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地獄門使いの異邦人〈エトランジェ〉  作者: 織田昌内
第二章 芳しき乙女たち
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王家の軋轢(五)

「剣夜さんはこれからどうなさるおつもりですか?リーニアちゃんの無実を証明するつもりなのですか?」


「そのつもりだが、俺はあくまでシルヴィーの手伝いをするだけだよ」


「剣夜さんはパティーが怪しいとお思いで?」


「まず現場を見てみないことにはなんとも言えないな」


「そうですか・・・わかりました。早速その現場までご案内させましょう。ナターリャ、お願いしますね」


「かしこまりました」


 深々と頭を下げた後、ナターリャさんは俺についてくるよう促した。


 シルヴィーも何かから逃げるように慌てた様子でついてくる。


 こうして俺たちは城の中を二階ほど上がり、立派な庭園が視界に入りつつ目的の部屋へと到着した。


 閉ざされた扉の前には見張りの兵士が二人直立していたが、シルヴィーから事情を聞くとその扉を開けてくれた。


 この二人もシルヴィー専用の騎士団員らしい。


 扉が開かれた瞬間、惨たらしく焼け焦げた家具類が目に入った。


「これはひどいな・・・」


 あたりに散らばる黒々とした残骸は反対側に設置された大きな窓からの陽光に晒され、より一層の暗さを呈していた。


 俺はとりあえず部屋の中を一通り眺めた。


 すると、いくつかの残骸が積み重なった山の中にあるものを発見した。


「これは『聖遺物』じゃないか?」


「確かに。どうしてこんなところに?」


 赤く輝く小さな石をシルヴィーと一緒にじっと見つめていると、俺はとある仮説を思いついた。


「これを使えば魔法で火事を起こすことができるんじゃないか?」


「しかし、この部屋に魔法は・・・」


「外部からの干渉を受けないんだろ?けど、魔法はこの石から発動する。なら、この石が部屋の内側にあれば問題ないだろ」


「確かに・・・しかし魔法は『聖遺物』を握っていないと発動しないはず・・・」


「そうなのか?」


 そう聞きつつも、俺はポケットからシルヴィーに返し忘れていた黄色い『聖遺物』を取り出し、床に放り投げ、すかさず聖文を詠唱した。


「『黄色の輝き、我を導け、ルーチェ』」


 すると、シルヴィーの予想に反し、相変わらずの「ドスグロイ」赤色に染まった光源が出現した。


 しかし今回のは野球のボールほどの大きさしかない。


「そんな!?こんなことができるなんて知りませんでした。魔法を研究していた者として恥ずかしいです・・・」


「まあ、あまり落ち込むなよ。コロンブスの卵って言うだろ?」


 俺の言葉が理解できなかったようで、シルヴィーは首を傾げてしまう。


 そういえば、ここは地球じゃなかったな。


「とりあえず、これで謎は解けたな」


「少し待ってください。わたくしもやってみます」


 そう言って、シルヴィーは床に転がった『聖遺物』に向かって聖文を唱えた。


 するとやはり、かなり小さいが、黄色く輝く光源が出現した。


「これはどういうことなのでしょう。『聖遺物』に触れてもいないのに魔法が使えるなんて。リーニアと相談してみないと・・・」


「目的を忘れてないか、シルヴィー」


「そうでした」


 そして俺たちは放火犯が結局誰なのかという話に戻り、シルヴィーが様々な疑問を呈す一方、俺がそれに片っ端から実験やら仮説やらで答えていく。


 一時間ほどの議論を経て、ちょうど小腹がすいてきた頃に話は最終段階に至った。


「・・・どのようにして犯人に自白を?」


「簡単だな」


 そう言って、俺は心の中で意地の悪い笑みを浮かべた。


 いかんいかん。これでは俺が悪役のようだ。


 目には目を、歯には歯を、だまし討ちにはだまし討ちを、というだけのことだ。


 シルヴィーにとある指令を出しておいた俺は一旦研究棟に戻ることにした。


 さすがに腹が減ったし、一人のリーニアがかわいそうだ。


 研究棟への道中、賑わいの絶えない商店街で俺はうまそうなものを少しずつ買っていった。


 金はいくらかもっていたが、金貨一枚で十分に事足りた。


 この時、ここでは金貨一枚が銅貨百枚に相当することを知った。


 銀貨はどこへ行ったんだと思ったが、どうやらこの国では金貨より銀貨の方が希少らしい。他の地域ではそうでもないらしいが・・・


 手が食べ物でいっぱいになったところで俺は研究棟に戻った。


「戻ったぞ」


「剣夜様!?おかえりなさいませ!」


 勢いよく返事をしたリーニアは二階から階段を降りてきた。


 一階の方は見間違えるほど綺麗になっており、彼女の腕前にただただ感心するばかりだ。


 リーニアは俺の方に近付こうとするが、寸前のところで思いとどまり、一歩俺から身を引いた。


「どうした?」


「いえ、その、今は服が汚れてしまっていますので・・・」


「何を言ってるんだ。ここは自慢するところだろ。掃除上手は女性の魅力の一つだよ」


「魅力!?いきなり何をおっしゃるのですか!」


 そう言うや否や、リーニアはすぐに身を反転させ、顔に両手を当てながら二階へと上がって行ってしまった。


「昼飯を買ってきたんだが・・・」


「その・・・着替えますので、少しだけお待ちしてもらってもよろしいでしょうか?」


 階上から顔だけを出したリーニアは頬をわずかに赤らめながら小さな声でそう呟いた。


 無粋なことを言ってしまったのかもしれない。


 そう反省しつつ、俺は手頃な大きさのテーブルの上に買ってきた食べ物を並べ、近くから引っ張ってきた椅子に腰を下ろし、全員が集まるのを待った。


 まず初めに、簡素でありながらも上品に仕立てられた可愛らしい服で身を包んだリーニアが降りてきた。


 彼女としばし歓談をしていると、シルヴィーとナターリャさんが戻ってきた。


 俺たちは遅めの昼食を取りつつこれから実行する策略についての最終確認をした。


 夜が楽しみだ・・・

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