嗅覚
休日。
午前10時。
一昨日は給料日だった。
15万引き出した。
これしか普段の生活で使わないから十分だった。
康介「よし・・」 帰ろうとした。 《ガシャアアアアン!》
自動ドアが反応しない、それどころか・・鉄格子が降りていた。
康介「あれ?」
左側の窓口がある部屋で騒いでいる。
男1「てめえ!今押したろ!」
銀行員1「ひいい!」
男2「全員動くなあ!」〈バンバン〉拳銃を持っている。
客達『きゃあああああ』
《ガチャガチャ・・》 犯人達は!~5人、全員覆面をしだした。
どうやら2がリーダーのようだ。
犯人2「あんた余計な事したな・・勇気は確かに大事だが・・命はもっと大事だってママに教わらなかったか?」
銀行員の女が拳銃を向けられ怯えていた。
犯人3「ほら!ATMの連中もこっちに来い!」 拳銃を向けられる。
ATMの客も入れれば36人。
犯人1「どうする?」
犯人2「仕方ねえ・・プランBだ」
犯人達はお互い頷く。
犯人4「ほらあ、並べ、ほらあ!撃たれたいのか?ああ?ほら、早くしろ!」
どんどん客達を無理やり並べていく。
銀行員は仕事フロアで手を挙げていたが、禿げたおじさんが責任者と名札で突き止められ、バッグを渡された。
店長「あ、はい、詰めます、すぐ、やります、はい」
マニュアル通りの対応だ。
犯人2「他の店員はこっちに来い!・・早くしろ!」
店員達を、客のフロア側に並べる。
犯人2「大人しくしておけば何も危害は加えない、約束は守る、ただし、余計な真似をした場合、無関係な者も一緒に死んで貰う、連帯責任って奴だ、だから英雄になりたいなんて馬鹿な考えはよせよ?、失敗すれば、その馬鹿のせいで、あと一人死んで貰うからな!」
康介「(中々上手いな)」
観察する。
自衛隊?何かの訓練は一応受けてるようだった。
康介「・・」
犯人5「ん?何だお前?」 康介の視線に気づいた。
康介「い、いえ・・何でも・・」
犯人5「・・・・」 じっと康介の目を見てくる。
康介「・・」 目をそらす。
犯人4「どうした?そのおっさんがどうかしたのか?」
犯人5「こっちを見ろ!」 歩み寄る。
康介「い、いえ、本当に何でも・・」
犯人5「いいから、顔を上げろ」 〈チキ〉〈グイ〉 頭に拳銃を突きつけ、襟首を掴み、引き寄せる。
犯人2「どうした?何やってる?」 リーダーが気づく。
犯人4「知らねえよ!こいつがただのおっさんに」
犯人5「・・あ、け、ろ」 〈チキキ〉 目を瞑り、震えている。
犯人2「よせ!何してんだ!?」 駆け寄る。
犯人5「こいつの目を見てから判断する」
犯人2「は?目がどうかしたのか?」
犯人5「・・早く見せろ、お前の目を」
犯人2「いい加減にしろ!今こんなおっさん相手にしたって意味ないだろ?」
犯人5「そっくりだったんだ」
犯人2「は?何が?」
犯人5「こいつの目だよ!獣の目だ!」
犯人2「・・本当か?」
犯人5「一瞬だったが・・だからもう一度・・」
犯人2「・・はあ・・おい・・あんた・・こいつに目を見せてやってくれ・・それですぐ終わる」
犯人5「見せろ!」
康介「・・は、はい・・す、すいません・・」 目を開ける。
犯人5「・・」 じっと見る。
犯人2「・・どうだ?・・気は済んだか?」
犯人5「・・」 見つめる。
犯人2「・・」
康介「・・ひ・・ひ・・」 引きつらせ、怯えている。
犯人5「お前・・貧弱だな・・」
康介「ひ・・すいません・・」 涙を流す。
犯人2「・・もういいだろ?」
犯人5「何だ?変なネックレスしやがって〈パチ〉・・・・ふん、ロケット・・奥さんか・・結構美人じゃねえか・・」
犯人2「おい」
犯人5「・・ああ・・勘違いだったようだ」 〈バ〉 離す。
康介「あう!」 眼鏡がズレる。
犯人2「そいつからも携帯を没収しろ」
