強襲 Ⅰ
あの人、出てきます。
血も出てくる戦闘描写あります。苦手な人は気を付けてください。m(__)m
2015/04/09 文章を改稿しました。ストーリーに変動はありません。
パーティー会場は二人の登場により、一層湧いた。ちょうど二人は隣り合いながら会場を周り来てくれた人に挨拶をしている。人垣が波のように二人にを囲むことが無いのは暗黙の了解である。それくらいの心得、マナーが無い客人はこの場にいないだろう。
「エリファスさんってこの場だと嫌味な存在ですよねー。だって主役の二人を差し置いて首席ですよ」
唐突に心にもない事を言うミラ。まぁ事実はそうなのだが嫌味を言われる謂れはこちらに無いだろう。機嫌を損ねたか腹を空かしたかのどちらかだな。
「誰が連れて来たと思ってるんですか……まさかそんな意図があって俺を守護者に付けたとか言わないですよね」
「そんな事したらエリファスさん怒るし、付いて来ないですよ。本当に信頼しているからお願いしたんですぅー」
ミラは口を尖らせそっぽを向いてしまう。五月蝿い奴だ。
俺は適当に空になったグラスの口を布でふきボーイに返す。
その様子を横目に見ていたミラが呆然とする。
「王室マナー……ですよね。それ」
「あ、あぁ、そうだったんですか」
癖が抜けて無いのか。ばつが悪くなり適当に愛想笑いで誤魔化す。この場の雰囲気に飲み込まれて行動が昔に戻っているな。
「ごきげんよう。ミラお姉様。今日は私達の祝の席にお越し下さりありがとうございます」
「あらあら、こんばんは、ティファニーお嬢様、それにオルグレンもー大っきくなったねぇ。魔法学校への入学、おめでとう」
どうやら主役の挨拶が回ってきたらしい。
俺はそこから少し距離を置いた位置にいる。適当に料理を眺めながら会話に耳を傾ける。
「ミラお姉様、温泉街の経営者になられたのですね。大変繁盛しておられると聞いています」
「ふふ、ありがとう。でも今日の主役は貴方達二人よ?」
ちらりと目をやると、オルグレンもティファニーも普段とは一変して、しっかりとした服装になっている。懐かしいと言えば懐かしいな。俺にもあんな時代があった。
すると丁度こちらを向いたティファニーと目が合う。
「……エ、エリファスさん?」
「こんばんは。ティファニーさん」
「今日彼には私の守護者として来てもらったの」
「そ、そうなんですか」
オルグレンはこちらの様子を伺うように、そして眉間にシワを寄せ睨みつけていた。ミラに注意された時、俺はあんな顔をしていたのか、と少し落胆する。
「守護者か……お前に務まるのか?」
「まぁ見習い程度よりはマシかと」
「ミラさんをしっかり守れよ。まぁお前の方が足を引っ張りそうだがな」
何故こいつは口を開けば嫌味しか言えないのだ。まぁどうでも良いか。むしろティファニーのような対応が珍しいのだ。
「エリファスさん、是非今日は楽しんで下さい。ミラお姉様の安全を第一に、ですが……」
「えぇ、尽力させて頂きます」
二人が次へ移動しようと方向を変えたその瞬間、会場の入り口付近に人垣が傾れ込む。しかし、それを異常事態と認知した者はエリファス含め数人しか居なかった。それ程に静かな異常事態だった。エリファスは場の監視を始める。
『会長、大変です! 暗殺者と思しき集団が会場の外に現れました』
『団長。敵襲は警備隊が対応している模様ですが如何が致しますか』
それぞれの守護者、通達係から盗聴する。状況からしてこの祝の席を狙った襲撃だろう。
『監視を続行したまま俺の周りを固めろ。騒ぎになっても監視役以外は動くなよ、怪しまれる』
この声は、卸屋のジジイか。まぁ妥当な判断だな。暗殺者が侵入してきて妙な行動を取れば怪しまれる。利益の勘定が出来る奴なら当然だろう。
『外に待機している団員をまとめろ。相手が暗殺者なら単騎行動は厳禁だ。分かったか』
騎士団と魔法師師団は動くようだな。ただ団長は二人を守る為にこの場は離れないようだが。
「ぶぅー。エリファスさん、また険しい顔してますー。……もしかして御気分を損ねなれましたかー?」
「……現在会場の外で戦闘が発生しています。敵の数は不明ですが対応は間に合っている様です。恐らく狙いはこの場内の人物と思われます」
「へー、敵襲ねぇ……濁さないでいいんだけどなー。狙いはあの二人の内のどっちらか、又はその両方、でしょ?」
ミラの冷静沈着な判断と状況把握には唸るものがある。慌てないだけでなく何がどうなっているか、正確に物事を理解しようとする。
