エトランジェ〉  作者: 織田昌内
第二章 芳しき乙女たち
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小さな再会(一)

俺たちは今、王都近くの森の中にいる。


ここでなら人目を気にすることなく『ゲート』を開くことができるからだ。


俺はエイアブさんに教えてもらった鉱脈が見つかりそうな場所を片っ端から掘り起こすため、黒馬で移動することにした。これなら一日だけでも、かなり多くの場所を回れるはずだ。


念じるままに『ゲート』から現れた黒馬に俺はまたがる。そして、同じように俺の後ろに乗り込む少女が一人。


「準備はいいか、リーニア?」


「大丈夫ですわ!」


なんのためらいもなく俺の背中に強くしがみついたリーニアからの快活な声を聞き、俺は黒馬を飛翔させた。


最初の目的地は、サマルティス王国とその南方に位置するカヴァルーナ帝国との国境付近だ。エイアブさんに持たされた地図を見る限り、片道およそ三時間といったところか。


「楽しみですわね、剣夜様!」


「そうだな・・・」


そもそも、どうして俺がリーニアと二人きりなのかというと・・・


今朝早くから俺はオルドックス家を訪問していた。


依然として守衛のいない門を開き、中に立ち入ると、そこには一人剣を振るうリーニアの姿があった。


一生懸命に稽古をするリーニアの姿を微笑ましく眺めていると、一区切りついたところで彼女は俺の姿に気がついた。


「剣夜様!?いつから・・・」


「ついさっきな・・・ところで、リーニアはその大振りを直した方がいいと思うぞ。隙だらけになるからな」


「あ、ありがとうございます!」


俺に剣術のアドバイスなんてできたのか?まあ、リーニアも喜んでいるようだし構わないか・・・


しばらくリーニアの剣術の手解きをしていたところ、屋敷からセルマさんが出てきた。朝食の準備ができたことを伝えにきたようだ。


「リーニア、ご飯ができたわよ・・・剣夜さん、いらしていたのですか?」


「勝手に入って悪かったか?」


「いえいえ。それより、どうですか?朝食をご一緒にでも」


「そういうつもりで来たわけじゃないんだが・・・」


「是非、一緒に食べましょう!」


俺は結局、リーニアに半ば強引に引っ張られるような形でオルドックス一家と朝食をとることになった。


ダイニングルームには縦長のテーブルが一つ置かれており、家長のウェインさんは当然のごとく上座に座っている。俺はリーニアに勧められるまま、彼女の正面に座った。


「おお、剣夜殿!こんな朝早くからどうされたのかな?もしや、リーニアとの結婚を決めてくれたのか!?」


「そんなわけないでしょ、お父さん!」


「いや、それは当たらずとも遠からずといったところで・・・」


「えっ・・・」


頭をかきながら言葉を濁す俺の態度を見たリーニアは、何を思ったのか、急に顔を赤らめ、俯いてしまった。一方、ウェインさんはセルマさんが運んできた料理そっちのけで俺の方を凝視してくる。


「では、リーニアとの結婚を・・・」


「そうではないんだ。知っていると思うが、俺はシルヴィーと婚約している。だが、俺にまだ結婚する意思はない。そこで、これはシルヴィーの提案でもあるんだが、リーニアとの関係は婚約までに留めてくれないか?もちろん、身勝手なことはわかって・・・」


「そ、それで構いませんわ!」


急に立ち上がったリーニアは俺の言葉を遮るようにしてそう言い放った。


「そうだな。前向きに考えてくれるというだけでありがたい。そもそも、姫様の婚約者相手にずけずけと頼みすぎたのかもしれんしな。剣夜殿、リーニアの婚約者としてこれからもよろしく頼みます」


真剣な面持ちに変わったウェインさんは深く頭を下げた。


こうして俺は二日で二度の婚約を成立させたのだった。赤姫が知ったら一体どんな反応をするのやら・・・


セルマさんが用意してくれた朝食を堪能した俺はその後、シルヴィーに結果を報告するため王城に向かうことにしたのだが、その際、婚約者なのだからとリーニアも付いてくることになった。


