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若返った賢人  作者: かーむ
15/32

授業 Ⅲ

 コンビを誰と組むのかは自由だった。

 しかしそれはクラス内でのみ。


 もし他クラスも容認されれば一目散に駆け寄ったのに。握り拳で地面を殴りたい気分だったが。今は人目がある。

 表し難い感情を理性で押し留める。


 ティファニー=クラン=フォーケンは自分の心境変化に気付かない物語の乙女ではない。貴族の中でも幼少から高い教養を受けてきた。


「私も留まっては居られませんね。でも決まりは守りましょう。最低限の努めです」


 合同授業ではコンビを組めず別個になってしまったが、それはそれ。


 目の前の事に集中するのだ。

 私は三位、まだ彼には遠く及ばない。


「ティファニーさん」


 多くの人が、コンビを組んで欲しいと自分に言い寄る人垣が崩れていった。


 赤髪の青年。同じ五皇貴であるこの人とは昔からの仲であった。


「アルフォードさん……」

「オルグレンでいいですよ。ペア、組みませんか?」

「……はい、お願いします」




 ✳




 シンクロを使った授業が始まった。

 最初に1組から消化してゆく。


 その様子に19組の全員は完全に萎縮しきってしまっている。


 まず、ティファニー×オルグレンのペアは堂々のA評価。1組の過半数が終わり未だにその一組しかA評価を付けて貰っていない所を考えると五皇貴の突出した実力が伺える。その他、最低でもC。普通にB評価を量産する1組の強風に当てられ19組のやる気は右肩下がりだ。それこそ、脱臼に骨折を重ねたくらい。


 その様子を見せつけるように1組のペアが回り時間がどんどん過ぎてゆく。


「おい、貴様……」

「これはこれは。ウォーカー=バーランさん」


 そう言うと吐き捨てるように舌打ちをするウォーカー。整った容姿が勿体無い。大方、食堂の件で恥をかいたのだろう。

 後ろで縮こまるシルフレ。背中を掴む手に力が入ってくる。


「……勝負しろ。俺とお前で優劣を決めたい」

「勝負しろとか言われるまでも無く教員の審査で評価が出ますが、もしかしてそれ以外で競うつもりですか?」

「……いや、どうせお前はA評価を取れると思っているのだろ? そしてそれは俺も同じだ」

「……なるほど。ではどうしろと?」

「俺が負けたら先の件は贖罪する。俺が勝った場合はそこの女を貸せ」

「出来ない相談ですね……」

「案ずるな、もう同じ事は二度としない」


 その目は偽りを語っている様には到底、思えなかった。


 しかし何故こいつはここまで執着する。

 周りの貴族を例えるが、誰も無用な絡みはして来ていない。

 

 つまり無用では無いと言う事だな。


「シルフレ、いいのか?」

「あ、う、うん」

「成立だな」


 そのまま踵を返して行ったウォーカー。

 相変わらず棘の抜けない喋り口調だった。


 そして幾分か経つとウォーカーの番が回ってくる。ペアの相手は男で仲の良い間柄らしい。知らないが周りはそう言っている。てっきり女と組むもんだと思っていた。


「では、始めなさい」


 シンクロの授業は暴発した時のサポート要員に一人、今日は先生が入る。それも滅多にない為、評価を同時にこなせる。つまりこの合同授業は自動的に一人手持ち無沙汰になる。


「ウォーカー=バーラン。入試時獲得得点989ポイント。実力あるエリート坊っちゃんだが……」


 つまり、リース=グリゼナムは現在、半ばお払い箱の立ち位置なのだ。さっきから暇そうにしては、マードレットの監視の目が無くなると学園の女にちょっかいを出してる。


「教師とあろう御方が盗み聞きとはいけませんね」


 ウォーカーの方に目線をやったまま会話を続ける。

 

「馬鹿野郎、俺が食堂の件、伏せといたんだ。それくらい許せよ」


 正直、俺はあんたが面倒くさい事が起こりそうだから伏せたようにしか見えないんだがな。


「まぁ学園に報告しても俺は不可抗力、正当防衛を駆使して幾らでも切り抜けられましたし……忠告しに来たんですか?」

「マードレット先生がお前の事を怪しんでる中核だ。あの女はプライドの溶液ににがり入れて沈殿した物体と比喩出来る。それに今日は学園長もいる。そんな危機迫った状況でパートナーはこいつか?」