「最高のタイミングだもんね。五皇貴の二人が人の入り乱れる空間に居る。学園はみんな魔法使いで戦闘可能だし、ここには一般人も居るよね」
「……えぇ。もしかしてミラさんは頭良いんですか?」
「酷いなぁ。私は私なりに分析したの! どう? 合ってるかな」
「まぁ大体、合ってますね」
ミラはクスクスと微笑みながら此方を覗き込む。実に楽しそうに。
「行かなくていいのかな?」
「……今は貴女の守護者です」
「そうですか、でも凄く行きたそうな顔してますよ」
そういう顔になっていて至極当然。このタイミング、状況から鑑みると今回の敵襲は兄に繋がる可能性が高い。なら俺は動きたい。
まだ兄さんに俺の存在がバレたわけではないのだ。
✳
時を同じくして、店長は会場内の警備システムを強化していた。
耳に嵌めた無線の通信機により場内の警備状況と外の敵戦力を計算し配置を予測。自分の立場は味方に指示するのでは無く、指示の漏れをカバーするのだ。
爺さんの言う通り敵襲はティファニー嬢を目指し内部に侵入した模様。しかし、それは抑えられる規模である。戦力差は圧倒的だ。援軍も考えられるが、もう外の入り口は閉じた。
戦闘が始まってまだ数十分。
ただ、それだけでは安堵の息をつくには十分では無かった。
「視えない、ねぇ……」
懸念するべき存在はそこだろう。もし本当なら手の施し用がない。思考を巡らせるが相変わらず答えは出ない。
だが今、迷いは不要だ。
敵を排除するのみ。
丁度そこに黒いローブで身体を覆った敵三名が通路を走りこちらに向かってくる。大方、警備システム撹乱のための雑兵だろう。
仁王立ちから半身にポジションを変える。腰に下げた鉄製の超硬ワイヤーステッキを抜き、片手で正面に構える。
既にすぐ側まで武装したローブ集団の一人が迫る。
「ったく雑魚なんか通すなよな」
悪態をつく。それは敵の本丸が掴めない苛立ちからだった。
黒いフォルムをした棒状ステッキの長さは一メートルに満たない。ドス黒いワイヤーステッキは鍛え抜かれた豪腕で空気を斬るようにして一瞬で振り抜かれた。ローブを被った男の一人の頭蓋を粉砕、死を意識する事なく敵は一撃で昏倒した。
その様子に怯んだ二人は、慌てて構え出す。
しかし、時既に遅し。ワイヤーステッキに内蔵されたスイッチを外し中心部分が二つに分解、ワイヤーで繋がれたまま片方のスティックが加速し左側の男に鈍い音を立てながら命中。勢い余って半分に別れたワイヤースティックは壁に突き刺さっている。
動揺して引き気味になった右側の男に接近。十メートルの距離が一瞬にゼロまで縮まる。『駿脚』と呼ばれる移動法であり、魔力を一点に集中し機動力を一時的ではあるが、大幅に増加させる。
そのまま男の頭を掴み床に叩き付ける。岩石が砕け散るような破砕音と共に床石に男の顔がめり込み、テーブル程の大きさのクレーターを作る。
「やり過ぎたな……」
叩きつけた男を一瞥し、一息つこうと立ち上がったその時、接近する存在に気付く。
女だった。その光景から敵であるのは一目瞭然。女は血に濡れた警備隊二人の襟首を掴みながら投げ捨てる。
敵であるならば容赦はしない。
「新手か?」
「『マスター』の命に基づき貴方を排除します」
女はそう言うとローブから赤黒い手甲を装備した右手を出し、無詠唱で魔法を放った。唐突な出来事により一瞬、反応が遅れたが二回壁を伝い、ワイヤーステッキを回収しながら後方へと回避する。
こいつも視えない事は無かった。
しかし放った魔法に目を疑った。
「何だ……この魔法は……」
さっきまで自分がいた地点を中心に、倒した男を巻き添えにして氷柱が逆立つ様に地面から生えている。使った魔法は氷結魔法だ。間違いない。じんわりと冷たい冷気がこちらにまで伝わる。
その瞬間あの男が言っていた事が脳裏を過ぎった。
『――氷結は熱運動の抑制による結果、だから効果をみた場合は属性系統に分類される。しかし目標物の分子運動をとめる物理魔法を使うから過程だけを見ると無系統魔法に分類される、』
あの女には魔法を補助する術式が手甲には付与されていた。魔術刻印もあった。つまり手甲は魔法具の可能性が高い。しかしそう仮定すると矛盾が生じる。
魔法具に無詠唱機能は無い。詠唱を補助するのみ。ただ、あの女の使う道具に魔法を補助する機能があるのは一目見れば分かった。
そして七大系統の内、魔法具は唯一、無系統魔法に作用出来ない。
それは常識であり騎士学校生であろうと知っている理。
何だ、アレは。確かに何処かで聞いた覚えがあるが、思い出せない。学生時代に座学を寝て過ごした自分を悔やんだ。
