動く (大きく)(何が?)(物語が)
一週間前ぐらいに投稿した気がしてました。
お読みいただき陳謝
5/15 陽が傾く時間帯
「ほ、本郷君、と、図書委員になってください!」
なんで、と枕詞が付く理由はいくらでも湧いてくる。
本は好きだ。新たな知識や過去の記録を知ることが好きだ。別に他のツールで知れば早く、たくさんの情報を脳に刻めるかもしれない。それでも本が良い。
だからといって、図書委員に成る気は更々無い。
息を吸い肺に送って、口を開く。
図書委員にならない意思を言葉にする
「ー「そろそろ良い時間だし、帰って返事は明日にしないか?
幸いクラスは同じだから大丈夫だろう」」
ことが出来なかった。
そのあと、キングの提案によって部活は終了。それぞれが帰路に着くなか、俺はキングとダイナストに向かう。
周囲を確認して、キングに問う。
「さっきのは、どういう事だ?」
別に俺の返事を遮って、明日に先送りさせる必要はなかった。
「うーん…これは勘というか直感なんだけど、アレは断らない方が良いと思う」
どうして、と言いかけてキングは元主人公だと思い出した。
「前の物語の主人公としての経験もあるけど、ああいう類いは強制力が強くて、逃れられないんだよ」
「だから諦めて、図書委員になれと?」
「不本意なのも分かる。だがそういうものなんだ。さっきも言ったが、時間が刻一刻と近づいて、アレの降臨は避けられない。
分かりやすく前兆を出しているんだ。今度は本気で潰しに来るぞ」
「そういうテンプレは外さねーよなあの野郎」
「そうだな…それよりもだソウ!あの最上って子はなんだ?」
キングは横に並んでいたのを不意に速度をあげて、前に立ちふさがる。
「なんだ?と聞かれてもな…どこであんな知識と技術を手にいれたんだか…俺だって分からないんだ」
今の時代は機械のグレードや能力、アプリの制限等をして、前地球の本来の性能の何分化の1程度で、少数しか市場に回されていない。もちろん本部は例外としてだが。
だが彼女、最上可憐は違った。監視カメラの映像や、指紋認証機といった一部しか分からないが、一個人として一般人としてこの時代では異常としか表現の仕様がない。
あまりに科学を発展させ過ぎると、神が予告なしにまた文明ごと破壊してしまうかもしれない。親切に前兆として、地球上に異変を起こしてくれる訳だから、下手に刺激したくない。
異常と評価した彼女だが、それはこの時代に生きる大多数から見れば、という観点からだ。個人的には、反骨精神が素晴らしいし是非ともダイナストに招待したいが…
「あいつ口が軽そうだしなぁ」
ダイナストのことをべらべらしゃべりそうで怖い。
「なんか彼女は抜けがありそうで、怖いんだろ?」
「ああ、ふとした拍子に口を滑らしそうだ」
そこでキングは、妙案が思い付いたとばかりに目を見開いた。
「俺がやろう!」
「何をだ?」
「俺が彼女をダイナストに連れていく!そこで彼女の機械に関する全てを聞かせて貰うってのはどうだ?!」
悪くない、悪くないと思うが
「どうやって聞き出すんだ?」
「そこは綾宮さんの言葉使い(ワードマスター) と望月さんの癒の複合コンボで喋ったあとは、記憶を消す」
えげつない。確かにそれなら後遺症の確率も低く、確実かもしれないが、
「あの二人がイエスと言うか?」
特に人の道を外れることを許さない二人だ。道徳的、倫理的に外れることは死んでも嫌がるだろう。
無理か~と、キングはこぼしてまた横に並んで歩く。
もともとそんな非人道的で邪道を嫌うのは自分の癖に、と心の中で一人愚痴る。
「少し寄り道するぞ」
そう断りを入れ一軒の店に入った。その店の名は、菓子月堂。老夫婦が営む和菓子や日本茶がメインのお店だ。ガラガラと戸を開けると、金平糖や羊羹、饅頭といった菓子が背の低いショーウインドウにところ狭しと飾られ、その奥にいるお婆さんがこちらに気づく。
「あら、毎度ありがとう本郷くん」
そう出迎えてくれたお婆さんに会釈を一つ。
「いえいえ、ところで満月饅頭50個ほど頂けませんか?」
今日も沢山だねぇ。と言ってカウンターから奥の調理場へと消えていった。
「そんなに食べきれるのか?」
「俺はいつから大食いキャラになった?所員への差し入れだよ」
「室長自ら差し入れとか、お前そんなキャラかよ」
戦慄した表情で後ずさるキングに無視を決め込む。
「はい、満月饅頭50個ね。いつもどうり半分小豆餡、もう半分は白餡ね。それよりもお金大丈夫かい?」
「イベント(・・・・)の会費から出るので大丈夫ですよ」
会計を済ませて店を出る。
「ソウ、ここでも嘘吐いてんだな。」
「幻滅したか?」
キングには優しくどこにでもいるようなお婆さんに見えたのだろう。
「いや、お前らしいなってそう思った」
笑うキングの表情は、どこか寂しそうで哀れみを感じた。
キングと別れた俺は、舗装された道を歩く。
左右に建てられた建物の多くは現代建築。背の低いビルや店が建ち並ぶ。町の位置としては中央に向かう。
中央には、一際高くそびえ立つ建物がある。
そこはダイナスト本部。
真っ直ぐ中央に向かっていた足は突如、右に転進する。
見えるのは何の変哲の無い無人のビル。
