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若返った賢人  作者: かーむ
17/32

思惑

更新したった……( ゜∀゜)・∵.

 王都、皇族クラスの御用達であるそのホールには今日二人の祝の席が開かれる事あって多勢が集った。


 絶対的に必要ない天井の高さに、会場の雰囲気に負けず劣らずの存在感を放つ装飾品。並べられた円卓のテーブルには白色のテーブルクロスが敷かれ豪華な食事が、彩り良く置かれる。


 そこにタキシード姿で訝しい表情をしているエリファス=フォード=ベルンハルト。  


 今週の平日は満足な睡眠を取れていない。故意的にしてないようなものだが。


 兄の件だ。


 調べた結果、やはり兄はこの国で何かしている。経済の活性化はまずやり方からして兄の策だろう。あらゆる物に価値を付けている。貨幣制度促進の政策。お陰で温泉街は繁盛しているが。

 それと企業連合の総務会長が俺が隠居して間もなく死去した。病死だったのだとか。総務会長の死には不自然な点が多く、途中で捜査も打ち切りだったそうだ。


 しかし、如何せん兄に繋がる証拠が少なすぎる。流石と言うべきか。


 兄が何の目的の先に、何をしたいのか。せめてそれだけでも解れば……


「エリファスさん、眉間にシワが寄ってます。年取ってから出ますよ〜」


 ミラ=カーティス=ファーレンハイトはフリルの殆どないドレス姿に身を包む。今日の主役は二人である為、周りは派手な衣装は控えるのが慣わし。


「……すいません」

「……どうかしましたか? 近頃はかなり思い悩んでいるようでしたが」 

「えぇ、まぁ」


 自分に悪態をつく。いつも兄には掻き乱される。まだ何かすると決まった訳では無いのに、正体の見えない敵に怯えている。情けない。


 鉄プレートを片手に持ったボーイからグラスを受け取り会場内へ踏み入れる。

 既にそこにはこの国の豪傑が揃っている。勿論、見慣れた顔もある。


 会場内の中心にひとだかり。

 宮廷魔法師師団と騎士団の団長はどちらも出席か。


 それと左前方に『ウッドウィズ』の代表取締役、ノート=レイ=コーパス。現代魔法具の内蔵魔法陣改良の第一人者であり若くして現在の技術を確立した男。


 右後方には卸屋の会長だな。もう七十を超えると言うのに白髭を逆立てている、虎のような威圧感を放つ。


 会場には普段見られない役者が勢揃いしていた。守護者もそれなりの奴がいる。


「ふふ、エリファスさんは凄いですねー。これだけの重鎮が集まっても汗のひとつかかないなんてぇ」

「まぁ誰が誰だか良く分かりませんから」


 ただ守護者(ガーディアン)として務めるのは忘れない。ミラの安全を最優先して保護する。




 ✳



 

 パーティー会場の音が漏れ、その部屋に木霊している。ティファニーはドレスに着替える為、ひとりの侍女と準備を進めていた。まだ予定していた時間まで二時間近くあると言うのに七割を超える人が会場内へ入ったと聞く。アルフォード家とフォーケン家の合同主催であればその位の事は当然のも知れない。


「お嬢様、そろそろ着替えましょうか」


 黒地のスカートに白のエプロン、カチューシャをし、定番のメイド服をしっかりと着こなすのは幼い頃からずっと世話をしてもらっているクミさん。二児の母と言うのに自分と姉妹の立ち位置でも無理のない設定に出来そうなクミさんの容姿には根負けする。ずるい。


 普段着を脱ぎ白磁の肌をさらけ出す。下着姿のまま鏡の前まで歩く。衣装室にはクミさんとティファニー=クラン=フォーケンの二人のみ。流れるような作業でクミさんは私にドレスを着せてゆく。


「お嬢様また御美しくなられましたね。何かありましたか」


 年季の違いだろうか、それとも自分は知らずの内に表に出していたのだろうか。


「クミさんは何でもお見通しなんですね」

「それはもうお嬢様が幼い頃からずっとお側に仕えていまいたから。それで気になる殿方はどの様な方ですか?」


 クミさんの楽しそうな声で尋ねられるとつい答えたくなる。此方としても困っているから丁度良い相談相手に思えてしまう。

 

