地響き
3月8日。
康介は会社にいた。
朝、集会の為に現場の港に来ていた。
社長「・・でありまして・・一昨日からニュースで流れている、連続幼女誘拐事件がここ最近連続して起きています、くれぐれも!油断なさいませんようお願いします!親と一緒に手を繋いでいても親を刃物で刺し、誘拐しております」
皆『ざわざわ・・』
社長「出来るだけ、防刃パーカー等ネットで販売されておりますので、購入しろとまでは言いませんが、くれぐれも、犯人が捕まるまでは、決して、決して油断なさいませんよう!ここに警報を発令します、社員の皆さんから、契約の皆さんまで、決して人事ではございませんので、注意すると共に、周囲の友人から、お年寄りにまで、声をかける事が対策に繋がりますから、宜しくお願いします、以上です!」
皆 《パチパチ・・》
康介「・・」〈ギリギリ・・〉 無表情で拳を握り締める。
里美の後輩の従姉妹のお姉さんの娘が被害者だった。
里美の後輩が子供を預かり一緒に遊んでいたが、目を少し離した隙に、誘拐されてしまったらしい。
里美は会社を休んでいた。
良子も付き添いで休んでいた。
男共『「犯人全然手がかりないんだってよ・・」「無能警察が」「やばいよな家にも娘いるのに」』
副社長「ではこれにて集会は終わりとします、解散」
1日経過。
朝、里美良子は出社して来た。
男共『・・』 訊きたいが訊けずににいる。そんな雰囲気。
何を訊くというのだろう。
訊きたい事が山ほどあるのは関係者の筈なのだ。
康介「・・」 黙って仕事していた。
〈ピロン〉里美からPCにメールが来た。
康介「・・?」〈相談したい事があるんです、帰り、駅前のカフェに寄ってくださいませんか?〉
康介「・・?」 里美をチラっと見る。
里美「・・」 赤い目をしている。クマもひどい。
康介「・・」〈はい、分かりました〉
里美「・・」〈じゃあ、18時にリ・ラテで〉
康介「・・」〈はい〉
里美「・・」
康介「・・」
18時。
康介が着くと、彼女はもう来ていた。
里美「私、早めに来たから・・康さんも何か飲みます?おごります」
康介「・・じゃあ・・おすすめを・・」
里美「すいませんおすすめひとつ」
店員「はーい」
康介「・・」
里美「・・」 先に頼んでいたコーヒーを飲む。
里美「相談というのは・・」
康介「・・」 少し乗り出す。
里美「私・・犯人見ちゃったんです」
康介「・・」 癖で顎をさする。
康介「続けてください」
里美「驚かないんですか?」
康介「いや、驚きました・・ですから続けてください」
里美「・・はい・・犯人は多分・・近所に住む男の子です」
康介「・・」
里美「私行方不明の2人目の女の子とその子が公園の砂場で遊んでるの見ていたんです、最初は兄弟かな?って思っていました、でも・・」
康介「ニュースでは長女って言ってましたね」
里美「そう!そうなんです・・私どうしたらいいんでしょうか?こんな事相談できるの康さんくらいしか思いつかなくって、通報して、もし違ってたら・・うう・・」 泣いた。
康介「・・良く話してくださいました」
里美「・・うう・・うう・・」
康介「辛かったでしょう・・」
里美「グス、グス・・ひっぐ、ひっぐ」
康介「・・少し・・トイレに行ってきます」
里美「・・」〈コクン〉
康介「・・」 〈ダッダッダ、バタン〉トイレに駆け込む。
里美「・・(そんなに、我慢してたのかしら?)」
康介「・・」 〈新情報、???区、???番地付近、桜木公園付近、小さな男の子、丸犯可〉
東京湾沖合。
深海。
〈コーン、コーン〉 中型潜水艦。
〈~~~~♪〉 澤野弘行の音楽が大音量。
???「お?〈ギシ〉・・来ましたぞ~・・」〈カチ・・カチ〉
???「・・へえ・・」 〈カチャカチャ〉PCの前にいるひげもじゃの爺い。
オペレーター室のようだ。
???「まさか子供とはねえ・・」〈カチャカチャ〉《ブ、ブ、ブン》 日本、東京、区、番地、市役所のPCにハッキング。戸籍管理名簿の羅列。
???「・・ふんふん♪」 〈ララララララララララララララ・・ピピ〉 523箇所特定。
そこから更に、6歳から13歳まで絞る。
〈ララララララララ・・ピピ〉
78箇所特定。
〈カチャカチャ・・タン〉誘拐現場から近く、桜木公園付近徒歩3分以内に限定。検索。
〈ララピピ〉 2件。
