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地獄門使いの異邦人〈エトランジェ〉  作者: 織田昌内
第一章 地獄と姫
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黒馬の王子様(七)

「ご覧になったと思いますが、この街には今ほとんど人がいません。どうやら最近、近くの山で村人が失踪するという事件が起きたようで、今朝方になって村の男性が総出になって捜索に出かけてしまいました。私の夫もそれに参加するよう言われて、私はやめるように言ったのですが、つい昨日越してきたばかりでよそ者同然の自分が断るわけにはいかないと言って、参加することを了承してしまいました。その上、リーニアまでもが参加すると言い放ったのです。必死に止めたのですが、それでも彼女はそれを頑なに聞こうとせず、結局夫が先に折れてしまいました。不幸中の幸いなことに、彼女は体力では劣るにしても、魔法や剣技においては私の夫など足下にも及ばない実力を備えているので、並の相手でしたら全く問題ないのですが・・・やはり不安です」


 話が進むにつれて、セルマさんはまるで自分を責めるかのように自身の両腕を強く握り始めた。


 シルヴィーもことの重大さに気付いたようで、顔を少々強張らせている。


「戻ってくる日は決まっているのですか?」


「確か、今夜中には帰ってくるそうです。今日は下見をするだけだと言っていました」


「そうですか・・・剣夜さんはどう思いますか?」


「そんなに心配なら、俺が様子を見に行ってもいいんだが」


「しかし、ここからその山の麓までは歩いて三時間かかるそうです。それにいくら馬があっても、麓からは歩いていかないといけないでしょうし・・・」


「その辺りはご心配なく。剣夜さんに任せればなんの問題もありません」


 一体何が問題ないのかセルマさんは理解できないようでいたが、これは説明するより実際に見てもらった方が早いだろう。


 それを察したシルヴィーはさっと椅子から立ち上がり、外に出ることを提案した。


 セルマさんは言われるがまま、家の外へ、そして村の外へと歩いていくシルヴィーについていった。


 そして村から随分と離れた場所でシルヴィーは立ち止まり、俺の方に振り向いた。


「この辺りでいいでしょう。剣夜さん、お願いできますか?」


「わかった」


 シルヴィーの望み通り、『ゲート』から一頭の翼の生えた黒馬を呼び出すと、セルマさんは腰を抜かしてしまった。


 彼女は何か言いたげに口をパクつかせているが、肝心の声を出すことができず、この状況を飲み込むのにかなりの時間を要していた。


「こ、この馬は空を飛ぶことができるのですか!?」


「もちろんです。これならすぐにリーニアの元へと向かうことができるでしょう」


 まあ、行くのは俺なんだがな・・・


 そう思いながら早速黒馬に乗ろうとすると、シルヴィーまでもが近付いてきた。


「どうした?」


「もちろんわたくしもご一緒しますよ」


「ここは俺一人でもいいだろ。シルヴィーがついてくる必要はないと思うが・・・」


「何を言っているのですか、剣夜さん!剣夜さんはわたくしのことを守ってくれるのでしょう?だとすれば、わたくしが剣夜さんの元から離れるわけにはいかないじゃありませんか!それに、リーニアの知り合いがいたほうがいいと思います。剣夜さん一人では怪しまれてしまうでしょうから」


 どうしたものかとナターリャさんの方をちらりと見ると、彼女は軽く微笑むだけで何の返事もしてくれなかった。


 どうやら自分で決めろということらしい。一国のお姫様を危険に晒していいのか?


 俺が当惑する中、シルヴィーは真剣な表情でずっと俺のことを直視し続ける。


 これは何を言っても聞いてくれそうにないか・・・


「わかった。ただし、リーニアって子よりもシルヴィーの命を優先させるからな」


「ありがとうございます!ですが、剣夜さんならどちらも救ってくれると信じています」


 信じると言われても・・・まあ、みすみす命を見捨てるようなことはしないが。


「その馬には一切の馬具が取り付けられていないようなのですが、大丈夫ですか?」


 俺はなくても特に問題ないような気がしていたが、セルマさんに指摘され、それでもやはりあったほうが便利であることには変わりないことに気が付いた。


「厩の方に馬具が残っていないか確認してきますね。それと、姫様のその格好ではさすがに・・・」


「ですが、着替えは持ち合わせていませんし・・・」


「でしたら、リーニアの着替えでよければお貸しします。彼女の服だけは手放さずに王都から持ってきましたのできっと姫様にも似合うことでしょう」


 そう言って、セルマさんはシルヴィーとナターリャさんを連れて村の方へと戻った。


 さすがにここでついて行くのは無粋だと思い、俺は騎士団とおとなしく待つことにした。


「そういえば、尋問の方はどうだったんだ?」


「そのことか。あやつらはなかなかに口が硬く、大した情報を吐かせることはできなかったよ」


 どんな尋問をしたのかはあえて聞かなかった。


 大した道具もなかっただろうから、相当荒っぽいやり方だったのだろうということは想像に難くはないが。


「シルヴィーが狙われる理由でもあるのか?まさか、第二王女の仕業というわけではないよな?」


「いくら何でもそこまでのことは・・・」


 どうやら心当たりがあるようで、騎士団長は急に黙り込んでしまった。


 第二王女がシルヴィーに対して行う嫌がらせは相当ひどかったのだろう。彼女には何か、実の妹を憎む理由でもあるのだろうか・・・

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