 リースは平気なのか、と言いたそうにシルフレを横目に言った。流石に差別観念が薄いリースでも首席の俺に見合う最下位という認識は無い。加えてリースは入学試験で俺の魔法を一度見ている。


「無用の心配ですね。悪いですけど俺の方が遅れを取らないか不安なくらいですから」

「……まぁお前さんがそう言うならいいが、採点に依怙贔屓は出来ねぇぞ」

「入学試験通りにやって下さい。御忠告どうも」

「……はぁ、まぁ頑張れよ」


 リースは諦めてその場を去った。

 貴方の不安が分からない訳ではないが、実物を見ないと納得出来ないだろう。

 

 ウォーカーは演習場に立ち、シンクロを行う準備をしていた。表情からどれだけ真剣なのか読み取れる。さっきのは本気の交渉だったのか。奔流する体内の魔力を込めて溜池の水に干渉する。


 水はリース先生が創り、堀はマードレット先生が仕上げた。彼らは当然の様に無詠唱魔法を使っていたが、教師の中でも無詠唱魔法使いは少ない。


 ウォーカーとペアの間に水球が出来る。大きさは平均的な一メートルサイズの2、3倍はある。形も申し分無い。1組の中でも頭1つ飛び抜けている。流石と言うべきか。


「……す、凄い」

「凄いな。確かに」


 魔法学校は良い。良き日を、面白い周りと有意義に過ごせそうだ。

 

 ウォーカーの組が終わり、マードレット先生の評価が入る。当然の如くA評価。周りから感嘆の声が漏れる。

  

 そして、いよいよ1組の最終ペアが終わった。


「落ち着け、シルフレ」

「う、うん」


 俺らの順番はクラス内で二番目。クジによる番号順だ。


 一番目の組は


「流れが完全に1組みだが、緊張すんなよ。リン」

「あんたこそしっかりしなさいよね。午前中の収穫ゼロでしょ」


 茶色と赤色の髪が異様な親和具合を発揮しているが、それまた頼もしい事この上ない。次に俺らが控えている、シルフレの為にもここで流れを変えてもらいたい。


「では、始め」


 サポートがリース先生に代わったのを合図に19組がスタートする。




 ✳




 アイン&リンペアのシンクロは見事の一言だった。バーランペアにも負けず劣らないくら位に。結果はA評価。


「ったく危なっかしいな」

「アインがエリファスと張り合うからでしょ……」

「何だ、アインは俺と張り合っていたのか?」

「げ……」

「見ちゃ不味かった物を見るような目をするな。アイン、俺とペアを組まなかった理由はそれか?」


 アインは、片手で頭を抱えながら、はぁっと大きなため息をついてこっちを見る。


「お前、何でも口に出すよな……」

「そうか?」

「本当にエリーはデリカシー無いんだね」


「ほら、喋ってないで、次早くしろ」


 リース先生がお待ちのようだ。

 前に出ると自然と周囲の視線を感じる。歩きながらシルフレに耳打ちをする。


「取り敢えず、全力で魔力を脹れ、後はこっちが合わせる。細かいコントロールは気にするな。水球の形は俺が維持する、躊躇わなくていい」


 シンクロで水球を動かす場合、魔力で直接物体をコントロールする。その時お互いの魔力が均等になる事が条件である。繊細さは二の次、と言うよりどちらかが担当すれば済む話。


「うん、任せて」


 ほう、だいぶ良い目つきになったじゃないか。




 ✳

 



「次は例の子ですか。リース先生」


 本来ならば自分一人で間に合う仕事すらこの際、彼女はわざわざ請け負ってくる。


「まぁ、そうですが」

「楽しみにしてるんですよ。規格外の首席の実力を」


 皮肉を感じさせない様に一皮オブラートで包みながらも意図を伝えるマードレット先生。この女、面倒くさい。

 だが、容姿が抜きん出て良いからこれまた質が悪い。


「リース先生は何故彼のペアに最下位の子を任せたんですか?」 


 こういう所だ。お前が学園を籠絡しているから学園長が合同授業を容認したんだろうが。そうでもしなければ初日から貴族と平民の合同授業なんざしない。

 

