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地獄門使いの異邦人〈エトランジェ〉  作者: 織田昌内
第二章 芳しき乙女たち
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芳しき乙女たち(六)

「お父さん、それって・・・」


「それは、剣夜さんをオルドックス家の婿養子として迎え入れるということよ。つまり、リーニア、あなたと剣夜さんが結婚するということね」


「結婚!?」


「ダメですよ、ウェインさん、セルマさん。ダメですよ・・・」


リーニアがこの上なく驚いている一方で、シルヴィーは静かな声で夫妻を制した。彼女の清々しい微笑みに一同おののいてしまう。


「そうか、すでに姫様のお手つきであったか。だが、剣夜殿。リーニアは二番目でも構わぬから、オルドックス家の世継ぎについてよくお考えになって・・・」


「お父さん!」


「ウェインさん?」


「・・・申し訳ない」


身を乗り出しながら小さな声で俺との話を進めようとしたウェインさんは少女二人の圧力に恐縮してしまった。


で、俺は結局どうすればいいんだ?そもそも、17歳の青年が15歳の少女と結婚なんて、日本人の感覚からすればおかしな話どころではない。完全に犯罪だろ・・・


「まあ、その、なんだ・・・この話の続きはまた機会を改めてからにしないか?家族揃って積もる話もあるだろうし」


「そうですわね・・・」


すっかり気が動転してしまい、俯いてこちらに顔を向けてくれないリーニアは曖昧な返事をした。


この上なく気まずい雰囲気からいち早く退散したかった俺は、夫妻に挨拶をしつつ、シルヴィーとナターリャさんと一緒にそそくさとオルドックス家を後にした。


今夜俺が宿泊する宿に向かう道中、シルヴィーは答えをせかすようにしながら俺への質問を重ねた。


「リーニアと結婚するのですか?」


「その話はまた今度にしないか?」


「剣夜さん!わたくしはこれでも不安で不安でしょうがないのですよ?」


「シルヴィーを心配させたいわけじゃないんだが・・・」


「でしたら、リーニアと結婚したいのかどうかだけでも、お答えしてはもらえないでしょうか。こ、婚約者として、知る権利があると思います!」


シルヴィーは顔を急に赤くしながら大声を出した。ただでさえ人並外れた可愛らしさで衆目を集めてしまっているというのに、それ以上に周りの人たちが、なんだなんだとこちらに視線を向けてきている。彼らには俺たちが痴話喧嘩をしているように見えてしまっているのだろう・・・


というか、シルヴィーとの婚約はもう決まりなのか?


「俺はまだ結婚するつもりはないよ。それは、リーニアともシルヴィーとも、ということだ」


「それで、剣夜さんはリーニアと結婚したいのですか、したくないのですか?これをはっきりさせるまでは絶対に離しませんからね!」


そう言いながら、シルヴィーは俺の腕に自分の腕を絡ませてくる。同じ女子でも、誰かさんとは違ってうまくごまかされないか・・・誰かって、誰だ?


女の子特有の柔らかい感触に我を失いかけてしまいそうになる俺は、一旦立ち止まってからシルヴィーと向かい合った。


「シルヴィー、聞いてくれ。俺はシルヴィーやリーニアのことを好ましく想っている。ただ、それと結婚するかどうかは話が別だ・・・だが、いつとは決められないが、必ず二人に俺の決意を伝える。身勝手なのはわかっている。だが、その時がくるまで、待っていてくれないか?」


「では、わたくしとの婚約は解消しないということでよろしいのでしょうか?」


「シルヴィーがそれでいいのなら、俺に文句を言う筋合いはないな」


「・・・わかりました。つまり、わたくしとリーニアは現状互角ということですね。でしたら、これからどんどん剣夜さんがわたくしと結婚したくなるようにすればよいということですよね!」


そうなるのか?なんだか女の子に対して求愛を強制しているようで、優柔不断な自分が情けない。


ここできっぱりと断ることが正しいと頭の中ではわかっているはずなのだが、心の奥底に潜む謎の感情がそれを許してくれない。


モヤモヤとした気持ちのまま、俺は歩き始めた。シルヴィーは依然として俺の腕にしがみついたままだが・・・


「それなら、リーニアとも婚約してください、剣夜さん。そうでないと、対等な勝負をしている気がしません」


「複数の人と婚約するなんてありなのか?」


「特に不思議はありませんよ。複数の人と結婚することも珍しいことではありません」


そういえば、シルヴィーの父親も二人の奥さんがいたか。一夫多妻は現代の地球でも決して存在しないわけではない。というか、結婚は勝ち負けではない気がするんだが・・・


そんなことを考えていると、俺たちは目的の宿に到着した。そこで俺はシルヴィーに今日の別れを告げた。名残惜しげなシルヴィーはなかなか立ち去ろうとはしなかったが、ナターリャさんが半ば強引に連れ去って行った。


それを見送った俺は目の前の扉を開き、宿の奥へと足を踏み入れた。


この宿は一泊銅貨10枚という価格だったが、これは他に比べて、特に安いとも高いともいえない平均的な価格だ。


シルヴィーの研究棟より少し大きいくらいの宿のロビー奥にあるカウンターへ向かった俺は、宿主の女性と宿泊の契約を取り交わした。


「宿泊三十日分で金貨3枚いただきます」


「ああ」


「ありがとうございます。ところで、お客さんはかなりお若いようですけど、傭兵か何かですか?」


「まだ、駆け出しだけどな」


「その割には金貨3枚だなんて羽振りがいいですね。本当はどこかの貴族だったりして、って、そんなことあるわけないか」


俺はそうだな、と曖昧な返事をするだけだった。


いつか本当にそうなってしまうのではないかという覚束なさを隠しながら、俺は女主人と軽い世間話をし、それから自分の部屋に向かった。


もらった鍵で扉を開き、中を覗くと、そこには小さなテーブルとベッドが一つずつあるだけだった。


俺はそのままベッドに寝そべり、他にすることもなく、今夜の夕食のメニューを想像した。途中で、白丸にも食事が必要なのかと思ったが、どうやら俺から供給される力だけで事足りるようだ。


そんなものかと納得した俺は、目を閉じてからこの世界にきてからのことを振り返った。


ただ赤姫の話し相手を探すという目的だけのために来たというのに、まさかここまでの展開が待ち構えていたとは・・・犬も歩けば棒に当たる、ということなのだろうか。


我ながら自分を犬に例えてしまうことに少しばかり嫌気がさすが、そんなことを気にしてもしょうがないと思い直し、俺はこれからのことについて考えることにした。おそらく、ゆっくりさせてはくれないのだろう・・・


「・・・というか、赤姫は一体いつになったら現れるんだ?」

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