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地獄門使いの異邦人〈エトランジェ〉  作者: 織田昌内
第一章 地獄と姫
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VS銀狼(四)

 体の感覚はほとんどがダメになっているが、奥底から湧き上がる温かい“何か”に後押しされる形で俺は銀狼に向かって走り出した。


 銀狼が体当たりをしようと身を低くしたその瞬間、俺は一気に跳び上がった。


 俺を見失った一瞬、速度を落とした銀狼の隙を逃さなかった。


「『黄色の輝き、我を導け、ブリッツ』」


 巨大な「雷剣」が銀狼の背中を確実に捉えると思った。


 しかし危険を察知したのだろうか、銀狼は素早く右方へと回避した。


 素早い相手にこの攻撃はどうやら相性が悪いようだ。


 銀狼は空から降ってくる雷剣を器用にかわしながら俺との距離を詰めているようだ。


 ますます吹雪が強まり、一寸先も見えない状態となってしまったが、俺は銀狼の殺気を感じ取りながらこちらからも距離を詰めていく。


 正面から何かが迫ってくるのを感じ、すかさず跳躍の体勢に入ったその瞬間、俺は右方で新たな影が出現したのに気付いた。


「剣夜さん!敵が二匹になっています!」


 分裂でもしたか?


 しかしその予想が間違っていたことは俺のすぐ後ろを通過した銀狼の大きさを確認することですぐにわかった。


 一方、正面からはもう何も迫ってくる感じはしない。


「幻影か?面倒だな・・・」


 これではこちらの攻撃を与えるどころか、相手の攻撃をかわすことさえ難しい。


 こうなったら・・・決心を固めた俺はスッとその場に直立する。


「ふぅ・・・」


 一呼吸置いていると、再び正面から黒い影が迫ってくるのを感じた。


 俺はすかさず持っていた剣を前に向かって思いきり放り投げた。


 それが空を切ったことを確認すると同時に今度は左方から突進してきた銀狼の攻撃を俺は最小限の動きだけで回避することでふわふわの体毛にしがみつくことに成功した。


 リーニアがやっていたことと全く同じことだ。見えないなら張り付けばいい。


 俺がしがみついたことに気が付いた銀狼は暴れまわることで俺を振り落とそうとするが、俺は必死にしがみつきながら『ブリッツ』を発動させた。


 すると「雷剣」はちょうど銀狼の目の前に突き刺さり、それにひるんだ銀狼は急停止した。


 逆に俺はその勢いを利用してすぐさま銀狼のそばから離れる。


 銀狼の姿は次第に見えなくなっていくが、「雷剣」の光を目印に俺は左の拳を突き出した。


「これで終わりだな・・・『赤色の輝き、我を導け、エクスプロージョン』」


(がぁ・・・)


 ・・・・・・世界が止まったように感じられる。黒炎を放つ爆発の衝撃に吹き飛ばされながら、俺の視界は一気にホワイトアウトする。これが走馬灯というやつなのか・・・白い明かりが急に眩しくなったと思えば、うっすらと遠くで誰かがこちらを見ているような気がした・・・


 しかしそれが誰なのかを確認するよりも前に俺の意識は現実へと引き戻された。


「剣夜さん!剣夜さん!」


「シルヴィー・・・か。二人とも大丈夫か?」


「はい!わたくしもリーニアもなんともありません」


「驚きましたわ。本当に倒してしまうなんて・・・」


 二人の安否を確認してからいつのまにか仰向けになっていた体を起こし、辺りを見渡すと・・・驚愕した。


 目の前には数百メートルはあるクレーターというかカルデラのような円状の焼け野原が広がっていた。


 ところどころではまだ火の手が上がっている。


 黒円の中心に目をやると、そこには一匹の狼がぐったりと横たわっていた。しかしその大きさはいたって普通の狼といったところだ。


「生きてるか確認してくる」


「わたくしも参ります」


「わ、私も」


 シルヴィーとリーニアを後ろに、小さな銀狼の元へとゆっくり近づいていく。


 足元からは熱がうっすらと伝わってくるが、熱いと感じるものではなかった。


(生きてるか・・・)


(生きてはいるが、もう力はほとんど残っておらぬ。さっさと殺せ)


「剣夜さん、どうしたんですか?」


 無言で銀狼を見つめている俺に違和感を覚えたシルヴィーが疑問をぶつけてくる。


 どう説明したものか・・・


「お前、喋れるか?」


「ああ・・・」


「反応したわ!」


「人の言葉がわかるのでしょうか!?」


 驚きの声を上げるリーニアとシルヴィーはひとまず置いておいて、俺はなんとか銀狼からさらなる情報を引き出そうとした。


「お前には聞きたいことがいろいろあるんだが、喋る気はあるか?」


「ふんっ。早く殺せ」


 黙秘か?もう少し痛い目を見ないとダメのようだ。さて、どうしたものか・・・


 しばらく考えると、俺はある方法を思いついた。成功するかは怪しいが。


「毛を一本もらうぞ」


「何?」


 返事を聞くよりも先に俺は銀狼から白い毛を一本抜き取り、それを直接口の中へ放り込んだ。


「剣夜さん!?」


「あなた、何をやっているの?」


 二人の声を聞き流しながら俺は頭の中で『地獄領』にいるはずの黒馬を思い浮かべた。


 するとすぐに『ゲート』は現れ、扉の奥から一頭の黒馬が悠々と歩いてきた。


 目の前に横たわる銀狼を連れていくよう念じると、黒馬は銀狼を咥え、そのまま扉の奥へと戻っていく。


「な、何をする!?」


「降参したくなったら言えよ」


 こちらに伝える方法があるのかはわからないが、死ぬこともないだろう。あいつには永遠のフリーフォールを楽しんでもらうことにしよう。


 銀狼を咥えた黒馬が消えていくと、閉まり出した扉の奥から恐怖に満ちた絶叫が聞こえたような気がしたが、気のせいだろう・・・


「さて、村に戻るか」


「あの・・・剣夜さん、今のは?」


「まあ、あいつには後でじっくり事情を聞くつもりだから心配しないでくれ」


「はあ・・・」


「今の魔法も見たことがないわよ!」


「そんなことより、お前のお父さんを迎えにいくぞ」


「えっ、お父さんは無事なの!」


 急に不安そうな表情を浮かべるリーニアに俺たちが見たままの状況を伝えると、彼女は少し落ち着きを取りもどした。


 あたりは完全な暗闇に包まれ、周りの雪はいつのまにか消えたもののほんの少しだけ肌寒く感じる。


 急いだ方が良いかもしれない。


 しかし二人にこれ以上走る体力は残されていないと思い、俺は再び黒馬を呼び出した。ちゃんと鞍がついたやつだ。


「二人とも、これに乗っていくぞ」


「わかりました。リーニア、乗りますよ」


「だ、大丈夫なの?羽が生えてますわ・・・」


 いち早く乗馬していた俺は、不安がってなかなか乗ろうとしないリーニアを彼女の脇を抱えることで持ち上げ、俺のすぐ後ろに乗せた。


「ちょ、ちょっと!急に何をするの!」


「羨ましいです・・・」


 顔を真っ赤にするリーニアと、慣れた手つきで乗馬しながらもどこか残念そうな表情を浮かべるシルヴィーの安全を確認してから俺は黒馬を走らせた。


 急のことで驚いた様子のリーニアが俺の背中に抱きついてくるが、その時に感じたシルヴィーよりも立派な感触の感想はここでは割愛しておく・・・

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