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若返った賢人  作者: かーむ
19/32

強襲 Ⅱ

今回で作者の暴走は収まります。

次回からは学園編に戻ります。

 ニーアとエリファスが対峙する頃、外の入り口にて警備隊と奇襲部隊の激しい攻防が繰り広げられていた。月光の元の攻防戦は圧倒的火力と連携で、警備隊有利に戦いは運ばれる。


 警備隊は複数で陣形を取り、(シールド)で攻撃を弾きカウンターを決める典型的な戦い方を続行している。敵が暗殺に特化するとわかった以上、改めて手を変える必要はない。正面戦闘に持ち込めばコチラの土俵である。


「陣形を保ちつつ攻撃の手を緩めるなっ!! 我ら警備隊の力を示すのだっ!」

「オオォォォォォォ!!」


 日の沈んだ夜空に向かって吠える。

 狼煙が一度上がれば、ほとぼりはなかなか冷めない。


 そして狼煙の上がる月光の下で、奇襲部隊側の少し裏に陣を取り戦場を俯瞰する者。白いマスカレードを被り、全身を黒に覆う気味の悪いスーツ、赤い蝶ネクタイが戦場の明かりに照らされる。


 何を隠そう。奇襲部隊の指揮を執るのはこの男である。


「五月蝿い……時間稼ぎをしているのだから、ニーアさん。さっさと幕引きにしてくれませんかね」


 男の任務はニーアが新作魔法具を実験している間の時間稼ぎ。うざいネズミを始末するのも同時進行する任務を与えられ少し憂鬱そうに表情をしかめ奇襲部隊に指示を仰ぐ。


 マスターの命だから仕方が無い。そしてあの人は容赦がないからな。正直、身震いで済むような楽な人種じゃない。切にそう思う。


 すると男の耳に充てられた音石に通信が入る。


『イージスよ、そちらの戦況はどうだ?』


 マスターの声を聴き、弛んでいた神経が一気に臨戦態勢まで引き上がる。狙ったようなタイミングだった。


「これは、これはマスター。ただいま計画通り、正面入口にて警備隊を引きつけております。後方より両騎士団が迫っているので余り長持ちはしないかと……」

『そうか……まぁそちらは予定内で収まる様だな。悪いが早急に、ニーアを回収してその場を離脱しろ』


 作戦変更の知らせ。それはマスターには珍しい指示だった。思わず不安が過る。


「……店長さんはそれ程に強かったのですか?」

『目標は戦闘不能には追い詰めたようだが、どういう事か援護に来た奴が《門》を使役する者、とニーア本人から報告を受けた。となると、あやつ一人では危うい』

「《門》を使役する者……という事は、相手も霊刻魔法で付与した魔法具使いですか?」

『私もそう思ったんだが、どうやら違うらしい。確認を含めて現場へ急行してくれ』

「ふふふ……マスター。その者の事を知りたいのでしょう。ニーアはどうしますか?」

『……好きにしろ』


 イージスと呼ばれた男の口元が大きく歪曲した。我が主は本当に面白い。



 

 ✳



 

 会場内、ニーアと真っ向から向き合うエリファス。強者特有の張り詰めた空気はまさに一触即発。衝突する相容れない思考は何方かが欠けるまで収まることは無い。


「兄ちゃん……よ……そいつは魔力をコントロール下から外す何かを使っている……これと言って発動兆候も無い……」


 ゆっくりと確実に情報を紡ぐ店長。身体の傷は活性魔法により回復の兆しを見せている。


「なるほど……という事は《門》か」

 

 もう、そう断定していいだろう。


 店長レベルの戦闘経験を持つ者が為す術なくやらる手甲(ガントレット)仕様の魔法具。


 魔力コントロールの制限。


 『霊刻魔法』で刻印された魔法具。


 更にそれは無詠唱機能を保持していた。


 あの魔法具(ガントレット)が《門》に侵入し、体内の領域管理権限を操作して相手の魔力を自由に上下する事が可能だと仮定した場合、兄の魔法具の制作段階が一体、何処まで進んでいるのか。



