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機甲士物語  作者: ユキマル
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第一章 始まりの日 第一話 悪夢

 あっけない。

 実際に直面してみて、初めて知る事が出来た。人の命とはこんなにもあっけないものなのか。人はこんなにも無力なのか。

 眼前には迫り来る車。重さを忘れたように飛んで行く身体。全身に感じる血の温かさ。暖かさを感じるほど増していく寒さ。世界が霞んでゆく。実に、あっけなかった。そのまま東雲(しののめ)出雲(いずも)意識を手放した。




──────────────────




 どれくらいの時間が経ったのだろうか。随分長く空白の時間を過ごしている気がする。ふいに遠くに光を感じた。光は次第に強くなり、けたたましい音が頭に響きだした。

ジリリリリリ─

 朝日がさんさんと差し込む自室のベッドで出雲は目覚めた。


「夢か。」


 安堵の息が思わずこぼれる。

 とてもリアルで嫌な夢だった。夢の中の感覚も記憶もしっかりと残っている。ただ夜食にコンビニ限定プリンを食べたかっただけだった。まさか帰り道ではねられるとは思いもしなかった。


「帰りにはねられた?俺はどうやって帰ってきたんだ?」


 こうしていつも通り目が覚めたのは良いことだが、昨日の夜は確かにプリンを買いに行ったはずだ。なのに車にはねられた記憶しか残っていない。もちろんプリンもない。


「いつもよりも静かでいい朝なのに、夢が衝撃的過ぎてそれ以外が思い出せない。まあ、とりあえず飯食って学校だ。」


 ベッドから出ると出雲は朝食を食べに1階へと向かう。出雲には共働きの両親がおり、いつも朝食は母親が作ってくれている。


「おはよ…って、誰もいない。」


 いつもならとっくに起きているはずの両親の姿がない。二人そろって寝坊なんて珍しいが、なくはないだろう。出雲は両親を起こすべく、寝室へと向かう。


「父さーん、母さーん。遅刻するぞー。起きろー。…入るよー?お?」


 ドアをノックしつつ呼びかけるも返事がない。どんだけ爆睡してるんだか。そんなことを考えつつ扉をそっと開ける。が、そこに両親の姿はない。それどころか人のいる気配もない。


「もう出たのか?メモの1つでも置いて行けよな。」


 ぶつぶつと不満をもらしつつも、朝食を食べるべく一階に向かう。


「さてと、パンパンパンはっと…ないか。じゃあ、ご飯はー…ない。冷蔵庫には何があるかなー…え。」


 冷蔵庫を開けた出雲の目が大きく開かれる。なんと中には何も入っていなかったのだ。朝食になりそうなものがないくらいなら絶望するくらいで済む。だが、この冷蔵庫には『何も』入っていなかった。それどころか電源すら入っていないようだ。これには出雲も違和感を抱いた。家の冷蔵庫が空になり、電源まで入っていないなんてことがそうそうあるだろうか。それも一晩のうちに。冷蔵庫の中は全く冷たくはなく、電源が切れてからの時間経過が窺える。

 だが、起こったものはしょうがない。夜逃げなんて言葉が一瞬頭をよぎったが、そんなにもお金に困っていた訳ではない筈である。両親が朝からいないのももしかしたら関係あるのかもしれない。そんなことを考えつつテレビの電源を入れる。


「あれ、テレビもダメ?停電?何かあったのか。」


 テレビも電源が入らなかった。色々確認すると部屋の電気もダメ。携帯も圏外。水道もダメ。ガスコンロもダメ。ブレーカーを確認してみても素人目には通常と何ら変わりはない。


「これはいよいよヤバくないか。全部止められてる。夜逃げ説濃厚かよ。まじか。しかも俺の事置いて行きやがった…。」


 今日の日本のライフラインが一遍に止まるなんてことは、そうそうあるものではない。料金未払いか災害時くらいなものである。そのことからも両親が自分を置いて逃げた事が分かった。


