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若返った賢人  作者: かーむ
16/32

休日

敵が出て来ます。

 初日の授業から一週ほどの時が流れた。

 勝負を持ちかけたウォーカー=バーランは誠心誠意、自らの罪を認めシルフレに謝った。勿論、その後は同じ事が二度と起こっていない。


 授業も卒なくこなし、我が家に帰っては研究、ミラの経営補助をし、順風満帆に過ごせている。


 そして、今日は休日。

 何かあったと挙げるならば初日の授業が脳裏に焼き付いてしまったのか、シルフレに言い寄る輩が増えてしまった。しかし(ことごと)くそういう場面でウォーカーが間に入っては牙をむいた。無論、言葉で場を収めている。


 何だか良く分からないが、ウォーカーの必死そうな面構えを見ていると咎める気にはなれなかった。と言うより悪い事を働いてはいない気がする。シルフレの反応からもそう伺える。


 そう、そこまでは良い。

 何故こうなった。


 現在は休日の昼間、場所は店長の店。


「俺が落ち合う筈の人間はシルフレ一人では無かったか?」


「私は、シルフィと仲良くしたいから、かな」


 と、朱色の髪を揺らしながら軽い口調で言うリン=ルシアス。


「俺はリンの付き添いだ」


 19組きっての感覚派、本人曰くだが、アイン=モントール。


「私はたまたまこの店に立ち寄ったらエリファスさんが居ましたので、無意にする事もないと思い同席しました」


 隣で背筋に針金が入ったと錯覚するくらいに様になる姿勢のまま微笑む、五皇貴の一家、ティファニー=クラン=フォーケン。確かに笑っているのだが、どうも乾いた感じが見受けられる。


「俺は評判のいい店を巡っていたら鉢合わせただけだ」


 ウォーカー=バーラン。何故こいつがここに居る。良く分からん。


「ま、まぁエリー、いいんじゃない? ほら二人きりだと色々と勘違いとかされそうだし……それで今日、話したい事があるって言ってたけど何かな?」

「隠す様な用事じゃないから構わないが、よくもまぁこれだけ偶然で集まったな。……シルフレに話したい事があるのは確かだ。ここで話すが、いいのか?」


 喉にコーヒーを通し、コースターの上に置き正面のシルフレを見る。


「う、うん。平気だよ」

「そうか。なら単刀直入に言う。あの日からシルフレは魔法が上達したか?」


 一瞬、シルフレの表情が戸惑いに覆われる。


「上手く……なってません」

「だろうな。特異体質とはそういうものだ」

「…………」


 横からウォーカーの鋭い視線を感じる。

 既に、シルフレには現代魔法具と合わない魔力を持っている事を伝えてある。


「……おい、ベルンハルト。シルフレを蔑む為にここに連れてきたのか?」

「話の前提ですよ。ウォーカー=バーラン。

 ……シルフレ。回りくどいのは嫌いだろうから包み隠さずに言うといったな。お前は多分、そのままじゃ未来永劫、魔法は上達しない。だから今日はお前にキッカケを持って来た」

「キッカケ……?」


 そう言ってポケットから木箱を取り出す。三十センチ程の大きさ、特に値を張るものには見えない。


「俺の作った杖だ。現代魔法具とは違う内蔵魔法陣を保存して在る。マントは一応図面にはおこしてあるんだがな、制作にもう少し掛かる」


 俺らの座る空間から音が消えた気がした。


「……は? 作っただと?」

 

 素っ頓狂な声を上げるウォーカー。


「臨床実験も済ませてある。シンクロで感じ取ったシルフレの魔力の質を参考に試しに作ってみたが、やはり本人に試して貰うのが一番だ。確か得意系統は風だったな、シルフレ」

