兄弟はそれぞれの道を歩む
『いらっしゃーい。あっ! また来てくれたんだね』
『やっぱり君は凄いなぁ、私なんかいつも全力なのに空回りしちゃうから羨ましい〜』
いつの記憶か、その時何が起こっていたか、今なお脳に焼き付かれたまま、鮮明にその時の事を覚えていた。
彼女の微笑む姿を見るためだけに、俺は必死になった。
俺は……
俺は彼女のように、学園で生活出来ているだろうか。
✳
日出る元、その日差しを遮るものはなく周囲は野次馬の視線と相重なり、これまでかというくらいの熱気を発していた。
その野次馬の視線の先には青いロングコートの様な制服、魔法学校のコートスーツに身を包み、腰に届きそうな結った金色の髪を垂らし、試験官へとその距離を一歩、また一歩と縮めてゆく。
不思議とその場を観ていた者達も試験をするとき同然の緊張が各人の神経を刺激した。
見ている誰もが瞬きせずに彼の動向を探る。全員が全員、彼に魅入っていた。それは『学ぶ』という外部からの命令ではなく、内在的に存在する『本能』に似た何かが全員をそうさせていた。意識していないに関わらず彼から目が離せない。
それもその筈だった。
合宿中でひとりだけ二千ポイントを超えるポイントを総取りした挙句、騎士学校首席のトイロに真っ向から挑み、剣術で勝った。偉業という他にどんな言葉を当てればいのか分からなかった。
✳
「では、始めろ」
試験官の合図と共にエリファスは周囲の魔素を練り上げ、変換した魔力を魔法式へ流し込む。
エリファスの足元に大円陣が発生。
続いて大円陣を基点に分化した魔法陣が、大円陣の周囲に五つ形成される。
通常、ひとつの魔法陣で魔法ひとつを発動する事が可能である。逆に言えばひとつの魔法陣で二つの魔法は扱えない。二つ以上の魔法を同時発動したい場合、その方法は限定され、魔法陣を増やすしかなくなる。そして各種魔法によって差はあるものの、魔法陣は違う魔法であると、互いに干渉し合い、その結果、陣形を乱す性質がある。故に、同時に違う魔法を使おうとしても2つ3つの魔法陣を展開するのがやっとの事になってしまう。
そして現時点で魔法陣を六つ展開しているエリファスの常識破りには、言葉を失う。
凄まじい量の魔力は、エリファスの体内で暴れまわる様に奔流するが、難なくコントロールし円陣を調整する。
――周囲にはそう見えていた。
事実上、魔法陣を同時展開し、魔法が発動するに至ったのは最大数は過去に4つまでが最高であった。
無論、これは過去の賢人の記録である。
手抜きをしていたのではなく、4つの同時発動が限度であり、それ以上増やすと暴発又は不発する。
魔法陣を起動するまでは良い。しかし、魔法が発動してこその同時発動である。魔法陣を増やすだけなら鍛えれば誰にでも出来る、魔法を発動したか否かに、成功がかかっているのだ。
エリファスは暴走しかけている五つの魔法陣を、中心の無属性魔法で刻まれた大円陣で無理矢理押さえ込んでいた。
まだ発動する迄に程遠い完成度。
力でねじ伏せているが、それではまともに魔法は発動してくれない。
しかし、ここですべきは力による解決ではない。兄さんに対抗しうる力は、これに懸かっている。
この時代の魔法には不完全な点がある。
――単一性がないと安定しない魔法陣。
しかし、これが解決方法の糸口となるのは頭を抱えたくなるレベルの盲点だった。
少しばかり途中の過程は省くが、この理論に則った場合、ひとつの魔法なら問題なく発動するという様に、同じ魔法陣なら干渉しない点も含め、異なる属性魔法の魔法陣を全て同じにすれば良いのだ。
……要は、魔法陣を全部まとめて同じ構成にすれば、互いに干渉せずに発動する事が理論上、可能であることは言える。
……まぁ、無理矢理な気もするが出来ないことは無い。
目を閉じ、魔法陣のコントロールに集中する。
五属性魔法の魔法陣を調整。
