第1話 ~常~
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4月28日
桜が華麗に舞う春だった。
住道駅に向かう通勤電車の中に灰色のスーツを着た白髪と黒髪が混じった灰色の髪を揃えた初老の男性が新聞紙と小さな紙とを交互に見合わせ大声を上げた。
「え?ちょっ、え?おぉ!?え?おいおいおい!!!!!!よっしゃぁぁぁぁぁっぁぁあああああああああぁぁぁあああ」
電車に乗っていた人々はその初老の男性へ視線を向けた。
「あっ、……すいません」
初老の男性は頭を下げ次の駅であった住道駅に着くと逃げる様に電車を後にした。
その席には名刺がポツリと落ちていた。
神崎神戸
神崎中学校 校長
と、書かれたカラフルな名刺だった。
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7月1日
廊下を渡って1番奥のクラス、2年4組。
『おはようさん。今日から7月やな!もう夏やけど服装乱さんとがんばろう!』
黒板に書かれたメッセージ、1学期の初日から書き続けているこのメッセージは読まずに消されているのが日常になったいた。
「おはよ~柊」
俺に話かけてきた少年。羽野雄策だ。同じバスケ部であり言いたくは無いが賢い。
そして俺は工藤柊。これも言いたくないが全てが並・・・・だ。
「おはよ。今日は早かったな。もう出席始まるから席につけよ」
「そうやな。じゃな」
羽野は急いで自分の席に着いた。
ガララ――
ドアが乱暴に開く、
「おっはよ~」
2年4組の担任、体育担当の川田智子先生がいつもの様に元気にあいさつする。
「山路、あいさつして」
女なのに言動だけ見ると男に見えるのがこの先生のいいところだ。親しみやすい。
「起立」
クラス委員長の山路由真の号令で皆が次々に立ち上がる。
「礼っ」
「おはようございます」
口々にそういい着席を言う前に座り始める。それでも山路は毅然とした態度で言う。
「着席」
皆座っているのに山路だけはそれに合わせて座る。これも日常だ。
「じゃぁ皆今日もがんばりやぁ」
それを言い残し1時間目の数学の担当の先生と入れ違う。
「皆席ついてやぁ」
数学の先生、新野々村こと野々村太郎がいつものメガネを通して皆を見ている。
新というのはバスケ部のスパルタ顧問にも野々村という苗字の先生がいるからだ。その先生は旧野々村と言われている。
1時間目が始まったか。数学はノート取らんでもテスト前にワークやればいいから寝とこ……。
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「工藤。おーい」
聞きなれた声。長谷川か。
「黙れ長谷川。こっちは寝てんねん」
「いやいや。寝たらあかんやろ、授業やぞ」
「お前に言われたくないわ」
やりもしなかった数学の教科書、ノートを机に直しもう一度眠ろうとする。
「寝んなや!お前どんだけ眠いねん」
「だから黙れって」
「ひどっ!もういいわ羽野のとこいってくる」
長谷川が羽野の席に行った。
長谷川恵太バスケ部の友達、クラスは違うのに毎休み時間くる。
キーンコーンカーンコーン♪――
「はーい。授業始めんぞー」
次は国語か。秋元 大賀あごが曲がっているがいつも楽しい授業ができる先生。太郎とは全く違う。
「じゃぁ今日は35ページから」
授業が始まるが集中して黒板を見続けられない。
「柊、喋ろ~」
後ろから肩を叩かれて振り向くと中瀬洸希が眠そうな顔でいた。
「ナイスタイミング。俺も暇やってん」
「やんなぁ。ノートとかつまんないなぁ」
「ホンマやで。学校無くなったいいのにな」
「全学生の夢やでそれ」
話しているとテンションが上がって音量が上がっていくのが自分でもわかった。
「かくれんぼしてればいいのになぁ」
「かくれんぼって、小学生かよ」
2人で笑っていると秋元に睨まれた。
「中瀬、ここは何て読むんや?」
聞いていないのを知ってて問題だしてる、怖っ。
「えっとぉ……。わかりません」
中瀬ェェェ。時間稼ぎありがとう。おかげで教科書開けたよ。
「じゃぁ工藤、ここは?」
「65です」
「合ってる。中瀬~お前なんで分からんねん~」
クラスの雰囲気が明るくなり笑い声が聞こえだす。
キーンコーンカーンコーン♪――
「ふ~終わった。国語は早いわ」
「そやなぁ」
その後も
理科、社会、英語、と5教科だけの時間割をこなしてやっと終礼に入った。
再び山路があいさつをする。
「礼」
「さようなら」
「……さようなら」
皆が言いいつもなら直ぐに返事をする先生が一呼吸置いて言った。
その表情はいつもの明るい先生ではなく本当の別れを告げるようだった。
-END-