 現在、第2要塞『勇門(ヴィーラ)』を開放している。領域管理権限は大幅に上昇、一度に操れる魔力の絶対量は宮廷魔法師二十人に匹敵する。


 だが敵が《門》の強制操作をする場合、対策が必要だな。



《……領域管理権限の認識番号を変更 ――完了》



《……管理番号を有効化(アクティベート) ――正常》



《……管理基準を再度確認(セカンドコンフリート) ――実効》



「やはり貴方は私達の障害になり得る」


 ニーアは無詠唱で物理魔法の分子抑制を発動、転移魔法で魔法を飛ばす。エリファスの周囲に存在する気体分子の熱運動が一気に低下し凍結が始まる。


「呆気ない。《門》を使役するのにその程度とは」


「――無駄口を叩く暇があったら防御しろ」


 温度低下によりチリとなった空気中の分子は白く煙のようになりエリファスを覆っていた。


 そこに魔力による物理干渉、分子運動促進させ、熱運動を常温まで戻し、温度を上昇させる。霧が晴れるように視界が戻る。

 第2要塞まで開放した段違いの魔力量は、魔法を力ずくで無効化。当然、エリファスは無傷のままである。


 そこから同時に無詠唱、火焔魔法を超数発動。空中に描かれた魔法陣の中心から火炎弾が射出。発動から着弾まで一瞬の出来事であった。


「くっ……」


 ニーアは氷結で相殺したようだがガードが間に合っておらず攻撃の一部が被弾。咄嗟の事であった。だがこの時点でニーアが、敵対する相手の実力を図り引き際を見失わなければ、これ以上傷を負わずに離脱が出来たかもしれない。しかし渾身の魔法が跳ね除けられ冷静さを欠いているニーアにとってそれは選択肢に無かった。


 ニーアは唇を噛み締め、空かさず氷結の魔法を転移魔法でエリファス目掛け発射する。今度は焦点を絞り、一点を凍らす。店長の左脚を封じた時と同じである。範囲は狭いが威力は折り紙つきだ。


「危ないっ!!」


 ミラの張った声。しかしエリファスは一歩も動かない。いや、その行為自体が今のエリファスには不必要なだけである。

 圧縮魔素弾で転移された魔法の核を粉砕。破砕音と共に魔法の不発をニーアに知らせる。


 ニーアの渾身の一撃は強大な壁の前に投石を行うに等しかった。


 《加圧魔法》を発動。ニーアの周囲五メートルの大気圧が急激に上昇し、耳鳴りと同時に激しい頭痛、嘔吐感がニーアを襲う。立つこともままならずその場にへたり込んでしまう。


(何で?! 何で《門》の操作が出来ないの!?! それに高等魔法を何回、同時発動(マルチキャスト)するのよ……何なのあいつ……)


 もはや、若返りによりほぼ無限に貯蓄され、そこから滝のように流れ出る無尽蔵の魔力を見事に扱うその姿は相対する者にとってしてみれば、何の変哲もない理不尽の権化であった。


 魔法具1つで埋まる(やわ)な差ではない。


 《転移魔法》を使い、ニーアの右手に嵌められた赤黒い手甲(ガントレット)型の魔法具を回収する。


 眺めた末に出た結論は……


「間違いないな……兄さんの霊刻魔法だ」


 片手に手甲(ガントレット)を持ちながら既に気を失いかけているニーアを無視してミラの方へ向かおうとしたその時、


「ふふふふ、君が《門》を使役する者か……」


 突如、何処から現れたのか判らないが敵と思しき人物が、廊下の奥からツカツカと歩いてくる。

 声から男と判断がつく。男は白いマスカレードで顔の半分を隠し、不気味なくらいに黒く染まったスーツを着ており、血で塗ったかのような朱色の蝶ネクタイをしていた。身長は高く、細みのある身体付きだった。


