表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地獄門使いの異邦人〈エトランジェ〉  作者: 織田昌内
第一章 地獄と姫
18/94

VS銀狼(五)

「お父さん!」


「おお、リーニア!無事だったか!」


 黒馬で山を駆け下りること十数分、地面の上に座るリーニアの父親ウェインさんと他の男たちを発見した。


 何人か減っているような気がした俺がそのことを尋ねると、息を引き取ってしまった三人を土葬したとのことだった。


 父親の胸に涙目ながら飛び込んでいくリーニアは先ほどの殺気立っていた様子とは対照的に、無邪気で可愛らしい様子を見せる。


「姫様たちがリーニアを救ってくれたのだろ。本当にありがとう。いくら感謝してもしたりないくらいだ」


「わたくしは何もしておりません、ウェインさん。こちらの橘剣夜さんが一人であの狼を退治してくれました」


「何言ってるんだ。シルヴィーは、もちろんリーニアだって、力を貸してくれたじゃないか。二人がいなければ俺だって危なかったかもしれない」


「謙虚ですのね。私は、全てあなたの功績だと思っていますわ」


 リーニアは目元だけでなく、頬までも赤く染めながら真剣な目でこちらに訴えかけてくる。


 まあ俺としてはそんなことどうでもいいんだが。


「それより早く下山しよう。危険だからな」


「そうだな・・・しかし、我々にはもう村まで歩いて行く体力が残っていないのだ」


「そのようだな。なら、移動手段を提供しよう」


 そう言って、俺は『ゲート』から四頭の黒馬を呼び出した。これで計五頭である。


 俺は村人達を驚かせないようになるべく小さめの馬を思い浮かべたため、今現れた黒馬は鞍のついた俺の黒馬より一回り小さくなっている。


 それでも村人達はこの世のものとは思えない異様な光景に恐怖を滲ませた驚愕の表情を浮かべた。


「これに乗ってくれ。鞍がついていないから気をつけてくれよ」


「わ、わかった・・・」


 俺は依然として茫然自失のウェインさんや他の村人たちをせかしながら黒馬にまたがらせ、出発するよう合図した。


 ただ、まだ回収しないといけない村人がこの下にもいるため、一気に飛んで帰還というわけにはいかない。


 少しばかり下ったところで発見した数人の村人を再び呼び出した黒馬に乗せ、俺たちはコルト村への帰路を辿った。


 俺が乗る黒馬だけは飛翔させ、早く帰ろうとも思ったが、村人たちだけにするのは危険な気がしたため、結局彼らの後ろを追うようにしながら森の中を駆けた。


 疾走すること約二時間、なんの問題もなくコルト村に帰還した俺たちは村に残っていた女性や子供達に大いに歓迎された。


 そこにはセルマさんも含まれており、彼女は涙を流しながら娘の帰還に安堵の表情を浮かべていた。


 一方、帰らぬ人となってしまった男の家族と思われる人々は地面に膝をつきながら号泣していた。


 こればかりはどうしようもない・・・彼らの命が脆かったというわけではなく、彼らが生きていけるだけの容量をこの世界が持ち合わせていなかっただけのことなのだから・・・まあ、死後の世界を見てきた俺にとって、「死」はすっかり無味乾燥としたものになってしまった気がするが。


「お前さんが山の怪物を退治してくれたというのは本当かね?」


「ああ。主のようなやつも倒したし、あの山でこれ以上被害が出ることはないだろ」


 歓喜に沸く村人達の中から分け出てきた白髪を生やしたご老人に声をかけられた。どうやらこの人はコルト村の村長らしい。


 恭しく頭を下げた彼はこれから宴をするので参加しないかと誘ってきたが、俺はすんなりとそれを断った。


「もうすっかり疲れきってしまったんだ。今日はもう休ませてもらうよ」


「そうか。お礼は明日きっちりするのでな。それより、お前さんが休む場所は・・・」


「彼はうちに泊まってもらおう。リーニアを助けてくれたお礼をしないといけないのだ」


 村長が終わりを言ってしまう前に、ウェインさんが横からそう提案してきた。


「そうねぇ。リーニアもいいわよね」


「べ、別に、私は構わないわ!」


 俺の意思とは無関係に話が進んで行くが、ここで口を挟むのは失礼であろうと思った俺は終始黙り続けることにした。


 なんだかんだで俺とシルヴィーとナターリャさんがオルドックス家で休ませてもらうことになった。


 ちなみに騎士団員は余裕のある家に別々で居候させてもらうことになった。


 お世辞にも追加で三人も宿泊できるほど大きな家であるとは言えないが、三つあったベッドの一つにセルマさんとウェインさん、一つにシルヴィー、リーニアそしてナターリャさん、最後の一つに俺が一人で寝ることでギリギリ収まった。


 ベッドの配置決めで、俺やナターリャさんは床でいいとか、リーニアは両親と一緒に寝るとか、しまいにはシルヴィーが俺と一緒に寝てもいいと言い始めたときには俺は諦めてさっさと一人ベッドに寝転がり、一瞬で襲いかかってきた睡魔をなんの抵抗もなしに受け入れた。


 ・・・・・・こうして異世界における俺の一日目は「生活」ではなく波乱万丈の「冒険」の幕開けとなってしまった。願わくは、明日だけでも平和な生活が送れることを・・・・・・

挨拶が遅れてしまいましたが、これにて

「第1章 地獄と姫」

の完結となります。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

引き続き、第2章をお楽しみください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