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若返った賢人  作者: かーむ
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二度目の人生

2015/03/21 訂正しました。

 

 鏡台の前に立ち尽くす一人の男。


「一応、若返りは出来る事が判明した所だ

 ……逆走する自分の容貌でも見ながら愉しむか」


 指先にナイフを当てる。

 血が滴り、床に敷かれた魔法陣に吸い込まれる。


 淡い光が魔法式を構築したのを示す。


「……おぉ」


 鏡に映る自身の姿を見て歓喜の声を漏らす。


 さしずめ10は若くなっただろうか。


 となると今の自分は差し引き30歳くらいか。


 ふむ……確か30代の頃と言えば戦争の指揮官を押し付けられ、経済勢力を増す為に国に引っ張りだこだったな。

 

 何故あぁも利己的な官僚ばかり採用するのか不思議でならなかったな。


 まぁ無論そんな輩揃ってクビにしてやったが。


 下らない事はどうでもいい。

 続きと行こうか。


 再度、魔力込める。


 床に刻まれた『蘇生』の魔法が発動し身体の細胞に作用する。身体の奥底から力が漲ってるのが分かる。


 あぁ、これが『禁忌』であり『誰も使えない高等魔法』なのか。


「ふはは……」


 優越に浸る声が漏れる。

 

 歳は更に10若くなり、20代。

 身体能力も魔法もある程度この歳でピークが来たのを実感したのが懐かしい。

 

 今ではそれが自由になったのだ。


 今度はもう少し『蘇生』の速度を加減し、5年近く若返りを果たす。


 現在、推定15の少年が目の前の鏡に映る。


 『一度目の15歳』で公表した魔法論文が皇族の目に止まり、家庭教師として雇われ国家官僚に登り詰めたのが人生の正解だったのか、間違いだったのか。


 今考えてみれば風見鶏の様な論争だ。


 皇族に有能と認められた事で若者の『日常』に触れる事が出来なかった事を悔やんだ時もあるが、お陰でこの国の多くを知れた。


 加えて『蘇生』を使って若返り、返り咲く事も出来た。寧ろ感謝すべきだろうか。


 そして鏡に映る『15の自分』を見て思う。

 そこには不可能の代名詞でもあった『蘇生魔法』の結果が映っている。


 ここまで来るのに長く時間を費やした。


 幾人もの学術論者の心を折り曲げ絶対に解がでなかった『蘇生魔法』を編み出すことに執念を燃やした。


 彼自身、不可能に挑むのは個人的に心を燻ぶられる興味深い分野だと思っている。


「憎む者はこの世界に幾つか残っているが、こうして改めて若返って見るとそんな事どうでもいいな

 と言うよりは金輪際関与したくない……」

 

 まぁこの歳まで若返った事だ、また同じ名を名乗る訳にもいかないだろう。


 『蘇生魔法』を使える者が居るなど知った帝国がどう出るか知れたもんじゃない。


 近くの本棚から人名辞書があったのでペラペラとページをめくり名前を適当に引き抜く。


「エリファス=フォード=ベルンハルト。よし……とりあえずはこれでいい。しかし別人となる以上、新たに戸籍が必要になるな……」


 そうこうして廊下を歩いていると急に身体の違和感に気づいた。初めは『蘇生魔法』の反動かと思ったが違うようだった。

 

 身体の奥底から溢れ出る桁違いの魔力に足を止め言葉を失っていた。


 現役時代でもこれ程の魔力は感じた試しがない。周囲からに魔力が少ないと言われる事はなく寧ろ平均よりも多めの魔力を誇示していた。


 しかし魔力の集中すらしていないのに、それはピーク時の倍以上に膨れていた。


 同時にドア鈴が鳴る。


「……またいつもの勧誘か」


 正直ウザかった。

 王都に興してその手腕でまた活躍して下さい、だの。


 おしめの取れないガキにそっくりで見ていて手を差し伸べる気にもなりやしない。


 そうやって自分達の頭を使わないから俺みたいな狡猾な野郎に利用されていい様にされるのが分からないんだろうな。


「あのー賢人様のお宅で間違いないですよね?」


 玄関口の男がそう言った。

 

 確かに今気付いた。

 俺は15歳の少年の姿のままだった事を。

 

 玄関口の男は確かこの周辺貴族だったか。

 金も権力も中堅よりすこし上くらいだ。

 こんな田舎に居る割に身分が高い。




 ✳




「……流石です。まさかあの難攻不落の『蘇生魔法』を完成させてしまうとは……このファーレンハイト感銘いたしました」


 取り敢えず何も始まらないので全て話した。



 ファーレンハイトと名乗る男を5年若くしたら俺が本人である事を納得してくれた。


「そこで私の全てを話したファーレンハイト卿に頼みがあるんだが……いいか?」

「はいっ! 私めのような者で事足りるなら是非!」

「うむ。では、エリファス=フォード=ベルンハルトとして新しい戸籍を出来るだけ迅速に用意して欲しい。無論タダでとは言わない」


 話を切った俺は「そうだな」と言って部屋の奥を見渡す。


「ここに在る研究資料を全てファーレンハイト卿に進呈しよう。私も隠居してから随分研究に更けたからな、満足してもらえるくらいの論文が有ると思う

 もし足りないと言う様なら私が補填しよう」


「い、いえ! 足りないなどそんなッ!」


 取り乱すのも無理ない。

 多分、ここにある研究データをうまく売り捌けば人生を二十回くらいは働かずとも暮らせるだけの資金になる。


「満足してもらえそうで何よりだ。だが『蘇生魔法』に関する文献、書物は全て破棄させてもらう。あんな魔法があっては世の中の秩序が無くなってしまうからな。して、何日で戸籍は作れそうだ?ファーレンハイト卿」

「半日で用意致しましょう!!」


 と言うことで契約成立。


 三時間後にはエリファスとしての戸籍を作って市民証(パーソナルカード)まで用意してくれた。


 ファーレンハイト卿は研究データ以上を要求してこなかったし、軽い口封じで済んだし、やたら忠誠心剥き出しなので大丈夫だろう。


 思わせぶりがこれと言って無いので今後共お付き合い願いたい。

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