「いやいやいや、まさか【勇門(ヴィーラ)】を自力で開放できるとは、驚きだね」


 白マスカレードの男は、言う。


「お前も敵か?」

「敵? 敵ですか……ならば、まずどこからが敵であり、味方であるかを定義してもらわねばなりませんな」

「それは自分が敵であると言っているのと変わらん。何、自分で墓穴を掘っている」


 白マスカレードの男は、面白そうに軽快に笑う。


「……私は先程の戦いを見た。素晴らしい素養だ。是非、私達と手を組まないか?」

「勧誘が下手だな。まず名を名乗ったらどうだ?」


 話をした方がいいな。こいつも兄に繋がりがあるかもしれない。些細な事でも今は見逃せない。


 その会話の行く末を想像し、不安になったミラが後ろからエリファスに歩み寄る。


「エリファスさん、し、信用して大丈夫なんですよね?」


 まるで俺が向こう側に行くのを心配していた。ミラはこの男が敵である事を認識している素振りだった。


「平気です。貴女の守護者(ガーディアン)である事をお忘れになられたのですか?」


「クククク……ますます引き込み甲斐のある御方ですねぇ。では早速、自己紹介しましょう。私はイージス=ラグナール、『マスター』に仕える者です。貴方は?」

「エリファス=フォード=ベルンハルト。この間、田舎から王都に上京して来た」

「エリファス=フォード=ベルンハルト、良い名前ですね。覚えました」

「忘れてくれて構わないんだが、『マスター』に仕えるという事は、そこに転がってる女と同じ立場なのか」

「甚だ不本意ではありますが事実ですね。まぁ周知の通りここに襲撃を掛けた仲間、である事も紛うこと無き事実です」

「そうか。……で、お前は何の目的の為に俺を引き込もうとする?」


 白マスカレードの男、改めイージス=ラグナールは顎にを手を添える。目元の表情がマスカレードによって隠されている為、断定は出来ないが、恐らく余裕のある表情をしている。


「余り喋り過ぎるのも良くないのですが、私達は目指す平和のために色々と活動をしています」

「……またそれか。正直、聞き飽きたな。粗方予想はつく。方法は定かでないが、お前らは《門》を広範囲に使い人々から要らない感情を消し去るつもりだろ? 憎しみや憤怒を含めた争いの要因になる感情そのものを。今回の襲撃はそれに際し邪魔な人物の排除と、《門》による強制操作の試運転、ってとこか?」

「……随分とまた機転が利くのですね」


 賢人の正体を知られていないとはいえ、舐められたものだな。

 俺は兄よりも多少頭の回りが遅いだけで貴様らとは頭の造りの次元が違う。お前らが1冊の魔導書を読んでいる間、俺は1冊の魔導書を創る。


「図星をつかれたのか、目が泳いでるぞ? そのセンスの欠片も感じられないマスカレードを取ったらどうだ」


 イージスの纏う雰囲気から余裕が消えた。明らかに臨戦態勢に入っている。


「どうした、さっきみたいに嘲笑えよ……それとも何だ、勧誘の時間は終わりか」

「貴方は、我らの目的の障害になる人物の排除と言いましたね? 今後我々の対象リストに追加されるでしょう。夜道はお気を付けて」


 願ったり叶ったりだ。


「はぁ……マスターが貴方に対する勧誘は無駄だと言っていた理由の片鱗を見たような気分ですね。最後にひとつマスターから貴方に向けた伝言を遺して去りましょう。」

「……」

「『ロイゼールの仇討(あだう)ちは騎兵連隊』だそうです。何の事やら……」


 ロイゼールの合言葉。次に繋がる語が仇討ちならば『挑戦状』を意味し、騎兵連隊は『開戦』をそれぞれ意味する。それは何年も前に俺と兄貴の間だけで、使っていた合言葉。


 そしてその名と俺の繋がりを知る人は兄さん以外他にいない。つまり兄さんも俺に気付いたという事を示す。


 それだけ言ってイージスはニーアを抱え去っていった。

 


 ほどなくして月夜の戦いは奇襲部隊の敗北を合図に、幕引きとなった。

追記:かきくけ虎龍様からレビューを頂きました。ありがとうございますm(__)m

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