「平民の方ですが、綺麗な金色(こんじき)の綺麗な髪していて同じ魔法学校の人です」

「平民の方ですか……まぁお嬢様の好意を寄せるような相手です、中身も相応の方とお見受けしますねぇ〜」

「えぇ、彼はとても博学な方です。此方には全く興味が無いのが素敵です。私はもっと積極的な女の方が良いのでしょうか」


 クミさんのドレスを着付ける手が初めて緩まった気がした。


「お嬢様に何の行動も起こさないと……?」

「えぇ、もう、何も。お昼を御一緒しても、学園内で会っても、放課後二人きりになっても。自惚れじゃないですけど、少しぐらいは揺らいで欲しかったです……」


 クミは考える。その男がそっち系では無いとしてお嬢様に動じない堅物がこの世に居るだろうか。ティファニー嬢に縁談を持ちかけて来る貴族の数は皇族令嬢に匹敵する。私も男なら自制が効かずに襲っていたかもしれない。今も尚、艶めかしい曲線と言い表し難い美貌を曝け出され理性がフル活動している。


 いや、


 そんな堅物、確かに存在した……


 昔、十年以上前になるが王室に仕えていた時、超がつく程の堅物がいた。


 その男を誰が最初になびかせるか、姫達が挙って勝負していたし、侍女達もその行く末を観戦していた。誰が最初に落とすか金賭けもした。


 しかし結果は誰にもなびかなかった。

 男が好きなのかと囁かれたがそんな事も無かった。


 その男は仕事の腕も、戦いのセンスも群を抜いていた。魅了される女性は後を立たなかったし、その男を誰が落とすかと言うのは自然の流れで出来たものだ。


 その男はいきなり政界から立ち退いたが今、何処で何をしているのだろう。案外、好きな人が出来て、その人が敵意の的にならない為に駆け落ちしたのかもしれない。まるで物語の様に。まぁ事実はどうなのかは今となっては分からないが。


「お嬢様も諦めずに頑張ればイケます。まぁ苦労した甲斐ある恋の実りが良いのは常ですよ」

「ですね、頑張ります」


 フリルの着いた薄いオレンジのドレスがティファニーの紺色の髪と親和し、首に掛けた銀のネックレスが妖艶さを増していた。化粧もしてる事もあり普段の学園で見る彼女とは一変している。


「さ、参りましょう。……オルグレン様も待っています」


 ティファニーは表情を暗くする。

 この姿は最初にあの人に見て欲しかった。が、そんな我儘は通らない。クミさんも充分承知している。


「はい、分かりました」

 



 ✳




 エリファス達が会場入りしてから一時間が過ぎた。もう一時間で祝杯は始まる。会場の雰囲気は下がらず、場内のボルテージは留まることなく更に増してく。


 その舞台裏では武装魔法具を所持した警備隊が厳戒態勢を敷いている。無論、何も起こらないのを祈ってはいるが敵にしてみれば格好の的になる今回の祝の席。


「入り口、出口、特に会場の監視は怠るなよ。もしフォーケンの嬢さんに傷が付けられるような事態になったら俺は三代に渡って地下で強制労働させられるだろうからな」


 警備隊長は通信機越しにそう言って部隊に警戒を呼びかける。


 モニタールームには監視映像が流れ、隊長が状況に応じ、指示を図る。しかし敵を掌握するには映像だけでは不可能な時もある。


(まぁ万が一我々が手に負えないような相手だとしてもアイツが居るからな……)


(第一、何で国境警備隊の隊長クラスがレストランなんぞやってるんだ。……分からん奴だ)


 警備隊長は気を引き締め直しモニターに視線をやった。


 


 ✳




 店長改め、警備隊の一員として会場の通路を監視する男。普段見受けないような正装をして、口に葉巻を加えている。

 手に茶色い包を持ち、それを口から離すとふぅと軽く煙を吐きだす。


 落ち着く時はこれに限る、いつもそうしている。レストランでは妻にやるなと言われ結構な制限があったが。一歩店を出れば自由なのだ。


 警備システムを脳内でイメージしシュミレーションする。


 今回、フォーケンとアルフォードの警備隊が同じく態勢を敷けば相当堅固な壁になる事は間違いない。しかし強固で巨大な壁にも必ず小さな漏れが在る。完璧というモノがこの世にない以上、敵味方厭わず漏れは存在する。