犯人5「ああ・・ほら・・出せ!」 スマホを渡した。
犯人5「ケ!貧弱なくせに見てんなよ?黙って下を向いてろ!」 持ち場に戻る。
康介「・・はい・・すいません・・」 汚く座り、足を伸ばし、襟首を乱し、下を向き、眼鏡がズレ、一見弱々しい、が・・。
その顔は・・無表情で・・。
警察が包囲し、2時間経過。
今だに膠着状態。
押し問答が続く。
犯人達はイライラしだした。
康介「(まずいな・・このままじゃ、誰か見せしめになるぞ)」
人質全員手を縛られ、口にビニールテープ、座っていた。
犯人達は2階と一階に別れ、人質も分散させていた。
小型のバッグを各人持ち、いつでもバラバラに逃げれるようにしていた。
SAT部隊がいつ突入してくるか分からない。
携帯は全て壊された。
康介「(・・仕方ない)」 〈レロレロ〉 テープを舐める。〈レロレロ〉〈ズリズリ〉 尻で少しずつ移動。30cmくらい移動。
よく犯人を睨んでる男の人が隣にいたから相談。
康介「すいません・・あの・・すいません」
客1「ふ?ふんふ?」
康介「こんな時に・・大変恐縮なんですが・・」ネックレスの中の妻の写真を見たいから背中の手の指を立てて貰えません?私が揺らすんでタイミングよく取って貰えません?」
客1「ふんふ?ふ~ふ」 首を横に振る。
康介「ありがとう、じゃあ・・いきますよ?」
客1「ふ?~ふ?」 構わず屈む康介。
康介「ほら・・取って」 体を揺らし、客1の指に引っかかった。
客1「ふ~ふ~」 取った。
康介「そう・・そのまま」 首を引っこ抜く。
康介「ありがとう、助かりました」〈ズリズリ〉今度は客1に対し背中を向け、手に取る。
犯人5「お前・・何してる!?」 駆け寄ってくる。
康介「べ別に・・何も〈グイイイイ〉お~~!?」持ち上げられる。
他の客達『ん”~ん”~』
客1「!?」 見ていた。
康介が後ろ手で、ロケットを開き、写真の部分を強く押した所を。
犯人5「ん?何を持ってる?〈グイ〉・・あのロケットか・・没収だ!」 取られた。
康介「お願いです!返して!返してくださ〈バリ〉痛!〈グニュグニュ〉ん”~ん”~」 剥がされ、また新しく貼られた。
〈ボグ〉〈ズダン〉 顔を殴られ、座り込んだ。
犯人5「ったく・・後一回邪魔しやがったらぶっ殺すぞ!」 離れた。
康介「・・」その目は最初は怯えていたが・・犯人5が離れたら・・うっすら笑っていた。
客1「(・・この人何で・・)」 それを見て戸惑っていた。
20分後・・。
報道ヘリが現場に飛んで来た。
銀行の真上に報道ヘリが差し掛かった時・・。〈バ!〉何か黒い物体が落ちた。
スナイパー組『!?』
ヘリはそのまま通り過ぎる。
それはスライムみたいなモノだった。
スライムの上に丸い機械?平べったいモノが乗っている。
スライム20cm、丸い機械50cm。
まず、スライムで銀行の屋根に〈ブニュ〉ひっつき、着地。
次に、上に乗っている丸い何かが、〈プシュ〉広がり、〈カチカチカチカチ〉細い足?を円形に何本も出し、5倍に広がった。
そして、5本レーザーを出し、円形に回りながら《キイイイ、ジジジジジジジジジジ》素早く切っていく。
スナイパー組『何だ!?何だあれは?《ザザ》こちらスナ2班!あれは突入してるのか!?』
銀行2階。
《ジジジジジジジ・・》
犯人1「糞お!奴らめ!人質の命は無視かよ!」
犯人2「糞!こうなったら待ち伏せだ!上から脱出してやるぜ!」
犯人1「おお!いいアイディアだな!」
《ジジジジジジジ・・》 《ババババババ》ヘリが戻って来る。
スナイパー組『あのヘリは本当に報道ヘリなのか?問い合せてくれ!」
《ジジジジ・・》〈バ!〉 明らかに人が飛び降りた。
スナイパー組『!?』
《ジジジ・・ピピ》終わったと同時に着地。