基底となる部分はそのままに、外殻を統一する。
《体内魔力管理権限を一時的に補助動力に委託》
《認識及び領域制限を強制解体》
《……源域魔力、流失量20% ――突破》
《……危険値量まで70% ――進行》
《……領域管理権限40% ――上昇》
【――第1要塞『怒門』 ――開放】
上昇した領域管理権限を最大限に使い、五つの魔法陣の外殻構造を破壊、予め用意していた代替プログラムを、破壊した魔法陣の外枠に刻印。
「――……ッ?!」
無理な魔力酷使、大量の魔素返還に遂にエリファスの身体は悲鳴を上げた。激しい頭痛と倦怠感、吐き気がエリファスを強襲する。
「お、おい、平気か?!」
顔をしかめるエリファスに試験官は中止も考えたが、そんなのは無意味だった。
エリファスの双眼は開いているだけで殺気を放ち、誰構わず威圧した。
「ひぃっ」
試験官はすくむ足取りでエリファスから二歩、三歩と下がった。
✳
シルフレ=アルカナードはエリファスの最終試験を眺めていた。
隣にはリンがシルフレの右手を繋いでいる。
「大っきい……」
ポツリ、シルフレがつぶやいた。
その言葉に両肩をビクつかせたリンが反応する。
「えっ!? 何が?!」
「うん、エリー、この間授業でシンクロした時よりもずっと魔力が大きくなってる」
「そ、そう言うことね、うん。びっくりしたぁ。……で、エリファスの魔力ってそんなに上がってるの?」
「……はっきりとは言えないけど多分、あの時とは比べ物にならない位に上ってると思う。シンクロした時もエリーに余裕はあった感じがしたけど、間違いなく今の方が凄い、と思う」
リンは関心したように頷き、エリファスに視線をやった。それと同時に不可解な疑問を投げかけた。
「魔力ってそんな短期間に上がるものだっけ……?」
✳
再構築された、理論上、可能性論では統一された筈の五つの魔法陣が中心の大円陣に吸収される。
エリファスの手の平の上に出来たひとつの魔法陣。
それは掌よりふた周りほどの大きさを成し、黄金色に輝きながらも決して目を傷めない柔らかい光を放つ。中心から右回りに動く円とその外側に左回りに動く円で黄金色の魔法陣は形成される。
完成された魔法陣はエリファスの掌の上で律動する。
「な、何だ、あの魔法陣。ひとつになったぞ?!」
「金色……」
「わ、訳わかんねぇ」
「失敗したのか」
「んなわけあるか、アイツだぞ」
五月蝿くなる観衆。
そんな奴らに毛ほどの興味も向かないエリファスには耳栓をしたかのように、まるで届いていなかった。
それも仕方のない事だった。
眩く輝く魔法陣に眼を、全神経を奪われ、他の事がいまいち考えられない。
未知を求める魔法師ならばその未知の極限を体現する黄金色の魔法陣に、目を奪われないはずが無い。
「全員、耳を塞いでくれないか?」
「は?」
洗練されたエリファスの直感に危険信号を発するこの魔法。しかし、周囲にどんな被害が出るかまるで予想がつかない。
「耳を塞げ、と伝えて欲しい」
「わ、分かった……」
試験官の「全員、耳を塞げ!」という掛け声に疑心暗鬼となりつつも生徒の過半数は両手で耳を覆った。
同時にエリファスは魔法を発動。
空気を震動し、中心から生まれる波動は辺り十キロまで届いたと言う。
エリファスを中心に解き放たれる爆発的なエネルギーは、溜め込んだ魔力を振動させ、互いに振幅し、それが連鎖して爆裂とも比喩できる異常な暴走を期した。
5つの属性を併せた黄金色の魔法陣の正体は『衝撃』。結果的な魔力消費量は火の玉ひとつに等しいレベル。それでいてこの破壊力。耳を塞いで居なかった者の中には気絶し、口から泡を吹く奴も出てきた。
各言うエリファスも身体の半分近くの機能を損傷している。制服の上半身は吹き飛ばされ、そこから焼け焦げ血濡れた肌が露わになる。
誰の目にも止まることなくすぐ様『蘇生魔法』で損傷部分を回復したが、魔法を発動する前に痛覚遮断をしていなかったらショック死もあり得ただろうレベルの衝撃波。