「どうしていいのかも分からん。取りあえず学校行こう。まだ本当に夜逃げかも分かんないよな。」


 朝食や考える事は一旦放棄し、準備して学校に向かう事とした。


「教科書は学校にあるし、携帯と財布は持った。よし。いくか。」


 さらっと置き勉発言が出たが、高校生なんてそんなものである。持って帰るのはテスト前位なものだ。別に勉強が苦手というわけでも無い。少し前にゆとり世代なる言葉が流行ったが、だからなんだ、としか思わない。大人が決めて大人が批難する。意味が分からない。

 携帯と財布以外には、モバイルバッテリーやゲームしか入っていない学校指定のカバンを持ち、いよいよ出発である。

 

「いってきまー…んじゃこりゃあああ!?」


 誰もいないが習慣で一言残し、玄関を開けた。だが言い切る前にそれは別の言葉に変えざるを得なかった。玄関を開けた先に見えたのは明るい陽射しと澄んだ青空、そして瓦礫の山。異常である。どこを見渡しても瓦礫瓦礫瓦礫。家の形を残している物もあるが、そのどれもが焼け、崩れ、朽ちている。


「おかしい、おかしい、おかしいぞ。災害?地震?いやいやいや、待って。ちょっと待って。」


 地震ならばこれだけの規模の中で寝続けた自分の鈍感さと生き残った悪運の強さを褒め称えたい。しかし、自分の家にそんな気配はなかった。確かにライフラインは機能を失っていたが、家具は倒れておらず、それどころか皿の一枚も落ちていなかった。

 置かれた状況に頭が追い付かず、呆然としていると、突然、傾いたスピーカーからけたたましいサイレンの音が鳴り響き、後から人の声が聞こえた。


『周辺地域にカテゴリーAの襲来が確認されました。住民の方は衛士の指示に従い、神戸高等学校へと直ちに非難して下さい。繰り返します─。』

「今度は何だってんだ!衛士って何だ!くそ!取りあえずウチの学校に行けばいいんだろ!」


 半ばヤケクソに叫ぶ。もう考えることは止めた。いくら考えても意味が分からない。とにかく学校へと向かう事を優先したが、この様子では学校が残っているのかも不確かである。


「でもチャリで20分だぞ。走るしかないのか?瓦礫さえなければな。」


 学校に向かうのは良いが結構遠い。加えて瓦礫で道が悪い。自転車は諦め、走って向かうしかなさそうだった。

 しばらく進むと、ふと日が陰る。何事かと影の原因を探すと、そこには上空を飛ぶ二匹の蜂の姿があった。単体で日を陰らすことの出来る程大きな蜂が。


「なんだありゃ。でか。明らかに普通じゃないな。ははは。」


 もう既にパンクしている頭では笑うしかなかったが、走る速さだけは上げた。瓦礫になった街に危険を知らせる警報、正体不明の飛行物体。流石にそれが危険なものであると予想は出来た。

 だが、出雲を襲う異常はこれで終わりではなかった。速さを上げてすぐ、地面が揺れる感覚と固い物が道路とぶつかるような『ガチャガチャ』という音が徐々に近づいていることに気付いた。


「嘘だろ…。」


 振り向いて気づく。かなり遠くから迫る大数の黒く大きな蜘蛛のような物体に。そしてそれが巨大な蜂型飛行物体から産み出されていることに。


「急げ急げ急げ!」


 走る速さをさらに上げる。息はどんどん荒くなるがそれどころではない。とにかく走った。止まることなく、恐怖から逃げる為にひたすら一人で走った。

 そして、なんとか学校が見える所まで来た。


「学校!どの辺だ。くそくそくそ!どこにもねぇぞ!どうしろってんだよ!」


 周りがこんな状況なのだ。分かっていたとは言え、唯一の目的地であり避難場所であった学校はその姿を失っていた。

 だが、そんなことはお構いなしに蜘蛛型の物体は迫ってきている。残った距離もわずかとなっている。見つかるのも時間の問題だろう


「か、隠れなきゃ。見つかったらどうなるか分かったもんじゃないぞ。」


 出雲は急いで近くで隠れられそうな場所を探す。そして選んだのはコンビニ跡だった。ヒビや崩れた個所はあったものの割かし元の姿を残しており、カウンターの中に身をひそめる事とした。


(何なんだあれ。どう見ても被災者の探索・救出用には見えなかった。兵器?でもなんで?戦争でも始まったか?)


