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若返った賢人  作者: かーむ
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入学準備 ①

 その翌日、師匠と学園まで結果発表を受けに行った。正直、合格はしている確信があったため、お互いに平常運転である。


「て言うか、幾らなんでもお前食いすぎだ。ほんと朝からよく食うておるな……」

「身体慣らすために武術の稽古をしてると冗談抜きで体重減るんですよ」

「乙女に向かって喧嘩を売っているようにしか聞こえんわ……まったく」


 実際に若返った身体になれるには単純に運動をして動かす以外、方法は少ない、若いからと言って怠けるとどうなろうか。この若い世代は成長率が良いかもしれないが、何もせず勝手に強くなる夢のような身体では無い。

 怠らず精進しなければ簡単に堕ちる。

 人間誰しもそうである。


「試験結果発表まで二時間はあります。まだ時間には十分余裕ですが、何かしましょうか?」

「……いやエリファスよ。だから何故そんなに時間を持て余す様な集合をしたんだ? よく言うておっただろ『時間は金で買えない』。お前の信条だろうが」

「あぁ、その事ですか」


 俺は相槌を打つ。そうしてポケットから取り出した赤と黒の縦長の箱。『ウッドウィズ』と『ラビット』の二代メーカーの杖だ。しかも最高品質の。


「昨日で大体の解析は終わりました。現代魔法具の内蔵魔法陣。とても魅力的でしたね。見惚れました。まぁという訳で、もう俺に『これ』は必要ないんで、是非受け取って下さい」

「それは私の私塾、門下生の奴らの指導教材にしてくれ、と解釈していいんだな?」

「まぁ、そうですね」


 師匠は、クスッと頬を緩ませる。


「その杖、二つで百万ユグルは下らんぞ。いいのか?」

「じゃあ、ここの飯代を俺は師匠におごられます。それで手打ちにしましょう」

「ふん……馬鹿ものめ。いいだろう……好きなだけ頼んで食え。ただな、遠慮しろよ?」

「はは……そんなの分かってますよ」


 俺の愛想笑いに見兼ねて師匠は腹を抱えて笑った。目から零れた涙を人差し指ですくうと、師匠は息を吐いた。

 

「で……本題は何だ?」

「まぁ……あれですよ。俺は一応平民じゃないですか、昨日試験会場に実際行ってみて見ると貴族の選民意識が酷かったので何か牽制をしておこうかと……」 


 そこまで言い含めると師匠は顎に手を当て少し悩んでいた。この馬鹿弟子が学園に混じれば、まず間違いなく悪目立ちする。頭を下げて貴族と仲良くやれないような奴ではないが、向こうがどう思うかはこっちの問題ではない。


 平民と貴族の間には魔法のレベルに埋まらない(みぞ)がある。貴族家庭の幼少期から続く英才教育は、必然的に平民との大きなアドバンテージになってしまう。そこからくる優越感は仕方のない事かも知れない。

 ティファニーはそういう感情が薄いかもしれないが、貴族の大半は選民意識を持っているはず。少なくとも学園に入学するレベルの貴族はそう育てられる。プライドが何よりも先にくる様に。


「むしろ、エリファスはそのままでいいのではないか?」

「と、いいますと……」

「大体、お前に多少手荒な真似をしても何ともないだろ。それにな、学生の本分だぞ。妬みや嫉みって言うのは。楽しむんだろ? いいではないか、来るものを拒まずってのも」

「なるほど、その回答は盲点でしたね……面白そうですし、多少の厄介事ならば手の届く範疇で受けてみましょう」




 ✳




 昨日は試験会場、今日は魔法学校としての機能を果たしている場所に着いた。(まば)らに手伝いの在校生の姿が見える。今日は、保障人手続きや入学生説明があるので在校生がいた方が何かと都合がいいのだろう。

 そんな事を考えていると後ろから声をかけられる。


「エリファスさんっ! おはようございます」

「あぁ、ティファニーさん。おはよう」


 ティファニーは俺達に追いつくと、並行して校内の発表場まで歩いて行く事になった。


「むむ。もしやフォーケン家の入学生とはこの娘の事か?」

「そうですよ。師匠は何度かお会いになってるんじゃないですか?」

「あぁ、初対面ではないが前会ったのは何年も前だからな、面影がある。どうもミハイ=ルージュだ。エリファスの在学中の保障人になる予定で今日は同行している。ティファニーとは幼い頃にあったきりかもしれんな」

「こちらこそ、よろしくお願いします。ミハイさん。……ミハイ、って!? えぇッツ?! あ、ああの元宮廷魔法師団団長の?!」


 ティファニーはいつに無く取り乱していた。確かに師匠の名は有名だ。


「そう驚くでない。まぁ汝も随分と麗しくなったな。」

「い、いえ。そんな勿体無い……」


 二人の会話の終始がつかないようだが乙女の会話はそういうものだ、と言うことで余り茶々は入れない様にする。


「さ、急ぎましょう。もう結果発表はされているでしょうから」


 五分ほど歩くと受付嬢の姿が見えた。まぁ試験結果は見てきたが一位だった。Pointと言うのがあったがあれは何なのだろう。大方、その者の成績のベクトルを数値化したように見えるが、後で聞くか。


