1.猫の謎
「おお!ここが王都かぁ!」
革の鎧と使い古した剣を身に着けた若者は、門を抜け周囲を眺める。
そこら中に声が響き、様々な露店が客を呼び込んでいる。
「おう、若いの、王都は初めてか?」
若者に近づくのはエールジョッキを持った壮年の男性。
「はい!依頼で初めて王都にきたんだ!」
「はっはっは!そりゃタイミングよかったなぁ!今日は平和に感謝する解放祭が開催されてんだ!ついでに楽しんで行けよ!」
壮年男性は機嫌よさそうにジョッキを傾ける。
「解放祭?」
「おいおい、知らないのか坊主は。今日は愚王ファヴニルを王座から引きずり下ろした今の国王陛下、ジーク様が戴冠された日だ」
「あー!聞いたことあるような気が…あ!そうだ!まず最初に冒険者ギルドに行かなきゃ!」
ハッとした様子で歩を進めるがすぐに壮年の男性に肩を掴まれる。
「坊主!そっちじゃねぇぞ!」
「あ、あれ?地図によると…」
地図をくるくる回している若者に壮年の男性が呆れていると、若者の足元に全体が黒く、背中に羽のような白い模様のある猫が寄ってくる。
「にゃ」
「あ…ごめんな!今遊んでる場合じゃ…」
その猫を見た壮年男性はニヤリとする。
「おう、若いの、そこの猫に案内してもらえや!」
「は?何を言ってるんだおっさん!飲みすぎじゃないか?」
「にゃ!」
そう若者は返事をするが、猫はまるで案内をするかのように道を歩き振り返る。
「ほら、行った行った!」
「にゃ!にゃ!」
「はぁ…なんなんだよもう」
仕方なく若者は猫の後を追いかける。猫は道を迷いなく進み、時折挨拶してくる人に「にゃ!」と返事をしているようにも見える。
「なんなんだこの猫は…?」
「にゅあ!」
猫が建物の前に座り込み若者は顔を上げる。
「あ!冒険者ギルド本部!ここだ!」
若者が再び猫の方を見ると、もう役目を果たしたと言わんばかりに、テクテクと離れていく。
「…まじでなんなんだ…」
若者はギルド本部に入ると、今まで拠点としていたギルドとは大違いだった。
数あるカウンター、推奨ランクを見間違えないよう細かく分けてある依頼掲示場、さらに酒場も併設されているのか、大勢の冒険者が各々の時を過ごしている。そこには、人間を始め、エルフ、ドワーフ、獣人、竜人、魔族、精霊など、この世の種族が皆いるのではというほど様々な冒険者がいた。
「すげぇ…これが本部か…」
若者もカウンターに並ぶと、ひとつ前のエルフの男性に話しかけられる。
「君、猫に案内されてただろう」
「え、そうですけど…王都には随分と賢い猫もいるもんだな!」
「ぷっ…」
エルフの男性は笑いをこらえていた。周りの冒険者もそれぞれ、面白そうな目、懐かしむ目、憐れむ目で若者を見る。
「え?なんだよ急に?」
「いや、急にすまない。王都初めてなら今日は祭りだ。楽しんでから帰るといいさ、まぁ宿取るのが難しいだろうがな」
「げぇ!そうだ!宿も取らないと」
若者が考え込んでいる間に、順番が来る。
「あー宿ですかぁ…祭にたまたま来れたのは運がいいかもしれませんが、そういう意味では大変かもしれませんね…」
「そこをなんとか!なんかこう、安くておすすめの場所なんて無いですか?」
「どうかされましたか?」
長髪のスレンダーな女性が現れる。
「あ、サブマスター!こちらの方が宿が無くて困っているみたいなのですが…」
サブマスター、と呼ばれた女性はメガネをくいっと上げ、申し訳なさそうな顔をする。
「いつもなら宿舎を貸し出すのですが、祭の期間は貸し出していない決まりでして。何とか自分で探していただくことになります。申し訳ありません」
「いやいや!何とか探してみるよ!」
そう言って、手続きを済ませた若者はさっそく宿を片っ端からあたるが、当然のように大通りの道沿いの宿は埋まっている。
「にゃ?」
途方に暮れている若者の前に、あの猫が現れる。
「あ、お前は…」
若者がしゃがみ込み撫でると、猫は気持ちよさそうに目を細める。
「お前は良いなぁ」
「にゃ?」
猫が若者を見上げ首を傾げる。まるで何かあったのか、と聞くように。
「いやさ、宿が見つからないんだよ。と言っても高級宿には泊まれねぇし…はぁ、どうすっかなぁ。あ、悪いな。こんなこと言っても分からないよな」
「…にゃ!」