《ガゴオオオン・・》 天井が丸く落ちてきた。その上に黒いライダースーツ?人が乗って一緒に落ちて来た。ヘルメットをしている。
犯人1、2『うおおおおお!』《バンバンバンバン》 完全に落ちる前に撃ちまくる。
???「・・」 落ちる途中でバク転。しながら・・ヘルメット内部が光る。《ピピピ》 内部様子確認。
着地と同時に背中腰から2丁拳銃を取り出し、《バンバンバンバン》 華麗に仕留めた。
客達『ん”~~~~~~~~~』 白目剥きながら泣いている。
???「・・」 《ギギギ・・》エレベターをこじ開け、〈ヒュ〉落ちた。
犯人3~5は上の地響きで動揺していた。
犯人5「糞!通じねえ!やられたのか?」
犯人4「どうすんの?ねえ?どうすんの?」
犯人3「落ち着け!こっちには人質がいるんだ!」
犯人5「ほらあ!お前立てー」 若い綺麗な女性が連れ去られようとした。
《ドガアアアアンンンーー》 エレベーターの方から凄い音がした。
犯人達3人『・・・・』 全員エレベーターを見る。
《ギギギ》 何かが開けようとしている。
犯人達『・・』《バンバンバンバンバン・・》 扉越しに撃ちまくる。貫通しているようだ。
《キキキン・・》薬莢が転がる。
エレベターの屋根の上に逆立ちしていた。
〈グン〉 逆立ちからの振り子で思いっきり《ドガ!》ドアを蹴る。《ガコココオオン》まあまあ吹っ飛んだ。
《バンバンバンバン》すぐに打ち返す犯人達だったが、またすぐ屋根に引っ込んだ。
《バンバンバンカチカチカチ・・》 弾切れ。装填しようとー。
〈スタ〉降りて来た。〈スタスタ〉悠々と歩いて来る。
犯人達『くそくそ・・」《カチャカチャ》 慌てて装填するが・・。
???「・・」《バンバンバンバンバン・・キキキン》 待たずに発砲。
犯人達は全員死亡。
???「・・」 《ピピピピ》辺りを軽く見渡し・・。
???「・・」 またエレベーターに戻っていき、〈ヒュ〉上に消えた。
客達『ん”~ん”~』 泣いている。
スナイパー組『あのヘリ撃つのか?撃たないのか?決めてくれえ!』
《バババババ》 ホバリング。
警視庁特別捜査本部。
警察上層部『責任がどうのこうの・・』
屋根にライダースーツが現れた。
スナイパー1「現れました!」
スナイパー2「どうしますか?」
スナイパー3「隊長!?」
スナイパー4「隊長!指示を!」
スナイパー5「・・・・女なのか?」
隊長「やめろ!撃つな!繰り返す!撃つな!クビになりたいのか!?」
ライダー女「・・」 手を振る。
隊長「舐めやがって・・次に現れたら・・足は撃てるからなあ!!」
ヘリからロープが下ろされる。
ライダー女「・・」 捕まり〈ウウウウウウウウウウ〉素早く巻き取られていく。
《ババババババ・・》 離れて行く。
警部「警察ヘリはまだかあ?」
警察「は!現在、申請中との事です!」
警察「はい・・はい・・少々お待ちください・・警部!報道ヘリで追いかけますか?って許可を求めてますが?」
警部「駄目だ!危険過ぎる!追い返せ!」
警察「は、はい!」
警部「何だってんだ・・糞ったれ!・・」 タバコを投げ、踏みつけた。
皆が見守る中、偽の報道ヘリは悠々とその場を飛び去った。
康介「(・・仕方ない・・な・・)」 立ち上がり、窓から覗く。離れて行くヘリを見ながら憂いていた。
客1「・・」
救急車を断り、明日事情聴取という事で帰宅しようとした。
客1「あの・・」
康介「?はい?」
客1「あの・・すいません・・あの・・ペンダント・・ロケット、見せて貰えます?」
康介「はあ・・そりゃまたどうして?」
客1「あなたの奥さんですか?」
康介「・・」
客1「綺麗な方だって犯人の一人が言ってたから・・気になって・・」
康介「・・失礼ですが・・」
客1「あ!これは失礼、私、月日新聞の新田と申します」
