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地獄門使いの異邦人〈エトランジェ〉  作者: 織田昌内
第一章 地獄と姫
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黒馬の王子様(五)

 赤姫がわざわざよこしてくれたのだろうか?だとしたら、かなりの以心伝心だな。


「これはどうしたものか・・・」


 とりあえず乗ってみるか。ただ、俺は馬の乗り方などさっぱりなんだが・・・


「剣夜様、危険です。おさがりください。見たこともない生物です。何をしてくるかわかりません」


「どうした!?」


 ナターリャさんの声を聞きつけ、前を進んでいた騎士団もこちらに駆けつけてくる。


「この馬は一体・・・翼が生えているのか?まさか本物ではあるまいな」


 そう言って、ガウェイン騎士団長が剣を抜き取ると同時に、俺はすでに黒馬へと近付いていた。


 どうもこいつは俺が呼び寄せてしまったのかもしれない。


 おとなしい黒馬に俺がなんとか乗馬すると、黒馬の翼は急に羽ばたき始め、足元が徐々に地面から離れていった。


 その風圧は軽くシルヴィーを吹き飛ばしそうだったが、かろうじてナターリャさんが壁となって防いでいた。


 森の木々などに臆することなく勢いよく飛び立った黒馬から一瞬落ちそうになったものの、俺はなんとか踏ん張った。


「鞍なしはきついぞ・・・」


 気付けばシルヴィーたちの姿がほとんど見えなくなるところまで上昇しており、だんだんと肌寒く感じるようになってきた。


 俺は空の彼方を眺望する余裕もないまま、俺の気持ちを理解しているようなこの黒馬に下降するよう念じると、すぐに元の場所へと舞い戻ることができた。


 黒馬から降り、慣れない乗馬に多少の疲労感を感じていると、そこへシルヴィーが涙を流しながら勢いよく駆け寄ってきた。


「剣夜さん、心配しましたよ!どこか遠くへ行ってしまったのではないかと思いました!」


「悪い。少し試してみるだけのつもりだったんだが・・・」


 ナターリャさんが差し出したハンカチで赤くなった目元を拭った後も、シルヴィーは依然として俺の方を直視したままだった。


 そこへ、いまだ剣を納めずにいるガウェイン騎士団長がわずかに焦りを混じらせた声で話しかけてきた。


「剣夜殿、これは一体どういうことなのだ?この生物は貴公が飼っているものなのか?」


「まあ、そういうことになるのか・・・害はないと思うから安心してくれ」


 そうは言ってもさすがに、翼の生えた馬というものを初めて見たようで、騎士達はなかなか警戒を解くことができないでいる。


 俺も地球でこんなのに出会ったら同じような反応をするだろうし、仕方ないか。


「剣夜様、もしかしてこの馬に乗れば一気にコルト村へと飛んでいけるのでしょうか?」


「できるだろうが、この馬に乗っているのはかなり難しいし、とにかく疲れる」


 鞍や手綱があれば話は別なのだろうが・・・それに、一頭にはせいぜい三人ぐらいしか乗れないぞ。


 いや、もしかして・・・


「剣夜さん、また扉が!しかも二つ同時に!」


 シルヴィーが驚いている一方で、俺は安堵というかちょっとした愉悦に浸っていた。


 どうやらこの『ゲート』は俺が黒馬を思い浮かべると出現するらしい。


 二つの扉が同時に開くと、中から同じ黒馬が現れた。


「この三頭に、俺とシルヴィーとナターリャさん、そして騎士団員が二人ずつに分かれて乗ればなんとかなるだろ」


「しかし、剣夜殿。これは、その、姫様の身にもしものことがあるかも・・・」


「わたくしなら大丈夫です、ガウェイン騎士団長。剣夜さんと一緒なら問題なんて決して起きません。それに・・・これで本当に白馬の王子様に・・・」


 シルヴィーは最後の方になると、ごまかすように声を小さくした。


 このお姫様は大丈夫なのだろうか。この馬はどこからどう見ても「黒い」のだが・・・


「私も賛成です騎士団長。姫様はそろそろ限界のようですし、それに姫様のことは私が命に代えてでもお守りしますので」


「そう言うのなら致し方ないか」


 ガウェイン騎士団長はどうやら腹をくくったようで、剣を鞘に収め、黒馬の方へ近づいていった。どうやら馬の状態を確かめるようだ。


「馬具が一切ないのが不安であるが、最悪地面を走っていくこともできよう」


「わたくしはできれば飛んでみたいのですが・・・」


 申し訳なさそうに発言するシルヴィーに、騎士団長が困ったような表情を見せるが、俺には彼女の気持ちがわからないでもない。


 空を自在に飛んでみたいというのは人間誰もが一度は夢見ることだからな。


「わかった。ただし、危険だと思ったらすぐに下降するからな」


「はい!ありがとうございます!」


 シルヴィーは満面の笑みを浮かべながら勢いよく返事をした。


 空を飛べることが相当嬉しいんだろう。その期待にはなるべく応えなければ。


「なら早速行くとするか。俺が前に座るから、シルヴィーがその後ろに座って、ナターリャさんがそのまた後ろからシルヴィーを抑えるように座る感じでいいか?」


「それで大丈夫だと思います」


「わたくしも大丈夫です」


 二人の賛同を得たところで、俺は再び黒馬の上にまたがった。


 ドレスが邪魔で思うように乗れないシルヴィーを上から持ち上げることでなんとか乗せ、次にナターリャさんがシルヴィーの後ろに手際よく飛び乗った。


 二人は俺の胴にしっかりと腕を回すことで振り落とされないようにしている。


 俺は自分の背中にこれからの伸び代に期待ができる控えめな膨らみが押し当てられ、体温がほんの少し上昇してしまったことに気付いた。


 気を紛らわすために騎士団の方へと目を向けると、全員が乗馬し終わっており、俺の合図を待っているようだった。


「いつでもいけるぞ、剣夜殿!」


 騎士団長の声を聞いてから、俺は三頭の黒馬に出発するよう念じた。


 騎士団員が乗る二頭は勢いよく地面を駆け出し、俺が乗る一頭は翼を大きく羽ばたかせ、燦々と輝く太陽が待つ青空へと飛翔していった。

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