 国境警備隊も似たようなものだった。


 俺の役割は漏れを塞ぐ事。


「ほっほっほ、これはこれは。良かった良かった。警備の方ですか?」


 老獪な爺さんが尋ねてくる。


「違いますよ。ちょっと一服してただけです」

「ははは。すいません、すいません。最近ちょっとボケてきまして、お手洗いは何処ですかね」

「トイレですか……通路の突き当りを左に行くと在りますよ」

「ありがとうございます」


 老獪な爺さんは一瞥すると案内した方向へと向きを変えた。

 豪勢な雰囲気も無く祝の場に居たらまず気付かないレベルの存在感だった。


 一瞥したと思われた老人の歩みが止まる。


「あぁそれと、フォーケン家のお嬢さん。気を付けた方が良いですよ。敵の狙いはフォーケン家のお嬢さんですから」

「……誰だお前、敵か?」


 臨戦態勢に入る。身体中に魔力を巡らせ筋肉に刺激を与え、突発的な事態に対応を可能にする。既に老獪な爺さんという認識は消え失せていた。


「ははは。そこまで大層な者じゃありませんよ。その辺で牧師をやってるしがない爺です。今、貴方に斬り掛かられたら呆気なく殺られてしまうくらいにね……」


 自嘲するように老人は言った。


「で……アンタはここで何をしている」

「私はあなた方の味方です。そして各地から素質を持つ者を中心、王都に送り届けています。敵は強い、ならば私達のする事は、抵抗です」

「敵? そいつ等がフォーケンを狙っているのか」

「フォーケンへの奇襲は敵の目的への最初の一手です。次の段階があると私は考えます」

 

 この爺さん何処まで信用していいのか。警戒は怠らず話をすすめる。聞く価値くらいはあると思う。


「そうですね。ひとつ質問をしましょう。貴方はどんな攻撃が最も強いと思いますか?」

「こりゃまた唐突だな……高い威力と相手に届く迄が早い攻撃だろう、単純だ」

「間違いとは言えませんがそれでは満点回答は与えられませんね。最も強く恐れるべき攻撃は『見えない攻撃』というものです。どうしようと視認出来ない不可視の攻撃は防ぎようが無いのです」


 その言葉に言い包められた気がした。

 言い負かされた気分だ。


 守る側に回れば『見えない攻撃』は対処不能の最悪の一手となる。チェスゲームであるならば相手の駒が視えない状態で試合をする感覚だ。


「つまり敵はもう何かアクションを起こしていて俺らが見えていないと言う事か?」

「いいえ、敵が『見えない攻撃』を行えるとしても私達は何も掴めていない事はイコールになりませんよ。まだ完全に負けたという訳ではありません。敵の正体が見えないのではなく、あくまで攻撃が見えないだけです」

「……敵も人間って事か」

「そうですね」

「……頭の隅に置いておく」


 老人がひと呼吸し、それまで閉じていた目を見開く。その瞳孔には強い意志が宿っているように思えた。


「相棒のグリゼナムバーストは今どうしていますか?」


 店長の背筋に電流が走ったように震えた。グリゼナムバースト、共に任務をこなした相棒であり最も縁の深いライバルでもあった。固有魔法の爆裂を使う事からそう呼ばれる。


「魔法学校の教員をやっていると聞く。何故、リースの名を?」

「ははは。グリゼナムバーストは私の弟子なんですよ。昔よく貴方の名前を耳にタコができるまで聞かされました」

「……あの野郎」

「今度、お店に行きますね。美味しいと大変評判になっていますから、期待しています」


 その老人は笑顔で去っていった。

ここまで読んで下さってありがとうございます。

前回話の多量の誤字申し訳ありません!m(__)m


一応、牧師さん……死亡フラグではない事を宣言しておきます。

これ以上、伏線が増える事はありませんのでご安心下さい。(多少あるかもしれませんが。

……あとは回収するのみ。


本作はエピローグ抜きで三十話程で完結を予定しています。だらだら書いてるとマンネリ化して今より劣化しそうなので。話数はオーバーする時もあるかもですが、そこまで前後はしないと思います。

長期連載を期待して下さった方には申し訳ありません。きっちり締めますのでご容赦をm(__)mハハー


拙い作品ですが最後まで本作にお付き合い、よろしくお願いします、お願いしますm(__)m 

大事なことなので二回言いました。


追記:タグを追加しました。ダメ元ですが温かい目で見守って下さい。


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