今日は仕事で遠出するとリーニアに伝えるも、「お任せください!」という元気のよい一言で片付けられてしまった。


リーニアのこういうまっすぐというか素直なところを俺は好ましく思っているのかもしれない・・・


かくして王城についた俺たちはシルヴィーに会えるかどうかを衛兵に尋ねたのだが、なんと彼女はすでに学校に行ってしまっていた。リーニアは行かなくても良かったのかと疑問に思ったが、彼女はオルドックス家が追放された際に退学したという。


「復学しなくていいのか?」


「学校で学ぶことも楽しかったのですが、今は剣夜様と一緒にいる方が何倍も楽しく、そして驚きの連続ですわ!」


そういうものなのだろうか・・・


俺はとりあえずシルヴィーへの伝言を頼みつつ、城を後にした。


その後、エイアブさんの店を尋ね、地図をもらうなど仕事をする上での説明を受けた。こうして、今に至るというわけだ。


飛行し続けること三時間、俺たちは目的の場所に到着した。


標高が比較的高いためなのか、樹木はほとんど生えておらず、ゴツゴツとした白い岩肌だけがあたり一面を覆っている。この辺りで『聖遺物』が採れるかもしれないのだが、果たしてどのように探そうか・・・


手分けしてあたりを見渡していた俺たちだったが、リーニアがすぐに何かを発見した。


「剣夜様、あちらに洞窟のようなものがありますわ」


「すでに誰かが掘り当てたのか?」


中に入って確かめることにした俺たちが洞窟に近付こうとしたその時、中から二人の男が現れたため、俺はとっさにリーニアを引っ張り寄せながら岩陰に隠れた。


「こ、これは!?」


「シッ」


動揺するリーニアを黙らせつつ、俺は男たちの方に目を向ける。


一目で山賊のイメージとピッタリ符合するような荒々しい格好をし、右手に斧を持ったその二人は何かよこしまな会話をしていた。なんとか聞き取ろうと俺は耳の方に神経をとがらせる。


「・・・へへっ、今回はいくらになるかねぇ。かなりの上物だぞ」


「あの貴族様は羽振りがいいから、金貨200枚はくだらねぇな」


「だったら、もう少し攫ってくるかぁ?俺たちの分け前が増えるぞ」


「そうだな。近くに小さな村が一つあるようだし、あの女に吐かせれば正確な場所もわかるだろう」


「決まりだな・・・」


男たちは会話をしながら再び洞窟の中へ戻っていく。二人の姿が見えなくなったのを確認した俺は、いつの間にか抱きしめていたリーニアを解放した。


「悪かったな」


「べ、別に、私は構いませんわ!こ、婚約者ですし・・・」


顔を真っ赤にしたリーニアの声はしぼんでいく。


腕を組んだまま明後日の方を向くリーニアはそっとしておきつつ、俺は先ほどの会話を反芻した。


おそらく彼らは人攫いの類だろう。この世界でどれほど行われているかはわからないが、俺は仕事初日でかなりの大穴を引いてしまったようだ。


ここは一旦撤収だな。リーニアを危険な目に遭わせるわけにもいかない。ただ・・・


「それで、剣夜様。先ほどの人たちは?」


「おそらく人攫いだろう。聞いたことから判断すると、あの洞窟の奥にあいつらが攫った女性が一人いるようだ」


「早く助けませんと!」


まあ、こうなるか。リーニアの性格を考えれば、「助ける」の一択しかないことは最初からわかっていた。


ただ、今回ばかりは危険すぎる。第一に、敵が何人いるかもわからないうちは下手に動くことができない。だが、このまま悩んでいるうちに、攫われた女性の身に危害が及ぶかもしれない。


「ここは俺が・・・」


「絶対に剣夜様一人だけでは行かせませんわよ!足手まとい扱いはもうこりごりですわ!」


引いてくれる様子は皆無だな。


となると、あいつを使ってみるか・・・

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