???「・・」〈カチャカチャカチャ〉付近の小さい病院にハッキング。
2人の名前検索。
《ピ、ピ、ピ・・》並列して大きなモニターに画面が分割に映し出される。
《ピ》 3件目の病院でヒット。
もう一箇所の子供、現在交通事故で入院中・・入院時期、2週間前。
検索タイム3分。
〈ピロリン〉康介にメール。
〈 丸 〉内容確認。
康介「・・」〈 R 〉 返信。
康介は席に戻った。
里美「・・冷めますよ?」
見るとお勧めコーヒーが来ていた。
康介「あ、はい、どうも、いただきます」〈ズズ・・〉
康介「ああ・・おいしい」
里美「でしょ?ふふ・・」
康介「はは・・〈ズズ〉」
里美「・・」
康介「暫く様子見ましょう」
里美「え?でも・・」
康介「・・大丈夫、きっと大丈夫ですよ」
里美「・・」
康介「どっちにしても・・です」
里美「でももし犯人だったら・・」
康介「その時はその時です、あなたのせいじゃないです」
里美「でも・・」
康介「あ、僕そろそろ行かないと・・失礼します」
里美「あ・・ちょ・・」
立ち止まる。
康介「そうだ・・里美さん・・」 軽く振り向く。
里美「え?はい?」
康介「コーヒー、助かりました、ありがとうございました」
里美「え?・・ああ・・はい?」
康介「失礼します」 〈カラン、バタン〉 出て行った。
里美「・・」 また座ってコーヒーを飲んだ。
《ざわざわ》 大きい交差点。
康介「・・」 信号待ち。
〈ピロリン〉
スマホを見る。
康介「・・」 〈丸犯確、大人3人、含む、D?〉(犯人確定、大人3人共犯、指示を)
康介「・・」〈サイコ、情無用、犯丸証、消確〉(サイコに情け無用、犯人として証拠ありで殺れ〉
〈ピロリン〉 また届いた。
康介「・・」〈 R、 現押〉(了解、現場を押さえる〉
〈ピンホー、ピンホー〉 信号が青に変わり、《ざわざわ》 皆歩き出す。
康介は少し遅れて、歩き出す。
その目はー。
獣の目だった。
前の通行人カップルの男が怖がり、避ける。
女「どうしたの?」
男「今のサラリーマンすっげえ怖かったあ」
女「え~ヒョロイじゃん」
男「いや・・何か分かんない、すっげえビクってなったわ~」
女「情けないなあ~」
男「馬鹿そんなんじゃねえって」
男は後ろを振り返り、サラリーマンを探すが、もう人混みで見えない。
女「あっそ」
男「おい!待てって」 追いかける。
翌日。
時刻、11時。
犯人小学5年生、男の子。
背は低い、サラサラ黒髪、男前になるであろう顔立ち。
少年「何してんの~?」
幼女「お母さん待ってるの」 3人の幼女達が砂場で遊んでいる。
母親は母達の色端会議に夢中である。
母親がチラッと見るが。
少年がペコっとお辞儀するとまた会議に戻った。
少年「バイバイ」 幼女達に手を振る。
幼女達『バイバーイ』 手を振る。
母親にそういう姿を見せる。
また母親達にペコっと頭を下げ、公園を出て行った。
母親達『「賢いわねえ・・、あの子柳田さんのお子さんでしょう?さっすが大学教授のお子さんよねえ」「あそこ両親共、共働きですってー、全然家にいないらしいわよー」「ええ?無用心ねえ」「でもここ最近の事件って狙われるのは女の子でしょう?」「だからって・・ねえ?」「そうよねえ?用心に越した事はないわよねえ」「家の息子達は大丈夫かしら?」「あんたん所は大丈夫よー」「あらあ?どういう意味い?」あ~っはっはっはっはっは』
柳田少年「今だよ《ガガ》」 無線機で指示。
黒ずくめの覆面男達3人 『・・』 走っていき、《ペタペタ、ガババ》幼女達の口にテープを貼り、3人共砂場から持ち去る。
母親の一人が気づく。
母親1「いやああああああああああ!!」
残りの母親達も気づく。
叫び声を上げながら走るが、肩に幼女を乗せて、走る男にサンダルでは追いつけない。
途中でサンダルを脱いで走るが、 《バン、ババン、キュキュキュヴーーーー、ヴーーーー》 白い、バンに乗られて、発進してしまった。
追いかけた母親「あ”あ”あ”あ”~~~~」 座り込み泣いた。
14時。
警察は3時間後、乗り捨ててある白いバンを発見。
今日の午前10時14分に盗難届けが出ていた。
警察「落ち着いて!落ち着いてくださ!ちょ!」 母親達が懸命に、警察に食ってかかる。
警察「警部・・」
警部「何だ?」
