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地獄門使いの異邦人〈エトランジェ〉  作者: 織田昌内
第一章 地獄と姫
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地獄と姫(二)

 橘剣夜?


 自分で言っておいてなんだが、偽名にしてはえらく変わった名前だな。どこかしっくりくるような、懐かしいような・・・


「「剣夜」の方が名前で良かったか?」


「よく知ってるな。それより、結局俺はお前をなんと呼んだらいいんだ?」


「そうじゃなぁ・・・儂はかつて「地獄姫」と呼ばれておったこともあるが、それも遠い昔の話。久しく名を呼ばれたことなどないしのう・・・まあ、好きに呼ぶがよい」


「好きにと言われても・・・・・・なら、「赤姫(あかひめ)」というのでどうだ?」


「アカヒメ?」


「この空を一色で染め上げる赤色の「赤」に、「地獄姫」の「姫」で「赤姫」だよ。地球っぽい名前だが、これで問題ないだろ?」


 なんのひねりもないが、ニックネームみたいなものだし大丈夫だろう。


 彼女は「姫」というよりはむしろ「神」のようだが、子供っぽいところもあるし、こちらの方がしっくりくる。


「ふむ、「赤姫」か・・・まあ、悪くはないのう。悪くない。して、苗字の方はどうするのじゃ?」


「苗字もいるのか?」


「まあ、せっかくだしのう。あった方が何かと便利かもしれんぞ?」


 一体なんの役に立つかはわからないが、さっきからブツブツと「赤姫」を連呼しているところを見ると、どうやらそれなりに気に入ってくれたようだし、とりあえず考えておくか。


「思いついたらまた名付けてやるよ」


「そうか、そうか。期待しておるぞ」


 お菓子を与えられた子供のようにウキウキとする彼女の仕草はとても可愛らしいのだが、どうも般若のお面が気になってしょうがない。これではまるで、今や今やと人を殺しにかかろうとする殺人鬼のようにも見える。


 とにかく、恐ろしいことこの上ない。


「なぁ、そのお面、外さないか?」


「なっ!?剣夜、お主、今儂にこの面を外せと言ったか!?どうやらお主はとんだ変態のようじゃな。すっかり騙されたわい。このムッツリめ!」


「どうしてそのお面を外せと言うだけで変態扱いされなきゃならないんだ?それはお前にとって下着みたいなもんなのか?」


 確かどこかの部族では胸よりも顔を隠そうとする女性がいると聞いたことがある。


 巫女装束の下に下着をつけるのかは知らないが、赤姫の場合、上はつける必要もなさそうだし、その代わりということなのだろうか・・・


「うっ・・・」


 赤姫が急に人差し指をこちらに向けたと思えば、全身に激痛が走った。


「お主!今ものすごく失礼な、というか、儂に言ってはならぬことを言ったな!」


「いや・・・まだ言って・・・ないの・・・だが・・・」


 足の先から頭まで、さらに目やら歯にまで伝わってくるこの痛みは死んだ方がマシではないかと思えるほどだ。


 そういえば、もう死んでるんだったか・・・


「・・・とりあえず、一旦落ち着け。何かまずいことを言ってしまったのなら謝るから」


「わ、儂はぺったんこではないぞ!この服がかなりきついのじゃ!」


 これは心を読まれているのだろうか?だとしたら、これからはかなり慎重に考えないといけないのか・・・


 それにしても、さっきまでの神々しさはどこへ行ってしまったのだろう。これではもうただの成長盛りの少女と変わらないではないか。


 どこか震えているような赤姫の顔はまだ見れないが、名前よろしく綺麗に赤くなっているのかもしれない。


「わかったから。それより、そろそろこの状況を詳しく説明してくれないか?赤姫が何かしらを知ってるんだろ?」


「ふん。説明してやる義理はないのう。こんな「ぺったんこ」の相手などしたくないじゃろ!」


「悪かったって。ちゃんと苗字をつけてやるから、それでなんとか許してくれないか?」


「どうしようかのう・・・」


 別に俺が悪いというわけでもないと思うのだが、とりあえずそういうことにしておこう。


 相変わらず女子の扱いほど骨が折れることはないな・・・ん?相変わらず?まあいいか・・・


 しかし、名前で呼ばれることがどれほど嬉しいのかはわからないが、そのお面をつけたまま身をよじらせるのは本当にやめてほしい。よほど名前で呼ばれることに飢えていたらしいな。


「まあ、良いじゃろう。寛大であることも、儂の魅力の一つであると自負しておるしのう。して、何から話すべきかのう?なんでも良いから質問してみると良い。今の儂ならなんでも答えてやるぞ」


「なら・・・まずここはどこなんだ?」


「儂の領地じゃな」


「どうして俺はここに来てしまったんだ?」


「知らん」


「俺はどうして死んだんだ?」


「知らん」


 ・・・・・・


「お前の正体は?」


「まあ、一言で言うのなら、領主じゃな」


「他に人がいるのか?」


「知らん」


「俺はいつになったら地面に立てるんだ?」


「知らん」


 ・・・・・・


「どうしてそんな格好をしてるんだ?」


「趣味じゃ」


「歳は?」


「女性にその質問はどうかと思うぞ」


「なぜそのお面をかぶっている?」


「女の子にはいろんな秘密があるのじゃ」


「・・・他に俺は何を聞けばいい?」


「知らん」


 十分の五か・・・しかもそのうち二つは答えになってない。


「答える気、あるのか?」


「ちゃんと「知らん」と答えているではないか。剣夜の質問が悪い」


 ドヤ顔するなよ。顔は見えないけど・・・


 とりあえずわかったことを整理すると、こいつはこの地の領主で・・・・・・って、それだけ?

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