芳しき乙女たち(一)
窓から差し込む明るい陽光に照らされ、俺は心地よく目を開いた。
最初にどっしりとした天井の赤いレンガを見上げていた俺が首をわずかに傾けると・・・
そこには、ほとんど布を纏っていない少女の後ろ姿があった。
彼女の可愛らしさをより際立たせるような、鮮やかな菜の花色に染められた下着に俺はなんのためらいも示さず見入ってしまう。
しかし、
「剣夜様・・・」
ナターリャさんの冷たい声が俺の瞼を閉じさせる。
気付かれたか?
清福から一転、俺は恐ろしいまでの切迫感を味わうことになってしまう。
なんだか冷や汗が・・・
「・・・のおかげで前のお屋敷に戻ることができますね」
「はい!剣夜様からは一生をかけてもお返しできないほどのご恩を二度も頂いてしまいましたわ。私はこれから剣夜様のお力になりたいと思うのですが、何をして差し上げればよろしいのでしょうか・・・」
「そうですね、剣夜様も男性ですから・・・」
依然として冷たい視線を感じる俺は必死で狸寝入りを貫き通す。
俺が何か悪いというわけではないが、ここで起きた時のリーニアの反応がとんでもないことになってしまうだろうからだ。
「・・・まあ、おいおい探していけばよろしいと思います」
「つまり、これからずっと剣夜様と一緒にいればよいということですわね!」
なんだか聞いてはいけないことを聞いてしまったような気がしていると、着替え終えたリーニアとナターリャさんが部屋から出て行ったため、俺はようやく緊張感から解放された。
しばらく時間を置いてから一階に降りると、そこにはリーニアがいるだけでナターリャさんの姿が見えない。
彼女は朝食を調達するために出かけたらしい。
リーニアの姿を見ていると先ほどの光景が脳裏に浮かんでしまい、今にも顔が赤くなりそうだ。
俺はなんとかこの気持ちを抑えようと無理やり言葉を吐き出した。
「・・・よく眠れたか?」
「はい。それで・・・ナターリャさんから昨晩のことを聞いたのですが・・・ありがとうございます、剣夜様!」
リーニアはそう言って深々と頭を下げるが、俺はすぐにそれをやめさせた。
こんな綺麗な服を着た女の子が人に見せるような格好じゃない。
「俺はシルヴィーの手伝いをしただけだ。礼ならシルヴィーに言うだけで十分さ」
「もちろんシルヴィーにも感謝していますが、剣夜様がいなければ私は命を落としていたでしょうし、こうして再び王都に戻ることもできなかったと思いますわ。ですから、私は剣夜様に強くお礼を申し上げたいのです!」
「まあ、その気持ちはありがたく受け取るよ」
「気持ちだけでなく、私にできることがあればなんでもおっしゃってください。剣夜様のためなら私、なんでもいたしますわ!」
こうも強く主張されては俺にこれ以上意見する気は起こってこない。
俺はどうも押しに弱い気がする。特に女の子に・・・
「そうだな・・・なら魔法のことについてもっと教えてくれ。まだほとんど知らないんだ」
「お安い御用ですわ!早速練習するのであれば裏庭に行きましょう」
リーニアに連れられ、俺は研究棟の裏庭に踏み込んだ。
広々としたその場所には焼け焦げた跡が数多く点在しており、庭というにはあまりにも殺伐としていた。
「剣夜様はどんな魔法をご所望ですか?剣夜様ならきっとどのような魔法でも使えると思いますが」
「その前に聞きたいんだが、『聖遺物』は赤と黄以外に後何種類あるんだ?」
「『聖遺物』は全部で六種類ですわ。赤、黄以外に青、緑、白、黒があり、すでにご存知の通り、発動できる魔法はこの色によって異なりますわ」
「イメージ的には黄が光や雷、赤が炎、青は水で、緑は草とか?白と黒は全く想像がつかないな」
「実際に見てもらえればわかると思いますわ。ただ、私は赤色魔法以外あまり得意ではないのですが・・・」
そう言いながら、リーニアはポケットの中からいくつかの石を取り出した。
シルヴィーはリーニア以上の魔法使いはいないみたいなことを言っていたが、そのリーニアでも赤色魔法しか得意じゃないのか。
「まずは青色魔法を使ってみますわ。『青色の輝き、我を導け、ネービア』」
リーニアが聖文を唱えると、彼女の突き出した拳の先からうっすらと霧が立ち込めてくる。
しばらくするとリーニアの足元には小さな水溜りができていた。
「これは青色魔法の中でも初級に分類されるものですわ」
「魔法に階級があるのか?」
「魔法は大きく初級、中級、上級に分類されていて、階級が上がるごとに扱うのが難しくなっていきますわ」
「なら『エクスプロージョン』はどの階級なんだ?」
「『エクスプロージョン』は上級魔法ですわ。ちなみに剣夜様が使っていた『ルーチェ』は初級、『ブリッツ』は中級魔法になりますわ。ただ、剣夜様が使うと威力が上級魔法を軽く超えてしまっているような気がするのですが。それに、色もなんだか黒くて・・・」
「使ってみようか?」
「では『ルーチェ』でお願いしますわ。攻撃魔法ではあたりが焼け野原になってしまいそうですし」
ひどい事を言うなぁ。俺は人間兵器か何かか?
そんな文句を思い浮かべつつ、俺は黄色い石を握りしめてから聖文を唱えた。
もちろん今まで通りの黒光りする光源が出現した。
「どうしてこのような色になるのでしょう?心当たりはありませんか?」
「いや・・・特にないな」
「何か隠していませんか、剣夜様?」
勘が鋭いな。
しかし地獄のことを話すわけにもいかないし、話しても信じてもらえないだろう・・・
俺はリーニアの追求をかわしつつ、新たな魔法をいくつか教わった。
そうしているうちにナターリャさんが買い物から帰ってきた。
研究棟にはキッチンがないため彼女は出店で売っていた軽食を買ってきたようだ。
俺たちは練習を一時中断し、三人で朝食をとった。
見たこともない料理の新鮮な味に一喜一憂していると、入り口の扉が突然開き、ドレスに身を包んだシルヴィーが忙しなく入ってきた。
「おはようございます。早速ですが、わたくしも混ぜてもらってよろしいでしょうか?」
「あ、ああ。まだ食べてないのか?」
「そういうことではないです!」
シルヴィーはそんなことを言いながらそっぽを向いてしまう。
ナターリャさんが持ってきた椅子に腰を下ろし、しばらくしてからようやくシルヴィーは要件を話し始めた。
「オルドックス家取り潰しの王令が今し方撤回されました。それを伝えるべく、すでにコルト村へと使者が送られたようです」
「よかったな、リーニア」
「シルヴィーも剣夜様も本当にありがとう・・・」
今まで溜め込んでいたものを全て吐き出すかのように涙を流すリーニア。
家が潰されるというのは俺が想像するよりもはるかに辛いことだったに違いない。
ましてこんな小さい子にはなおさらだろう。
「それともう一つ。お父様が、今から剣夜さんと話がしたいとおっしゃっていました」




