入学
やっと本編です。
学園編です。
ホントやっとです。
やっと始まります。宜しくお願いします。
追伸:更新遅くて申し訳ありませんm(_ _)m
ー入学式当日ー
男子総員461人、女子総員439人。
以上、総勢900名は第721年度魔法学校第一学年として『この日』を迎えた。
男子の青い制服はふくらはぎの部分までコートの長めの丈が覆い凛々しさが増す、女子生徒は透明度の高い海を思わす淡い紺、ネイビーのスカートコーデ。
まだ初々しさが残るがそれがまた新入生らしい。
ある者は、奮起し今後の学園生活を渇望している、
ある者は、未だに入学出来る事を信じられずにいる、
ある者は、晴れてこの日を迎えた事に涙し、
そして全ての入学生は共通して、初めての魔法学校での学園生活に、今後の躍進に大いなる期待を抱いている。
それは、この男、エリファスも例外ではなかった。
紆余曲折あったが、この日、在校生教師陣に迎えられ、目出度く魔法学校に入学した。入学式は新入生代表として壇上に立ち挨拶をした。流石に平民なだけあって訝しい視線が向けられたが、まぁ特筆した出来事が起こった訳でもない。
ファーレンハイト卿の温泉街は当主の圧力あってか、俺の企画書に対する審議も円滑に、スムーズに無事終わり、ミラを経営者と立て、計画は始まっているようだ。
俺も何事もなく家を確保した。
我が家は最高だと思う。
室内は広いし、地下室もあり、中庭もある。結界さえ張れば幾らでも実験、研究に耽られる。周囲の環境は言わずもがな。
同時にこうして学園に入学出来たのだ。聞く話によると国営図書館が隣接しているのだとか。後で、行くか!
駄目だ。
何か興奮している。
落ち着け……。
入学式も終り、退場した後、自分のクラスへと別れ各々、今後の説明を受ける。クラス番号は20クラスある中の19組、アインとリンと同クラスである。
「エリファスと同じクラスとか……ポイント取れねーじゃん」
アインは教室に着くなり、いきなり毒づいてくる。リンはそんなやり取りに、しょうがない、呆れた様子だった。
ただ二人の実力なら心配無用、進級は確定事項だろう。八〇〇ポイントを越える生徒は、入学生上位五パーセント以内に含まれている。
魔法学校の授業カリキュラムは午前中は座学などの基本的な授業、午後は魔法を含めた実技をする事でポイントが付く。
「まぁ、いいじゃん。優秀な人から色々学べるってやつでしょ」
「んー、そういう事にするか。あんまりウジウジしてると置いてかれそうだしな」
アインは、俺に話しかけていた筈が、いつの間にかリンと仲睦まじい空気を作っている。
どうも俺は要らないようだ。
「仲が良いんだな、二人とも……」
俺がそう言うと、二人は今までお互いに向き合って話していたのに急にそっぽを向いてしまった。
「……」
「……違うもん」
まぁ……なんだ……そう言うことらしい。
仕切り直して、合格した日に手渡しされた教科書類を机の中に仕舞う。もう、全科目予習済みなんだがな、持って来ない訳にもいかないだろう。
「……そういえばアインとリンに聞きたい事がある。模擬戦とは何だ、先ほど校内で誰かが話しているのを耳にしてな、知ってるか?」
「模擬戦を知らねぇのかよ。よく入学する気になったな……」
「あはは。そうね……模擬戦は――生徒同士のポイントの奪い合いって言ったらいいのかな?」
「戦って勝った方にポイントが移譲されると言うことで、いいのか?」
「基本コンセプトはそんなもんだな。ただまぁ、相手に再起不能ダメージを負わせる攻撃は出来ねぇし、普通の戦闘と比べたら味気ねぇぞ。一回模擬戦勝ってもその点数差によって貰えるポイントにばらつきあるし、殆どポイントに余裕がある奴の娯楽みたいなもんだぜ」
アインとリンの説明を受け、情報を整理する。
魔法学校も色々とシステムが導入されている。俺が国家官僚の時は、こんなに学生同士で成績を意識させるシステムは組んでいない。
ただ模擬戦に関しては多彩な魔法が使える貴族に分があると見える。殺傷性の高い魔法はアインの言うとおり当然禁止、使える魔法に多様性がある貴族にあからさまに軍配が上がるだろう。娯楽とも言われているのだしな。
だが、この模擬戦の『本質』は違うだろう。俺が模擬戦を学園に導入するなら『救済措置』と言う名目を据える。あくまで表面上でそう誘う。幾ら模擬戦が画期的なシステムでもポイントを取る側と取られる側が居なければ成立しない。
恐らく、取られる側に回るのは、成績の低い生徒。
しかし成績の低い生徒でもようは勝てばいいのだ。模擬戦の仕組み自体、授業で取れない者の逃げ道として用意してある様にも見えるしな。
そこが落とし穴でもある。
授業で点が取れない奴が、模擬戦で勝てる訳がない。ほぼ確定事項だ。
「……ひたすら勝者にポイントが流れるのか。残酷だが仕方ないのかもな」
話がひと段落し、19組のクラスメイトの緊張状態も解けてきた頃、白い塗装のされた教室前方のドアが開く。
客観的に見ると、このクラスの教員と言った所だろうか。顔のシワから相応の歳を重ねていると判断がつく。
クラスの視線が自然と彼に集中し、男は教壇の前に立った。
「第1学年の学年主任、このクラスの担任になったリース=グリゼナムだ。まぁたぶん一年間何事もなければ、宜しくだな」
合点した。そうかこの男……試験監督の時から、何処か面影が有ると思ったらいつかの魔法使いではないか。
リース=グリゼナム、火・水属性の得意系統を持ち、爆裂の魔法を扱う。敵兵の野営地を消し飛ばしたなど、類稀る戦績を良く耳にしていたが、魔法学校の教師か……。人生何があるか分からないな。
「習うより慣れろ。魔法はこんなもんだ。思い付いたら安全を考慮してバンバン使うといい。丁度このクラスには優秀な奴が多いようだしな」
リースは最もな事を言う。クラスに関しては1から16組までは貴族等のお得意様。それ以降は平民で構成される。言うまでもないが、魔法の習熟度に差が出る。
そして、そのパワーバランスに波瀾を生む因子はエリファスやアイン、リンなど平民でポイントを獲った連中だけでは無かった。
教室の傍らに、自らの動揺を悟られぬ様、ただ目立たないようにしている少女がいた。クラスの大半がその存在に気付かない様な。
肩にかかる程度の短めの黒い髪を持つ幼さの残る顔立ち、彼女もまた今期の新入生であった。
シルフレ=アルカナード
入学時獲得点 533Point。
入学時順位 900位/900名