迷いなく内部に進む。
奥の階段に向かい、階段の一段目の右端を軽く蹴る。
カチッと音がすると、折り返し階段の1つが沈んだ。
「上る階段がそのまま下に落ちるとは思うまい」
そのまま地下道を進んでいく。
道の奥の鉄扉を押し開く。
人工的な白い光が指し、キーボードの打つ音と人の声が響いていた。
「治療札の作成はー?超高濃度回復薬はー?」
「回復薬の量が足りないっす!」
「試験薬の飛竜の血は?」
「あと50mlしかないです!足りますか?」
「足りないよ!馬鹿!」
そこは研究所と呼ぶに相応しい場所。人目で分かる高性能のコンピューターがあり、さまざまな魔物の血や体液、角、皮、牙、死体がホムマリン浸けされている。
ところ狭しと資料や新品の札が置いてある。
「調子どう?」
研究員にそう聞く。すると一糸乱れない動きでこちらに身を向けた。
「「「「「「室長!おかえりなさい!」」」」」」
「…調子どう?って聞いてるんだけど」
「室長ー!回復薬を増やして下さい!治療札を作成するんで!」
「あっ!こっちの飛竜の血と大蚊の体液と黒ウツボカズラの溶解液とそれから-.」
「「「「「多いなっ!!」」」」」
「調子どう?って聞いてるんだけど?」
「全員超健康ですっ!」
そう言いきった白衣の研究員達の多くは、目の下に隈が出来上がっていた。嘘と分かるが、倒れても自己責任と割りきり、見て見ぬふりをする。
一番近くにいた女性研究員が目敏く俺の荷物に目をつけた。
「あっそれ、菓子月堂の満月饅頭!」
「差し入れだ」
ありがとうございます、と研究員達が群がる。さながら獲物を見つけたゾンビのように這ってくる奴もいるが、よく見る光景なのでスルーする。
満月饅頭に気を取られている隙に、少なくなった研究材料の血や体液、回復薬等を大瓶いっぱいになるまで増やしておく。
ついでに新品の札に超高濃度回復薬で、陣を描き治療札を作成する。
大瓶に触れて、回復薬を触手のように一本、形造り回復の陣を札に描く。
陣-ラノベでよくある陣だが、人が作成するには複雑過ぎた。形がない魔力、能力を形ある陣にする。それは人には過ぎた領域で、全く出来なかった。
ならどうするか。人で無理なら、神から奪えばいい。
6年前、闇組織がおこなった【ザ・シャッフル】によって現れた神と闘い、その神が使用した陣を記憶、記録しておくことで遂に人類は陣を手に入れた。陣を多用した神は良い研究対象だった。
回復の陣はその一つで他にも種類がある。
陣の特性として、発動する陣と同じ効果のあるもので創ると効果が増加すること、そして描かれた陣自体に効果を発揮することも
判明した。
つまり、回復薬で回復の陣を創ると、陣から通常より回復効果を得られる。発火する陣を発火性の高い液体や物質で創ると高い火力を有する陣を創れる。
だから俺の液体を自在に操作し、温度を変えられる能力は最適だった。
プリンターのように大量生産出来たら良いのだが、質の良い治療札を創るには手作業が一番と分かり、俺が主体となり生産している。
研究員達が饅頭を食べきるよりも前に、すべての札に陣を描き込んだ。
※※※※※※
そこは蝋燭がぼんやりと照らす、場所。
魔石を加工した丸テーブルを囲む4人。
奥に1人、まるで王のように玉座に座り4人を見下ろす。
「時は近い」
「【ザ・シャッフル】により分かった事実。それは人の無力を証明したわけでは無かった。むしろ大きな可能性を立証して見せた。
【ザ・シャッフル】は人の位と神の位とをシャッフルし、人間が神と入れ代わり、支配する計画だった。
だが、失敗した」
身動き一つせず、蝋燭の火がゆらゆらと揺れるのを一瞥する。
「なぜ失敗したのか?
我々に不備はなかった。当初は神が妨害、或いは無効化をしたのかと推察したが、前提から間違っていたのだ」
「アレは自らを神と名乗る人間だ!」
「シャッフルする先に神の位はそもそも存在しなかったのだ。その証拠に交換された我らが先王は、神という位は無く、魔物の位と交換され、人よりも醜悪で破壊の権化とかした」
「勿論、これらはある確固とした事実から求められる結果である。それは…」
※※※※※※
「水中都死にいけ、と?」
一匠さんに呼び出された俺は、大会議室に着くなりそう言われた。
「神が一番に潰した東京。何故そこなのか?そう思ったことはないか?」
「ありますけど?」
「他にも当時は、大きい都市や人口が密集し力を誇示するためなら、最適な場所が合った筈なんだ」
なので、とにこりと一匠さんの顔が笑う。
「探査、探知系能力者10名ほど、不可侵領域一歩手前まで連れていったのさ!」
過去形でした。
「あんた馬鹿だろっ!なんで不可侵領域と呼んでいるか分かってんのか!?あそこは魔力が異常に溜まり溢れ出ているか「なんでっ!」」
「なんで水中都死は、魔力が異常に溜まり溢れるのか?どこから来てどこに向かうのか考えたことがあるかい?」
…答えを言えば、ある。情報として集め、一つの結論は出ているが意味の無い結果のため放置してきた。
「水中都死は、地球上から竜脈を通り、魔力が集まり、一定量になると、周辺に溢れるダムのような役割を持っている…」
「それが操也の出した結論だな?
不正解だ」
陳謝