猫がまた少し離れて道を進み振り返る。
「は?…もしかして…?」
若者は再び猫についていく。
大通りから外れ、子供の声がよく聞こえる広場を通りとある建物で猫が止まる。
「え?宿か、まさか…?」
たまたま建物から若い女性が出てくる。
「あ!もしかしてお客様ですか?なら一部屋余ってますよ?」
「マジか!借ります!」
「はーい!中で手続きしましょうね。あ!もしかして猫さん客呼んできてくれた?」
女性に撫でられ、ゴロゴロと喉を鳴らす猫。
「ふふ、ならちゃんとお礼上げないとね!あ、お客様!どうぞ!」
案内されるがまま中に入る若者はカウンターにてキーを貰う。
「いや、マジ助かった…お前すごいな。言葉分かるんだな」
女性からジャーキーを貰って噛り付いてる猫にしゃべりかける。
「…あれ、お客様、この子が誰なのか知らないんですか?」
「え?あぁ、俺は王都初めてだから」
「あーなら仕方ないかなぁ」
いろんな人に「猫を知らないのか」と言われ不安になってきた若者。
「その…有名なの?」
「そうね、めちゃくちゃ有名ね。少なくとも王都に住んでるなら、みんな知ってるんじゃないかしら」
「そ、そんなにか!?」
ジャーキーを食べ終わり前足を舐めている猫を見る若者。どこからどう見てもただの猫である。
「えーと、お客様は冒険者?だとしたら余計に知っておいた方が…」
「にゃふ」
猫は欠伸をすると、スタスタと出口へ歩いていく。
「あ、もう帰る?」
女性が扉を開けてやると、礼を言うように一声鳴いて、猫は立ち去っていく。
「…あの…王都ではあんな猫は…」
「私が知る限り、一匹しかいない、かな?まぁ!いいでしょ!ほらお客さん!荷物をさっさと置いてお祭りに行ったら?」
「…それもそうか」
何か納得いかないが、日が暮れてきた今、祭はさらに賑やかになっている。
若者も荷物を部屋に置くと、露店巡りのために大通りへ歩いていく。
「本当に人が多いな!迷わないようにしねぇと!」
そんなことを言いながら若者は露店を眺めている。
肉串や、シチュー、エール、アクセサリーや怪しげな魔道具、様々な具材などがある中でも何やら多いものがあった。
「猫クッキーあるよ!」
「猫モチーフのアクセサリー!揃ってるぜ!」
「猫の…」
「猫…」
「猫多いな!?」
王都では猫を崇めているのだろうか、というほど猫を象った何かが多い。
しかもまぁまぁ売れてる。しかし、旅人に売れているというより、王都の住人っぽい人達に売れているようであった。
「猫と言えば…」
若者の頭に思い浮かぶ猫は、ギルドに案内して、さらに若者のために空いている宿まで案内したあの猫だ。
「なんだとてめぇ!」
「やんのかこら!!」
突然の男性同士の怒鳴り声が響く。と言っても祭につきものなのか、見物してる人も多い。
「おいおい、良いのかよあれ…」
今まさに殴り合いの喧嘩が始まりそうなその瞬間、黒い何かが、男性の脛にぶつかると、反転してもう一人の男性の顔にタックルを決めて、あっという間に二人は地面に沈む。
「は?…あ、あいつ!」
「にゃ!にゃ!」
あの猫が、二人の男性を叱り飛ばすように猫パンチをぺしぺしと繰り返してる。
「さっすがギルマス!」
若者は耳を疑った。
「は?ぎるます?」
「おいおい。お前知らないのかよ!あそこにいるのは…」
猫はやれやれといった雰囲気で周囲を見る。
「ギルドマスター!もう、急に走り出さないでください」
そこに現れたのはギルドで会ったサブマスター。
「もう、危ないから、ではありません」
サブマスターは猫を抱きかかえると、若者に気が付いた。
「あ、あなたは先ほどの…宿は見つかりましたでしょうか」
「にゃ、にゃ」
「え?あ、もう案内したんですね。」
「え?わかるんですか?今ので?」
「まぁ、大体は。あ、自己紹介がまだでしたね」
猫を若者に見せるように持ち上げる。
「私は冒険者ギルド本部サブマスターリンナ、この猫は…」
―冒険者ギルド本部ギルドマスターにして、グランドマスター、です―
モブですらない普通の薬屋のはずを読んでくださっている皆様。初めて来てくださった皆様。今作を読んでくださりありがとうございます。
今作はオムニバス形式かつ、不定期更新になります。
それでも良ければ続きをお楽しみに待っていてください。