試験官の終わりの合図を受け、ニヤリと不気味に口元を歪めるエリファス。
――この魔法は、使える。
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ロッテーゼは王都からみて東に位置する。里山を開拓して真新しいように、そこまで人もおらず、建物も少ない。田舎と呼ぶに相応の地であった。しかし、山の恵み、肥沃な大地から得られる穀物はフェアベルゲンの料理人でも知る人ぞ知る食材の宝庫であった。
食堂のおばさんは息子の休みと並行させるため、ロッテーゼに早めに帰省していた。
街道を抜け馬車の荷台にのり、カタカタと揺れる音ともに家が近づくのが待ち遠しい。枯れた良い色に染まった稲穂を見ると落ち着く。今年も無事収穫ができる。
合宿地とは風変わりした、道は茶色の地面むき出しで、田舎色ど真ん中の地を進む。
食堂のおばさんは馬車を降りて家に着くなり早速お昼の献立を作ってしまおうと、意気込んだ。
いつも通り、孫の大好きな料理を並べ、孫の喜ぶ姿を見れればそれで良いのだ。この歳になると欲をかくことが少なくなった。
意気揚々と鼻歌交じりに台所で作業をすすめる。トントンと食材を刻む無機質な音が広い台所に響く。
調味料の瓶を手に掛けた時、ふと彼の顔が横切った。名前こそ知らないが、ロッテーゼの調味料を賞賛してくれた心優しい少年。随分と若いくせに結構面倒くさそうな事で悩んでいるようだったが最後は明るかった。多分、まぁ大丈夫だろう。
調理を再開する。慣れた手つきで炒めた素材の上から調味料を垂らし、掻き混ぜてゆく。
あぁ、確か。エリファスって言ってたかな? 礼儀正しくて容姿も文句無い、あれは相当担がれるな、と両手を合わせて憐れんでおく。
そんな事をしていると、玄関のドアが勢い良く開けられた。孫も丁度来たようで、おばあちゃん、おばあちゃんまだできない? と急かす。その姿もまた愛くるしい。抱きしめたい。何故こんなにも可愛く見えるのだろう。
出来た品を運んでもらい、料理が揃う前に家族が席につく。相変わらずご飯の時だけは行動が早い我が家だ。礼儀正しく手を合わせてからみんなで料理を口に運ぶ。
「「いただきまーす!」」
「はーい。召し上がれ」
咀嚼している時の幸せそうな顔を見ていると時間はいつの間にか過ぎた。
「おばさん。準備してくるね」
「ありがとう」
婿がそう言って気を利かせて、ひとり別行動をする。
なんやかんやで一家団欒の時間は過ぎ去り、次に準備していたことを済ましに行く。
今日は隣の家のひとり娘さんの命日であったのだ。昔から世話になっていた。健気なお嬢さんで、品性のある娘だった。うちの家族も当然のようにみんな仲良くなった。
孫も今日はお参りの為にこうして親子共々、帰省してきた。
隣の娘さんがある日不治の病に苦しめられ、そして亡くなる日が来るとは思っても見なかったが。本当に惜しい人をなくした。
優しくて、素直で、真人間の鏡みたいな娘だった。
そういえば隣の家の娘さんは魔法学校に行っていたらしい。もう三十年も前の事になる。私が50歳だから10歳しか娘さんとは離れていなかった。私はまぁ魔法とか、てんでだめたったので、好きな料理やら商売をして今に至る。
「ほーら、準備して行くわよー」
「はーい」
娘さんを知る人は心なしか神妙な面持ちだった。誰にでも馴染める人でここ周辺じゃ、彼女のことを嫌ってる人など聞いた事がない。それ故に、亡くなった時は村の騒ぎになったっけ。
墓地までの道をすすみ、食堂のおばさん一家はひとつの墓標の前に立った。花を添え、手を合わせる。墓石も水で磨く。彼女の家族ももう皆、歳で動けなくなっているので、当然のように私達がする事になっている。苦でもない。むしろこんなものでいいのか、とさえ思ってしまう。