「そりゃ……釣り合いが取れるからですよ」


 と言って誤魔化す。

 その後も適当に話を濁した。




 ✳




 溜池の近くにシルフレと向き合う形で立ち止まり、魔力を集中する。魔素(マナ)は練らないが、魔力は全開だ。


 シルフレも体内で、凄まじい規模の魔力を集中している。


「行くよ、エリー」

「あぁ、来い。シルフレ」


 溜池の水にシルフレの魔力が大量に干渉する。その規模は一瞬にして縦横十メートルに及んだ。段違いの出力だな。即効性も申し分無い。


 間を置かずにシルフレの干渉した水の領域に魔力を合わせる。この時点で既に集中していた魔力の六割を総動員している。改めて凄まじい魔力だと認識させられる。故に現代魔法具と肌が合わなかったのが勿体無い。


(単純な魔力量だけなら、若返りをしていなかった俺と同等かそれ以上だな……)


 シルフレの魔力を感じ、次の段階へ移行する。水球に形状維持したまま空中に持ち上げる。


「何だこりゃ……」

「やば……でか過ぎでしょ」

「何人分よ、これ」

「はぅ、凄い……」


 水球は直径十メートルにまで肥大しながら重力に逆らい空中に浮遊している。


 そんな様子を他所に、想定外の事態になりつつあり、額に嫌な脂汗をかくエリファス。


(……不味いな……これだけの規模の水球。今の魔力だけじゃ形状維持と移動の同時進行は不可能だ)


 ここで動かそうものなら、形状維持に魔力が回らず、水球の表面が波打ち始める。形状維持に魔力を注げば水球は鈍い動きになる。


 いづれも採点問題が発生する。


(……仕方ないか、あんまり使う気は無かったが今更秘匿する事もないしな)


 ゆっくり(まぶた)を閉じ、呼吸を調える。


 身体の魔力コントロールを最大限、安定する事に集中。



《体内魔力管理権限を一時的に補助動力(バックアッププログラム)に委託》


《認識及び領域制限(リミッター)強制解体(オーバーホール)



《……源域魔力、流失量20% ――突破》



《……危険値量まで70% ――進行》



《……領域管理権限40% ――上昇》



【――第1要塞『怒門(ラウドラ)』 ――開放】


 

 上昇した領域管理権限を使い、絶対値の跳ね上がった多量の魔力をシンクロのコントロールに繰り上げる。


 水球の表面上の乱れは生まれず、波長が完全に整った球体が出来る。


 移動を同時進行。


 その場の誰もが息をすることを忘れたかの様に二人の姿に目を奪われていった。


 三十メートル先の目標設定された場所まで水球は悠然と浮遊し、その真上で停止する。


「終了だ。」


 合図を聞き、シンクロを解除した途端、水球が地面に吸い込まれる様にして落下。水がべちゃ、と音を立てその形を崩す。


「良くやった。二人共申し分無いA評価だ。いや、A以上与えられないのが残念だな」


 リース先生のその言葉を聞き、二人の表情が思わず弛緩する。シンクロを解除しても尚、シルフレは特に今置かれている状況が理解出来ていなかったみたいだ。


 俺も同じく、予想以上だ。


 まさか怒門(ラウドラ)を使う羽目になるとはな。侮れない。


 領域管理権限とは通常時、人の脳、感情で魔力を無意識に制限している体内各所の領域制限(リミッター)を無理矢理解除し、魔力の流れを促すことを指す。 


 筋肉と同じく、魔力も感情などの脳作用で一定ラインを超えた魔力流失を防ぐ為に体内各所にリミッターのような物が(もう)けられている。


 領域管理権限を上昇させると、膨大な魔力を一度に操作する事が可能になるが、その反面で魔素(マナ)を使うより暴発、反動作用(リバウンド)の確率が極めて高くなる。


 勿論、その確率、危険値量までを《門》として区分する事で万が一の事故を防いでいる。

 伊達に二十年、郷に籠っていた訳じゃ無い。




 そうして入学して授業初日を終えた。

ここまで読んで下さってありがとう御座います。

誤字脱字報告助かっています。


今回の話は、『何十年も隠居してて得た魔法が若返りだけとか虚しくね?』と思って書きました。


取り敢えず5日連更新頑張りま……す……( ゜∀゜)・∵. グハッ!!


ーーー


この間クラスの友達に「賢人読んでるよ」と言われて悶絶しかけました。貴重な読者様ですね。


本作をこれからもよろしくお願い致しますm(__)m


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