 受付嬢の前に立つ。合格した者は制服や教材などを、受付嬢に番号表を渡してその場で受け取るのだとか。


「試験番号09021です。合格したので受け取りに来ました」

「試験番号09021、エリファス=フォード=ベルンハルト様ですね。721年度首席おめでとうございます。他の生徒とは違い、入学式時に挨拶をなされる事になる等、色々やる事が多いかもしれませんが追加資料に全て記載されていますので御確認下さい。……こちらが受け取りの品になります」

「ありがとございます。そう言えば保障人の受諾はどこでやっていますか?」

「御本人がいるならばこの場でも可能ですが」

「ならば頼もう」


 師匠が割って入る。

 俺はもう邪魔になるので後ろに下がっていると旨を伝えた。


「では契約条件に同意なさった上でお名前と職業名、連絡先をご記入して下さい」


 師匠は両手で契約内容を開け読み終えると、迷う事なく紙に書いてゆく。

 正直、ここで断られるのでは、と少なからず思っていたので安心した。


 受付嬢の顔が次第に真っ青になっていく。師匠の名前を見たからだろう。同時に頷いている様にも見えた。ミハイ=ルージュの教えを受けているなら首席という結果も当然の帰結かもしれない、と。


 周囲を見渡して見ると、チラホラと青い制服姿の在校生以外の姿。在校生では無いというのは、嬉しまみれの表情から読み取れる。合格した連中が足早に貰った制服に着替えたのだろう。奥に更衣室が有るらしい。


「あ、今受け付け終わったんですね?」


 眼下の少女も同じであった。足首まであるロングスカートに花の紋様があしらわれたブレザー。全体的に青を基調とした色合いはティファニーに良く似合っていた。


「もしかして、採寸は今やったほうがいいのですかね?」

「えぇ、合わなかった時のために今着替えておくのがいいですよ。もし丈が合わなければ直ぐ裁縫の魔法でやってくれますし」

「そのようですね。早速、着てきます」


 男子の更衣室のドアを開き中に入る。何人か居るようだが皆お互いに称え合っているよりは、嬉しさでしどろもどろになっている。


 当然、幾人からの視線は感じる。しょうがない。目立ってしまったしな。


「お、金髪ポニーテールに青い瞳……もしかしてお前、ベルンハルトか?」

  

 唐突に声をかけられる。しかし聞く限り挑発的な声色の調子でない。


「あぁ、そうだが」

「そうか、そうか。俺は一年のアイン=モントール。よろしくな首席さん」

「首席さんはやめてくれ。アインでいいか?」

「おう。じゃあ俺はエリファスって呼ぶか。しっかしまぁすげーなアンタ。入学時のポイントで千九百なんて初めてらしいぞ」

「どうも。といいたい所だが、何だそのポイントってのは?」


 と、喋りつつも着替えを同時進行する事を忘れない。アイン=モントールは恐らく平民だ。素振りが大雑把な所が。茶色い短髪に隆々とした体躯はまるで騎士学校の生徒の様だ。入る所間違えたな。


「はは、……え、まじで知らないのか?」

「あぁ、まじで知らん。教えてはくれないか?」

「まぁなんつーか、首席でも知らない事あるのなー。一言で言ってしまえばポイントってのはな、そいつの成績だ」


 まんまだな。予想を超えて欲しいとは思わかなかったが、成績か。自発的に生徒同士で研鑽できる仕組みがあるかもな。導入した奴はいい性格している。


「ポイント=成績。つまりポイントが足りないと進学は出来なかったりしてくるのだな?」

「おうよ、その通りだ。確か、二年になるには三千ポイント貯めなきゃいけないらしいぞ。ほれ、俺のポイント」


 と言ってアインは腕に付けたブレスレットをコチラに見せつける。魔力を込めるとポイントが表示される仕組みであった。アインのブレスレットに表示されたのは『893』という文字。つまりこれがアインの成績か。


「アインは具体的なポイントの入手法を知っているのか?」

「あぁ、ポイントは授業の評価で毎回つけられるらしいぞ。先生が毎回百点くらい持ってきて成績に応じて分配する感じだなー。後は1日1ポイント、登校してその日の授業全部受けると自動的に貰える」


 実に合理的だな。優秀な者に軍配がずっと上がる。そうなるとポイントの取れない者は進級出来なくなり、必死になる。常にポイントという視覚化させる成績によって優劣を付ける。まるで大人の競争社会をそのまま持ち込んだ様だな。


「分かり易い解説どうもありがとう。こう見えて友人がいないのでな、アイン、是非俺の友達になって欲しい。お互い平民だしな。気楽に喋れる奴がいると楽だ」

「なんだそりゃ……別にいいけどよ。エリファスって平民だったのかよ。ったく、小っ恥ずかしい野郎だな」

「何事も口に出さなければ最終的には伝わらないからな」


 そう言い終わる頃には制服へと着替えが完了していた。採寸は、完璧だった。良かった。これを再度着直すのは面倒だしな。時間の無駄だ。


「アイン、制服は合っていたか?」

「まぁ、割りと。って言うかすげぇな。ちょっとした身体の特徴書いただけで服合わせ出来るなんてよ」

「あぁ、しかも合格判定が出て1日足らずだ。腕の立つ職人が大勢いるのだろう」

「規模が怖えよ」

「同感だな」

多大なブックマーク、評価。ありがとございます。

更新ペースは相変わらずですが取り敢えず無理なく書いていきます。甘美なレビューを下さった永剣 塁様ありがとございます。

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