「ねぇねぇ! おばあちゃん。この人のなまえ、なんてよむのー?」
墓石に刻まれた文字を指差す孫。
あぁ、可愛い。孫最高。
「そういえば喋れるようになってから来るのは初めてかしら」
この国の字は幼児によっては少し難解なものだ。話すならともかく読み書きのできる全体的な割合はそこまで高くない。
「うん! よむのむずかしい!」
「ふふ、今度一緒にお勉強しましょうねー。今回はーおばあちゃんが教えてあげるわ……そうね、ここに居る人の名前はね
『アイファ=フォード=ベルンハルト』
って読むの。わかった?」
「うん、わかった! アイファさん! こんにちわ!」
ちょうどいい頃合いを見計らって、元気のいい孫の手を取り踵を返した。
するとそこに、ひとりの男が現れた。自分と同じくらいの年代だろうか。
体格や後の口調から男だと分かったが、この辺の人じゃない、とも思った。
黒い髪を肩くらいまで伸ばし、落ち着いた表情。無口そうな人でもないが好きこのんで話をするような人に見えなかったので取り敢えず会釈をしてすれ違った。
入れ替わりでその男が隣の娘さんの墓標の前に立つ形に収まった。
「あれ、おじさんもアイファさんに、おまいりしにきたのー?」
男の人は驚く様子も拒否する様子もなく孫の視線まで腰を落としニコッと笑った。鼻の横にあるほうれい線から孫もおじさんと呼んだのだろう。
「あぁ、そうだよ。おじさんもアイファさんの所にお参りしに来たんだ。……あ、えっと、こんにちわ。初めまして」
こちらの視線に気付き、立ち上がったと思うと、その男は柔和なその表情でその場にいた私に挨拶をしてくれた。
男の言葉にはどことなく凄味を感じた。威圧とはまた違う、何かだった。
「は、初めまして。あの、アイファさんの御友人か何かですか?」
「……私ですか? そんな大層な間柄ではありませんでしたね。アイファさんとは知り合い、顔見知りって程度でしょうか。主にお世話になっていたのは弟の方ですし。二人が恋仲とも聞いてましたから」
意外な情報だった。
あの娘さんに恋人が居たなんて。きっと無茶苦茶良い人なのだろう。ロッテーゼの人が知ったらどうなる事だろうか。
失礼な考えは一旦置いて会話を続けた。
「そ、そうですか。その弟さんは今日はいらっしゃってないのですか?」
そう言うと男は「あはは」と楽観的に苦笑し、頭を掻いた。こんな歳になっても仕草がいちいち格好いい。
「実を言うと弟とは今、絶賛喧嘩中でして……多分まともに話をしてくれないでしょうね」
「それは仲の良い証ですよ」
「そうですか?」
「普通、大人になっても喧嘩はするものですか?」
「……うーん、そうかもしれませんね。まぁこれが最後の喧嘩になりそうですし、もうこれ以上はしないと思います。じゃあ私はこの後予定が詰まってますので、花をくれたら帰ります。また機会があれば、是非お話しましょう」
男は片手に持った花束を墓石の前にそっと置き、目を瞑ると、そのまま一瞥し墓地を後にした。
✳
その男のロッテーゼ帰り道。
鼻歌交じりに歩みを進める。
街道を歩いていると耳元の通信機にノイズが入った。
『――マスター。用事は済みましたか?』
イージスからの連絡であった。
そろそろ戦争間近である故に神経を張り詰めている。
「あぁ、今から向かう。それで、何かあったのか?」
『まぁはい。魔法学校の首席のことで少し厄介な事件がありまして。奴は我々の邪魔になりかねません……処分しなくても良いですか? 私的には放置しても楽しそうなのでどっち着かずの結論に至ってる所で……』
イージスが決めあぐねていると言う事は、
「ニーアが五月蝿いのか」
『えぇ、奴を殺す殺すと言って聞かないんですよ。……暴れられると面倒ですし、ほら、奴に1回負けてるからなおの事ムキになってて、ぶっちゃけると面倒だから叩き潰しましたね』
「まぁ……程々にしておけよな」