康介「あ、記者さんでしたか」
新田「はい!お陰様で大スクープですよお」
康介「それは良かったですね、しかし、残念ですが、急用がありまして、失礼します」
新田「そうですか・・いや残念・・そうだ・・名刺頂けますか?」
康介「すいません、今日は・・休日で」
新田「でしたら、折角の縁ですし、お名前を」
康介「はあ・・船場・・船場康介です」
新田「船場康介・・字はこうですか?」
康介「あ、はい・・合ってます」
新田「じゃあ・・また明日・・船場さん」
康介「あ、はい、そうですね・・では、あの、失礼します」
新田「どうも~」 離れる。
歩いて行く康介の後ろ姿。
新田 {犯人5「こいつの目だよ・・獣の目だ!」}
新田「・・獣の目・・ね・・面白そうじゃん?あんた・・」
康介「・・」 疲れた目で歩く。
翌朝、会社に事情を説明し、警察の事情聴取へ。
正直にあった事を話し、特に犯人でもない為、簡単に終わる。
警部「あのライダー女について・・何か知ってる事はないですか?」
康介「はあ、ありませんが・・」
警部「それにしてもあんた・・よく事件に巻き込まれるねえ・・この前の立体駐車場の時もここで俺が話聞いたでしょ?」
康介「はあ、すいません・・」 カバンを膝に抱え、しおれて座る。
頭を掻く警部。
警部「ああそう・・分かった・・もう帰っていいよ、ご苦労様」
康介「はあ、どうも・・」
警部「そうだあんた、やけに落ち付いていたそうじゃないか、何か落ち着かせる方法でもあるのかね?」
康介「・・そう見えるだけですよ・・まあ・・後は死んでいくだけですから」
警部「・・」 じっと康介の目を見る。
康介「む・・何か?」
警部「いや!すまんかった!帰っていいよ!すまん!」
康介「・・はあ・・失礼します」 〈バタン〉
警部「・・ち・・あいつも白か・・新田の奴・・ガセじゃねえか」
警官「普通の弱々しいサラリーでしたね、所持品からも特には・・」
警部「あの現場にあれだけの装備でたった一人で踏み込み、突入に使用した機械も全て焼けて検査出来ないときたもんだ、絶対に、あの人質の中にどうしても救わなきゃいけない奴がいた筈なんだ!ちっくしょう!」
警官「次の証人呼びます」
警部「ああ・・頼む」
〈ガチャ〉
銀行員おばちゃん「警部さああん、本当に、本当に怖かったのおおお、おおお、お、おおお」
警部「う~ん・・」
おばちゃん「あのね?私はすぐにマニュアル通りにしようとしたのよ?それなのにあの小娘が余計な事するからあああ、銃撃戦よおお?すっごい、もうすっごい音がしたと思ったらもうすっごいばんばんばんってええええええ・・」
警部「はいはい・・もういいよ~はい次の人~」
夕方。
新田「え?何も出なかった?」
警部「ああ・・そいつからは何も出なかった・・一応身辺調査したが・・10億証券口座にあったくらいだが・・特に怪しい金の動きもなかった」
新田「10億?」
警部「ああ・・だが、株が上手い奴だったら、別に不思議じゃない、給料がいい所に勤めてるしな」
新田「その勤め先・・教えてくださいませんか?」
警部「おいおい」
新田「お願いします、警部には迷惑かけませんから」
警部「しかしな・・」
新田「・・5万で」
警部「・・そんなに気になるのか?」
新田「ええ・・僕の感です、あの男には何かある」
警部「やりすぎるなよ?」
新田「分かってます」
警部「・・はあ・・分かった7万で」
新田「分かりました・・では・・」〈ピコン〉
あの後ろ姿を思い出す。
《ババババババババ・・》ヘリの音。
蠢く巨大警察車両ライト。
怯えた客達。
その中でただ一人。
違う雰囲気で、窓を眺めていた男。
新田「〈ゾクゾク〉待ってろよ・・僕が暴いてやる・・お前の秘密を!」〈ゴクゴク・・ポイ、ガラン〉
缶コーヒーをゴミ箱に投げ入れ、歩き出した。