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地獄門使いの異邦人〈エトランジェ〉  作者: 織田昌内
第二章 芳しき乙女たち
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王家の軋轢(二)

 食器を片付けている最中もリーニアは暗い顔を浮かべていた。


 そこへすかさずシルヴィーが駆け寄り、さらなる説得を始める。


「リーニアは何がそんなに心配なの?」


「それは・・・もし証明ができなければシルヴィーだって危険な立場に追いやられてしまいますわ。今でも十分お姉さんにいじめられているというのに・・・」


「そんなことを心配していたのですか?わたくしはそんなことへっちゃらですよ!それに、できないなんてことはありません。剣夜さんだっているんです。あの倒せないと思っていた生物だって一人で倒してしまったんですよ。これで一体何を心配するというのですか」


 俺への信頼が大変厚いことにそこはかとなく気が滅入りそうだが、ここはシルヴィーに任せよう。


「リーニアはわたくしたちのことを信じてくれないのですか?」


「そんなことないわ!私はシルヴィーのことを、それに、その、か、彼のことも、信頼していますわ・・・」


「決まりですね、剣夜さん」


 少し強引な気もするが、これで十分なのだろう。


 結局のところリーニアが乗り気だろうとそうでなかろうと、シルヴィーは行動に移っていただろうからだ。


 さっきからこちらをちらっと見ては視線をそらすという不自然な行為を繰り返すリーニアのことは気にせず、俺は早速準備に取り掛かるためドアノブへと手を伸ばした。


 開いた先にはすでに騎士団が整列しており、周りの村人たちもこちらに注目している。


 どうやら村長が俺を待っていたようで、騎士団の後ろから現れたご老人は小さな袋を俺に渡そうとした。


「これは?」


「サマルティス金貨10枚。今ワシらに出せるのはこれくらいだが、きっといつかさらなる礼をするつもりなのでな。今はこれで勘弁してくれ」


「礼はこれで十分だ。それに、そんな金があるのならこの村の発展に使った方がいい」


 納得しきれていない様子ではあるが、彼も一村長として俺の言葉に従ってくれるようだ。


 その後、村人たちからの盛大な賞賛を浴びながら俺は黒馬を呼び寄せるために村を後にした。


 俺はふと銀狼のことを思い出したが、今は忙しいということで後回しにすることにした。


 ただ、少しかわいそうな気もしたため時々黒馬の背中に乗らせてやるよう念じつつ、俺は『ゲート』から別の黒馬を呼び出した。


 コルト村でさらに調達しておいた馬具を二頭の黒馬に取り付けている間にシルヴィーとナターリャさんが合流してきた。


「王都に向かうでいいんだよな?」


「はい。よろしくお願いします」


 前と同じようにシルヴィーとナターリャさんが俺と一緒に、騎士団員が二名ずつに分かれて三匹の黒馬に乗ることになった。


「準備はいいか」


「はい」


「・・・待ってください!」


 黒い妖気を漂わせ始める三頭の黒馬を勢いよく走らせようとしたその時、一人の少女が目の前に飛び出してきた。


 全力で走ってきたらしく、縦に巻かれた金髪を揺らしながら肩で息をしている。


 しばらくして、息を整えた少女は馬上の俺に向けて決死の眼光を向けてきた。


 彼女の行動力には舌を巻いてしまう。


「私も行きます!どうか連れて行ってください!」


「・・・どうしましょう、剣夜さん?」


「俺は別に構わない。彼女が行きたいというのなら俺に止める道理はないな」


「剣夜様。馬をもう一頭出すことは可能でしょうか?」


 まるで俺の返答を先読みしていたようなナターリャさんはすでに黒馬から降りていた。


「問題ない」


 即座に彼女の意図を悟った俺は『ゲート』からさらなる黒馬を呼び出した。


 馬具がもう一式必要かと思ったが、ナターリャさんは何の躊躇もなく黒馬に飛び乗った。


 その俊敏な動きがただのメイドにできるものではないということは容易にわかったが、俺はあえて触れようとはしなかった。


「リーニア様は剣夜様の馬にお乗りください」


 そう言われて急にもじもじし始めたリーニアを乗馬させるために俺も一旦黒馬から降りたが、そこでちょっとした紛糾が勃発してしまった。


「順番は剣夜さん、わたくし、そしてリーニアの順でよろしいですよね」


「ど、どうしてシルヴィーが真ん中なの!?」


「リーニアは山からの帰りで真ん中に乗っていたじゃないですか。それとも、リーニアは剣夜さんの後ろに座りたいのですか?」


「そ、そんなことあるわけないじゃない!ただ・・・シルヴィーはもう十分後ろに座ったのでしょ」


「わたくしだって全然乗ってないです!」


 いつまでたっても終わりそうにない水掛け論にナターリャさんは困惑したような表情を、騎士団員は苦笑を必死に抑えようと引きつった表情を浮かべている。


 さすがに、そろそろ出発したかった俺の威圧を感じ取ったのか、二人は静かにじゃんけんを始めた。


 この世界にもじゃんけんがあるのか・・・


 結果はリーニアの勝利に終わった。


「そんな・・・」


「し、失礼しますわ」


 あからさまにうなだれるシルヴィーとは対照的に歓喜をにじませるリーニアはすでに乗馬していた俺の後ろに陣取った。


 全員に目を向けた後、俺は四頭の黒馬全てに飛翔するよう念じた。


 初めてということもあり、俺以外には低空飛行してもらうが・・・


 そうして青空に舞い上がった黒馬に乗るシルヴィーとリーニアの方へ振り返ると、きらびやかな金と銀のコントラストが俺の目を魅了した。

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