「あぅ、うんそうだけど……いいの?」


 シルフレの戸惑いにティファニーが返す。


「その杖はエリファスさんがシルフレさんの為に創られた物です。受け取れないとなどと言うとエリファスさんが困ってしまいますよ」

「そうよ貰っときなよ、シルフィ」

「う、うんわかった。ありがとう、エリー」


 皆がいてくれて良かったかもな。シルフレに魔法具を強引な形で手渡さなくて済んだ。


 シルフレの隣に座るリンは渡した魔法具を除き込み興味津々といった感じである。


「また増えたな。いらっしゃい、魔法学校の生徒さん達」


 各々、定例の挨拶を済まし注文をする。今回はウォーカーとシルフレが初めてか。


「みんな慣れたか学校は?」


 と店長が尋ねる。在学してから一週間足らずだがそこそこ慣れてきた。俺は。

 ティファニーとウォーカーはそういう環境変化には貴族由来の元来、備わった免疫があるのだろう。平気だと答えていた。


「俺は前働いていた炭鉱場の肉体労働より楽っすね」

「私はちょっとまだ疲れが溜まり気味です」


 シルフレを除いて全員に余裕はあったようだ。あの日の授業以降、以前と比べシルフレ一目置かれ気味である。精神的に来ているかも知れない。


「まぁ何にしても今の生活に身体を早く慣らして置くことだな。そろそろ『合宿』が始まる」


 合宿か。入学時の要項に書き出してあった。イベントと捉えるべきだろうか。

 しかもこの合宿は『騎士学校』の新入生も参加する。総勢2000人近い人数での合宿になる、開始は一ヶ月後。

 備えあれば憂いなし、少しは下調べをしておくか。




 ✳




 日が沈み、各々が帰路に着いた。

 俺も例外ではなく、そのまま家を目指す。


 街灯が点き始める頃にようやく大きな邸の前に辿り着く。我が家は二階建て、広さは中庭と含めて三百坪は在る。

 使用人の数は数人、仕事の出来る少数精鋭に留めた。大勢いられても困る。


 敷地に足を踏み入れ、堂々と玄関を通る。ここは俺の家である、問題は無い。


 使用人と挨拶を交わし奥の部屋へ向かう。すでに食事の準備が整っているそうだ。


「お帰りなさい。エリファスさん」


 部屋に居たのはミラ=カーティス=ファーレンハイト。ファーレンハイト家の次女で騎士学校の二学年生。

 一見すると隙の無い女性に見えるが本当に隙が無い。多少、口数が多いくらいだ。


「今日はゆっくり出来ましたか?」


 料理の広がるテーブルを前に椅子に腰掛けて微笑むミラ。


「えぇ、少し予定がズレましたがそこまでカツカツした休日にはなりませんでしたね」

「ふふ……貴方は普段から休暇を欲しないから心配していたんですよ?」

「それは申し訳ありません。ご心配お掛け致しました」

「いいのよ、気にしないで。助かっているのは此方だから。ほら料理が冷めてしまうわよ。座って」


 鼻孔に充満する匂いは、今日一番食指を促進したかもしれない。


 そのまま談笑しながら食事をする。二人きりの時はマナーに抵触しない程度にお互いに喋り、笑ったりする。仕事の話や学園の話、まだ同じ屋根の元に住んで一週間程だが、互いの距離はそうとう短いと思う。


「そう言えば来週の休日は時間を取れますか?」

「来週ですか? 特に用は無かったかと思いますが」

「良かったわ。来週末に五皇貴の二人の入学祝いの祝杯に行く事になってね……

 それで、その……」

守護者(ガーディアン)ですか」


 俺にとっても損の無い話だった。第一ミラはそういう話しか持ちかけて来ない。

 二人の入学祝いのパーティーともなれば、この国の大黒柱ともなるトップが参列するだろう。深く関与するつもりは毛頭ないが、今の社会情勢を知らないのも不味い。加えてそれらは『合宿』に影響してくる。