「面倒ですね。さっさと死んで欲しいのですが」
女は興味の無いような口調だった。
警戒をしつつ次の手に移行する。
「悪いなお嬢ちゃん。そいつは無理な頼みだ」
繰り出される魔法を回避しながらワイヤースティックを分解し遠隔攻撃をする。互いに攻撃しては相手の攻撃を相殺し続ける。
(強いな……反応速度、位置取り、身のこなし。どれを取っても一級品だ。……だが俺の方が一枚上手だな)
店長の予想通り、女の氷による攻撃回数が次第に減ってきている。店長のワイヤースティックによる攻撃の手数は秒間におよそ五回は自分の手元と相手を往復する。
隙が出来たのを確認。『駿脚』を使い、壁を蹴ろうとした。
しかし発動しなかった。魔力が足裏に渡っていない。
一瞬の隙がこちらに発生、空かさずそこに氷が飛来。咄嗟に後方にのけぞる。
完全に不意をつかれた。その証拠と言わんばかりに左肩の服が破け、血液がポタポタと床石に垂れる。冷や汗が頬を伝って行くのが分かる。
「なるほど、こりゃ……見えねぇわ」
「……避けるとは流石です。だからこそ貴方は私達の障害になり得る。死んで欲しい」
何ださっきのは。魔法封じか。いや、魔法封じなら魔法は発動はする。その後に打ち消されるだけであって。
あれは直接、魔力が自分のコントロール下から離れた。
次の攻撃が迫る。
避けようとして初めて気付いた、己の異変に。
左脚に力が入らない。
凍っているのだ。
気付けば、女の手甲が胸部にめり込み後方に吹き飛ばされていた。背中に衝撃が流されず直接受ける。呼吸がままならず多量の血が逆流、ドス黒い血をそのまま吐血する。口の中に鉄の味が広がる。
「転移魔法による魔法の転移です。手甲が無かったら負けていたかもしれません」
「……チッ、」
この女が使っているのはそれだけじゃない。魔力のコントロールを無効化出来る何かがある。
なるほど、敵は強い……ね。
「これで最期です」
右手に装着した手甲をこちらに向ける。もう既に視界が霞んで良く見えない。
魔法が放たれたようだった。
走馬灯を見ている気がしたが、そういうことも無かった。ただいつも通りの時間が流れていた。
この世の未練を断ち切ろうとしたその直後、バリンっと薄い硝子が弾けるような音がその廊下に木霊する。
魔法は着弾してない。肢体の感覚もある。それどころか霞んでいた視界の色味が次第に鮮明になってゆく。
金色の髪を後ろで束ねた男と、ドレスアップした女が間に入ってくる。何故かそいつ等に逃げろ、とだけは言わなかった。
「店長、そこで少し休んでいて下さい」
「めっちゃ強そうじゃん、エリファスさんや。か、帰らない?」
「今更何言ってるんですか。経営者は困難に見舞われた時、どう動くかで主としての真価が問われるのですよ」
エリファス=フォード=ベルンハルトは魔素圧縮弾を打ち、活性魔法を店長に掛けた後、その女に目をやる。
見覚えのある顔だった。
「ヴィナ教の信仰を棄てたのか? ニーアさん」
「……エリファス=フォード=ベルンハルト。私は平和を望む『マスター』の為に手となり足となり動いています。信仰を棄てた訳ではありません」
「なら、何故こんな事を……?」
エリファスのドスの効いた声に思わず萎縮するミラ。
(今まで怒った時もあるけど比にならないくらい本気で怒ってる……ちょっと怖いわね)
「平和への道標ですよ」
ニーアは息をするようにそう言った。まるで当たり前の事であるかの様に。
平和を望む『マスター』か。九分九厘兄さんの事だろう。
ニーアの右手にはめられた手甲。氷結の魔法を使っていたが、まさか、無系統魔法に対応する霊刻魔法で刻印された魔法具なのか。
店長レベルの実力者の溝を埋めてしまうような。間違いなくそれ以外の仕掛けがある。
冷静に、精神安定を図る。
「殺しを正当化している時点で巫山戯ているのか、それとも本気で言ってるのか。どの道お前は贖罪して許される人の域を自ら出た。ここで始末する」
「『マスター』の意向を酌まない者、邪魔をする者は排除するのみ」
ミラに店長を連れて後ろに居るよう支持する。離れられると逆に守れなくなる。
兄さん。あんたは間違っている。
《体内魔力管理権限を一時的に補助動力に委託》
《認識及び領域制限を強制解体》
《……源域魔力、流失量50% ――突破》
《……危険値量まで78% ――進行》
《……領域管理権限61% ――上昇》
【――第1要塞『怒門』 ――開放】
【――第2要塞『勇門』 ――開放】
誤字報告助かっています。文の修正は土日にまとめてやるのですいません。ご了承下さい。