警察「犯人は一人だと思っていましたがどうやら違ったようですね」
警部「ああ・・包囲網をくぐれるとは思えん、一体この区の何処にいやがる・・〈ギリイ〉絶対ワッパかけてやる!」
公園に貼られたテントから出る。
大勢が叫んでいた。
警部「おいおい・・何だこりゃ」
警察「犯人は撃ち殺せって、被害者の親族達が集まってるようで・・」
???達『「撃ち殺せえええ!」「無能警察があああ!」「頼むううう、娘をおお、娘をおっおおお」「早く見つけてくれええ」「あの子だけの為に生きてきたのにいいい・・おあああああ、あ”あ”~~~」』
警部「・・」 怒りで震えていた。歩き出した。
警察「どちらへ?」
警部「散策だ!こんな所いてもラチがあかん!」
警察「自分も!敵は一人じゃありませんから」 歩み寄る。
警部「・・お前・・名前は?」
警察「は!新人刑事、本部遼太郎です」
警部「俺は・・」
本部「存じてます、悪評高い野良刑事、しかし、推理力で次々難事件を解決してるコロンボ刑事、菅野隆 (すがのたかし) 警部」
菅野「・・ふん・・」 歩き出す。
本部「・・」 黙って付いて行く。
まだまだ日は明るいが寒い。
本部「ここら辺は閑静な住宅街ですね」
菅野「ああ・・」
練り歩く。
本部「あの菅野さん・・こんな場所歩いてても・・」
菅野「・・妙だとは思わねえか?」
本部「何がでしょう?は!推理ですね?ちょちょ待って~待ってくださいよ~」手帳を取り出す。
菅野「何してんだ?」
本部「いえ、お気になさらず!どうぞ!」 推理に興味あるようだ。
菅野「はあ・・まあいい、いいか?犯人達は真昼間に堂々と犯行に及んだ、それも親達が見てる目の前だ」
本部「はい、そうですね」
菅野「父親や、若い男が偶然居なかったから良かったものの、もしいたら失敗していたかもしれん」
本部「犯人達の他に共犯者がいると?それも近くで見張っていても怪しまれないような・・女ですか?」
菅野「そう思って既に付近の住民を調べさせたが・・何も出なかった、ここら辺の女共は色端会議を恒例としていて、知らない女がウロウロしていたら目立つそうだ・・しかし、そういった目撃情報はない」
本部「・・とすると?」
菅野「・・考えたくないが・・子供の可能性が出てきた」
本部「子供?」
菅野「ああ・・そしてここが・・俺が怪しいって思う子供の家だ・・着いたぜ」
立派な家だった。現代風のプラモデルの家だが、屋根が瓦だ。柱が大きい。
庭も広い。
一階、2階のカーテンが開いている。
〈ピンポーン、・・ピンポーン〉チャイムを押す。
本部、菅野『・・・・』 〈ガチャ・・はい・・もしもし・・〉 男の子の声。
菅野「随分出るのに時間がかかりましたね~何かしてたんですか~?」
本部「ちょ!?菅野さん!?」
菅野「今ちょっとここら辺の聞き込みをしてるんですが~庭に入れてくださいませんか~」
監視カメラに警察手帳を見せる。
本部も慌てて見せる。
男の子「・・いいよ」
菅野「おお、ありがとうね~僕~」
〈ガチャン〉 門の鍵が開いた。
菅野「・・お前先行け、俺は捜索する、じゃ」 勝手に庭の裏に行く。
本部「ちょちょ!?違法ですって!?ちょ菅野さん!?」 行ってしまった。
〈ピンポーン〉本部は玄関のチャイムを鳴らした。
〈ガチャン、カチャカチャ・・ガチャ〉少年が出迎える。
少年は笑って出迎えた。
3時間前。
母親が追跡を諦めた1分後。
母親の後ろから〈ヴーーーーーン〉一台の黒いバイクが過ぎ去った。
既にバンにはスナイプによる、発信器が付けられていた。
追跡班は2人、科学迷彩機能付きのドローンとバイク。
車を乗り捨て、新しい黒いバンに乗り換え、犯人達は、近くの広い駐車場に黒いバンを置き、ダンボールを運び入れる業者のように、台車で堂々と空家に進入。空き家の一軒家に仮住まいしていた。
ダンボールを開け、女の子達を取り出し、部屋に入れる。
その家は、ある境界から、完全に独立しており、そこからは、ブルーシートで完全に壁という壁を包んでいた。
2階のその部屋には無造作に布団が敷かれ、裸で、バリカン丸坊主、犬用の首輪に繋がれた、女の子達がいた。
まるで家畜。
運び込む為に3人で同時に動いていた為、その部屋にも3人で入っていた。
その様子を確認する部隊。
〈ザザ〉ひげもじゃからライダー女に通信。