 1学年の内に行われる魔法学校、騎士学校の同時合宿には将来有望な学生に唾付けをする為、大企業、役人、軍隊等が集まる。二つの学校もそれを容認している。


 直に相手を見ておく事も必要だろう。


「分かりました。ただ、当日に守護者(ガーディアン)以上の要求をしないと誓っていただけるならば請け負います」

「うん……ありがとね。信用出来る人あんまり周りにいなくて。優秀な護衛を雇用するのは簡単だけど、信頼するとなると別なのよね」

「勿体無いお言葉、ミラさんにそんなに信頼されているなんて。


 後、経営状況の報告が少し滞っておられるみたいですね。先日提出された企画書の内容も少し不備が有ると――」

「う、うぅ、やっぱやだぁ……鬼畜エリファス鬼教官ベルンハルトぉ……」

「幼児退行しても無駄です。さっさと直してください。それまで羽毛布団は回収させてもらいますから」


 この女は基本的に生真面目なんだが、布団に入って寝ると朝まで起きない。何処かの物語のお姫様のように。三日連続で布団に侵入された時は本気で胃が痛くなった。手抜きしないと誓った以上はやって貰う。




 ✳




 ミラが仕事を終えるのを見届け、屋敷のバルコニーで外気を吸いに来た。今後が思いやられる様な奴では無いが、少し抜けている所が勿体無い。


「気苦労が絶えないな、我が弟子よ」

「不法侵入ですか。師匠」


 バルコニーの済にいつの間にか降り立っていたミハイ=ルージュ。満天の星の放つ光が二人を明るく照らす。


「魔法具の調子はどうだった?」

「ほぼ調整の必要は皆無です。まぁ本人が一番実感してるみたいですが」


 だから納得出来ない。


「師匠は何故シルフレ=アルカナードに魔法具を渡せと推奨するのですか? 貴方はそんな事をする程お人好しではないでしょう」

「まぁ……そうだな。数年前の私なら私塾もシルフレって娘専用の魔法具にアドバイスなどしなかったな」

「そうですね……師匠の心境の変化を考慮しなかった場合、環境的な要因があった可能性が浮上します。推察ではありますが、つまり今現在、この国の水面下で何か起こっていると言う事で間違っていませんか?」

 

 ひと呼吸置いてミハイ=ルージュは会話を繋げる。


「……お前の兄が数年前から行方を暗ましている。エリファスなら分かるだろ、この先どれだけ最悪な事態が起こりうるか」

「足取りも追えて無いのですか?」

「全くだ。足跡のひとつ見つかっていない」


 俺の兄、俺の事を政界から追放した張本人と言っていいだろう。俺は世間から見れば隠居したかのように見えているが実の所は半分くらい違う。座っている椅子を蹴られたのだ、兄に。当時の自分にはそこまで居続ける義理も無い事だし、田舎に身を引いたが、不味いな。

 あの狂人を野放しにしておくのは良くない。


「師匠、俺が政界から身を引いてから兄は表立って動いてましたか?」

「してないな。その前にお前の兄は自分の狙いを悟らせない。まず何かしてても見つからないだろう」


 正直、悔しくて口が裂けても言いたくないが、兄の方が頭の出来は良い。1つ次元の違う相手と闘うようなもんだ。昔は必死に追いつこうとしたがその度に更に一歩先を行かれる。


「その通りですね……ただ兄は骨の髄まで一貫して平和主義者です。だから栄えている国に手を出してくる可能性は低いのでは?」


 そう、兄は狂人で在りながら絶対的な平和主義者なのだ。

 ただ、その価値観が普通じゃないだけで。以前に反乱因子のはらんだ貴族集団を根こそぎ消した。地図にも証拠も残さず。


 身内が平和に過ごせるならば平気で何でもする。選択を厭わない。


「……どうだかな。いづれにせよアイツの足取りが掴めるまでは油断ならん。エリファスも何か得た事があれば言ってくれ。もう行動を始めているかもしれんしな」


 いや、兄に計画があるならとっくの昔に何か行動を起こしている。


「分かりました……」

二話分近い量を盛り込んだ為に明日の更新があるか分かりません。すいません。すっぽかしたらご勘弁をm(__)m


兄さんはまだ出て来ませんが最後まで物語に関わってくれます。兄弟、二人の葛藤、奔走を見て頂けると幸いです。

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