 疑問は次々と浮かんでくるが、答えは一つも浮かばない。頭をガシガシと掻き、思わず拳を床に叩きつける。しかし、感じたのは床の固さだけではなかった。


「新聞!そうだ、何か情報はないか!」


 ここでようやく情報収集の手段を手に入れた。こんな窮地では情報が何よりも大切である。嬉々として新聞を手に取り読んでいく。

 しかし、この新聞は出雲の顔を曇らせることしかしなかった。そうしている間にも蜘蛛型の兵器らしきものの音はどんどん近づいてくる。


「なんだよ。もう訳分かんねーよ。誰か教えてくれ。助けてくれ…怖い…怖い………。」


 そこに書かれていたのは謎の勢力による世界同時攻撃があったこと。その出来事が1年前のことだということ。そして1年前は『正化二十八年』だということ。出雲は平成生まれの高校二年生である。生まれる前の元号にも正化なんて元号はなかった。

 出雲の絶望をより深めるかの様に、ついにコンビニの入り口に1体の蜘蛛型兵器が姿を現した。息を殺して通り過ぎるのを待つ。しかし蜘蛛型兵器は立ち止まると辺りを見回し、探索行動を始めた。


カラン…


「─ッ。」


 無意識に、より隠れようと体が動いてしまい、転がっていた空き缶に手が当たる。しまった、そう思った時には遅かった。蜘蛛型兵器はこちらに向きを変えゆっくりと向かって来る。

 出雲は死にたくない一心で、商品棚を壁にするように駆け出す。目指すのは店の奥の崩れた場所。

 しかし、それを捉えた蜘蛛型兵器は口に相当する部分からガトリングを掃射してくる。

 

「うわああああああああああ!」


 それは出雲が走り抜けた棚や壁を次々と破壊し尽くしていく。

出雲に確実な死が迫ってくる。

 

「ああああああああああああ!」


 そして、なんとか外へと飛び出すことに成功する。時間にして十数秒の出来事だったが、とんでもなく長く感じた。しかし、まだ終わりではなかった。命かながら飛び出した出雲だったが、その足を止めざるを得なかった。周りを見渡し、出雲の心は折れた。

 逃げた先は蜘蛛型兵器に包囲されており、もう、僅かな逃げ道さえも残されていなかった。

 

(ああ、何も分からないまま死ぬのか。死ぬ夢見た朝に死ぬとか、フラグだったのか。)


 出雲は完全に諦めた。朝の夢が死ぬことを示唆していたようにも思え自虐的な笑みがこぼれる。

 そして終わりが近づくのを知らせるように蜘蛛型兵器のガトリングが回転し始める。

 出雲はもう、せめて痛みを感じたくない、そんなことしか考えられなかった。

 そしてついに─

 

ドッドッドッドッドッ

 

 「………。」

 

 発射音はした。しかしいつまでたっても体に衝撃が届くことは無かった。

 

「なん、で?」


 目を開けると蜘蛛型兵器のどれもが背中に大穴を開けられ、その機能を停止させていた。

 その光景を作り出した元凶は蜘蛛型の上、空中に悠然とたたずんでいる。

 そこには思わず見とれる程綺麗な、純白のロボットが飛んでいた。ロボットはその手に大きな銃を構え、こちらをじっと見つめている。

 思わず見とれていたが一難去ってまた一難である。蜘蛛型ですら絶体絶命だったのにそれを数機纏めて倒す力を持った存在が現れたのだ。

 出雲はただ、これが質の悪い悪夢である事を祈った。


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