『はははっ、許容して頂けるとは! 流石、マスター!! ……ですか本当に放置していいのですか?』
「エリファス=フォード=ベルンハルトが学園にいる間は、な。その間は手を出さなくていい。焦らなくてもこの国は直に墜ちる」
『ふふふふ、国取り、愉しみですなぁ。満を持してここまで順調でありながらも、戦慄しますぞ。では、手筈通り私はインスポートへゆきます』
「あぁ、死ぬなよ」
『はははっ、神にでもならない限りいずれ人は死にます。どうか、マスターもお気を付けて』
そこで通信は切れた。
しかし、進行方向とは真逆のロッテーゼへ顔を向ける。
「――へへ、お前ら知ってるか? この先に村があるんだってよ」
数キロ離れていても男の声は丸聞こえだった。盗賊と思わしき武装した集団が数十人。
「たかが村だろ。襲ってどうするんだ。大したもん、ないだろ。別嬪な女でもいるのか?」
「いやいや、女はいる事にはいるだろうが、本丸は違う。あそこは食い物の宝庫だ。量も味も良い。しかも見張りはほとんど居ない。寄せ集めの雑魚ばっかりだ」
ロッテーゼが警戒態勢を敷かないのには理由があった。そもそもロッテーゼ自体が有名でない点と、王都から離れていて尚且つ国境警備隊の支部が近い点、隣国の奇襲を気にしなくていいのだ。しかし、内部の敵には滅法弱い。それに気付くのに少しばかり遅かった。
「へへ、襲うか?襲わないか?どうする?」
「ちっ、国境警備隊の支部が近いがこんな田舎まですぐに情報が伝わるとも考え難い」
「ふん、決まりだな。やるぞ」
「「おぉぉ!!」」
目の前の獲物に士気が高まる賊。
そこに迷い込んだ男がいた。黒髪ゆらし、マントを着込んでいる。
気付いた族の一人が慌てて男を威嚇する。
「おい、お前いつからそこに居たっ!?」
「聞かれたんじゃねぇのか」
「クソが、おいおっさん! お前殺さない代わりにどっかいけっ!!」
武器を抜かずに間抜けな声を上げる男ども。
「あらゆるものに価値をつけ、貧富の差を作った私の責務か。……仕方ない、アイファの墓を荒らされては弟に何されるか分かったものじゃないからな」
「アァ? 何言って――」
賊の頭と思しき男の視界が暗転する。くるりと世界が逆さまに写ったと思ったのが、賊の頭としての最期だった。
首から上を綺麗に吹き飛ばされ、真っ赤な血しぶきを上げる。地面に散布された血は、その場を赤く染めた。
状況を認識仕切っていない間に、次に賊の二人の目の前に魔法陣が発生。時既に遅し。賊の二人はあっと言う間に炎に包まれ火だるま状態、悲鳴を上げるまもなく絶命たらしめられる。遅い反応ながらも、いきなり現れた男がもたらした惨状に怒号する、盗賊。逃げる選択をすれば何人かは助かったかもしれない。
斧、片手剣、斧槍、細剣、長槍
前衛担当の賊はそれぞれの武器を構える。
後衛の連中は杖を構えると詠唱を始め、魔法陣を構築した。
この盗賊もそのへんの紛いとは違い軍人上がりが多数居たことで憲兵団も手を焼いていたのだ。そういった事実が後押しして正常な判断が出来なかったのだろう。
構えた武器は二十に届き、準備した魔法陣の数は十を超えていた。
しかし、そんなもの、たかが知れていた。
後衛で詠唱をしていた賊がひとり、違和感に気付き空を見上げた。
天空を占める無数の魔法陣。
その数は二百を有に超えていたのだ。
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木々は根から削がれ、地表面の岩は砂と化し、ひと山が丸裸になった。
その峠でひっそりたたずむ。
「弟よ……私は確固たる信念を以って、お前を迎え討とう。親とは子を正しく育てる為の存在、道標となる。この国を創ったのは私である以上、これはやむ得ないのだ。わかって欲しいが無理だろう」
「最期の兄弟喧嘩、か。それもまた酔狂なものだな」
取り敢えず3日連続で分けて投稿します。