ひげもじゃ「今メール確認したぞい、こりゃあ・・とんでもない奴が敵じゃてははは、ほい、送った」
???「・・」〈ピピピ〉 ヘルメットに映し出される真実。
???「〈ギリイ〉・・ベータ達に連絡を、そっちはくれてやるわ」
ひげもじゃ〈ほいほい〉
???「その代わり・・見せしめに派手に殺ってって伝えて」
ひげもじゃ「・・・・ほいほい」
敵はヤクザ銀龍会。
人身売買の巨大マーケットに売りさばいていたのだった。
ライダー女「こっちは・・」 バイクを降り、〈コキコキ〉首を回しながら家に歩く。
ライダー女「内蔵をぶちまけろ糞共」
ひげもじゃ「お~怖〈カチカチカチ〉 ほい、要請完了、目標、銀龍会、撃滅せよ」
ライダー女「・・」〈カチャ、キイ・・バタン〉
階段から一人、一人犯人達が3人降りて来る。
玄関から奥の方の階段を登るライダー。
犯人1「なん!?〈ズドオオ!〉おおおオオォォォ〉 金的蹴り。
犯人2「ああ!?え?〈スウ〉」 手すりに両手捕まり、両足で頭を挟む。
犯人2「ちょ!?」〈グイイ・・ブウウン!〉後ろに落ちる勢いを利用し、投げる。
犯人2「ああ!!〈バゴオオオオ!!〉 トイレの壁に穴が空き、頭を突っ込んだ姿勢。足は浮いて、ビクンビクンしている。
犯人3「てめえ!どこの組のモンだあ!?家が銀龍会って知ってー!?」後ずさる。が、
〈ガ、グイイイ〉捕まえられ、階段の上下逆転。
犯人3「ひ・・助け・・」
ライダー女「・・」 首切りのジェスチャー。
犯人3「こんな事してただで済むと〈ドン〉ああああ!?」思いっきり蹴られ、トイレの穴にまた穴が開いた、今度は後頭部から突っ込んだ。血だらけで死んでいる。
ライダー女「・・」《ピピピ》 心音確認。
犯人達全員死亡。
ライダー女「大丈夫よ・・」 怯えてる女の子達に声をかける。
ライダー女「・・」〈ツーツーブッ〉
ひげもじゃ〈はいはい〉
ライダー女「片付いたわ・・警察呼んで」
ひげもじゃ〈了解ー〉〈ブッ〉
ライダー女「・・」 女の子の頭を一人一人優しく撫でている。
女の子達『・・』 泣きもしない。
ライダー女「降りちゃダメよ?すぐに警察が来るから、ね?」 2階の窓から〈ヒュ〉 消えた。
少年「お疲れ様です・・もう帰るんですか?淋しいなあ・・」
本部「ごめんね?仕事だから行かなくっちゃ」
菅野「っち・・行くぞ」 時間の無駄だった事に腹を立て、玄関を出ようとー。
〈~~~♪〉 鬼平のEDが流れた。
菅野「おう!」 菅野の着メロだった。
本部「(渋いなあ)」
菅野「・・おう・・それで・・ほう・・んで?」
本部「じゃあね・・何か急な仕事みたいだね、行かなくっちゃ」
菅野「ほ~~~ん・・分かった・・ああ・・今目の前だ・・ああまあな・・じゃ」
柳田少年「・・」
菅野「・・」
見つめ合う。
柳田少年「・・」 下を向く。
本部「え?え?」
菅野「本部、逮捕だ」
本部「警部まさか・・」
菅野「そのまさかだ・・メールの確認が取れた、そいつは、遊ぶ金欲しさに銀龍会ってヤクザの手伝いをしていやがったんだ」
本部「そ・・そんな」
柳田「クスクス・・クスクス」
本部「君は・・」
柳田「ああ・・あ~あ・・バレちゃった」
菅野「本部、お前の職業は何だあ!」
本部「!!~~~~~」 決心する。
本部「〈カチャカチャ・・ジャギ・・チキ〉君には黙秘権がある、今からの発現内容は裁判で・・」
その日、子と親が再び会えた。
最初の子供達3人は、残念ながら解体され、各臓器は中国の闇に消えていた。
追跡は困難とされ、捜査は打ち切られた。
救えた命は最近の者達9人中、6人。
メールの過去を遡れば126人の命が売買されている事実があった。
その殆どが捜索願いが出されていた子供だった。
2日後。
1時15分。
警視庁屋上。
菅野「(そのメール情報が、どうやって上の上層部に流れたのか、そんな事はどうでもいい)」煙草をふかす。
菅野「(問題なのは、日本支部の長野に拠点を置く、銀龍会本部が、一晩で襲撃を受け、壊滅した事・・)」
〈ヒュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ・・〉
菅野「くそ・・一体何が起きてる?」
東京ネオンが輝いている。
菅野「地響きがすげえぜ・・誰かさん・・」
〈ジュボ〉 煙草にまた火をつけた。