05_変事だョ!全員集合
まて。
何が起こっている?何故。一体何が。
助けるのか。逃げるのか。どうやって?
「ふふふ…、ふふ、ふふふふ…」
落ち着け。戦いの師匠、マムの声が脳裏に響く。
優先順位。彼女の無事。自分の生命。良し。
障害。ジガバチ1、ヤマムシ2。良し。
武器。文字通りの素裸…だが装備まで、五歩。
ここからは、反応と判断速度が命綱だ。
ジガバチは尾部からの正確だが単発の狙撃発砲機構があり、ヤマムシは鈍重だが頑丈な身体で纏わりついての行動制限、至近距離での刃状の両腕を主な攻撃方法としている。
飛び道具はジガバチのみ。発砲直前に、必ず反動制御のための空中体勢固定の動きがあるはず。
まだ。
…まだだ…
…今だ!
発砲音。横に一気に跳んで、正確な銃撃を辛くも躱す。倒れ転がるようにランチャーを拾い、軍手をひとつ口で咥える。
その勢いのまま、次いで柱の遮蔽へ。次弾を防いだ柱が、衝撃に揺れた。
残弾を確認しつつ、口を使って軍手を嵌める。
運良く一発、挿れたままだ。息を吸い、吐く。
人がレギオンに操られるなど聞いたこともない。
ましてや三体とも珍しいタイプですらない…
…いや。悩むのは、生き延びてからだ。
階段は逆側。砂漠へ飛び降りるには高すぎる。
床を破って逃れるのは、不確定要素が高い。
…床。鉄の配管が朽ちて転がっている。
悩んでいる暇はない。唯一の道は、
「あらぁ、かくれんぼかしら?」
柱の陰から飛び出した。ど真ん中真正面。
浴槽だ。
水中に、残り一発の榴弾を叩き込む。
爆音。白煙、次いで叩きつける雨のような雫。
蒸発した高温の水蒸気、巻き上げられた水が、音が、無形の障害物として敵と自分の間に満ちた。
光も、熱も、どのセンサーも狂わす大気の壁。
しかし半ば屋外、有効なのは僅か数秒間、だが。
…三秒あれば、充分!
ダッシュ。羽音を頼りに最大の脅威であるジガバチに最高速度で駆け寄り、その勢いも乗せたまま、
「……!」
床に落ちていた鉄パイプで、掬い上げるような無心のフルスイングを打ち抜いた。
快音。真芯を捉えた、我ながら会心の一発。
軍手のグリップと握力あってこそだ。
高速で動く脆い羽根は、鉄塊との接触で自壊。
本体はビルの屋上から一瞬で外へと弾き飛び、
そのまま放物線を描き、漆黒の砂漠に消えた。
あと二体、
…!
振り向いた瞬間、いつの間にか忍び寄っていた一体が内股に絡みつき、思わずバランスを崩した。
倒れたところへもう一体が胸元に伸し掛かる。
「あれえ、もう終わり?しかたがないなあ」
ヤマムシの刃状の両腕が、喉元に迫る。
「来世でまた、お会いしましょうね」
くそ、動けな…!
そのとき。
大きな脚が、勢いよくヤマムシを蹴り飛ばした。
「!」
大丈夫かと言わんばかりに、首を擦付けてくる。
見慣れた羽根。相棒。ミコ。
なぜ。どうやって。安堵と混乱のさなか、
「いいぞ駝鳥君!いやラクダ君!そのままご主人と共に戦いたまえ!」
朗々たる声が、屋上に響き渡った。
入口の扉を開けた形で、一人の男が立っていた。
「はーーっはっは!僕が来たぞ!」
誰だ。
正気を失ったメリですら、勢いに呑まれたように闖入者を見つめている。
エネではない。
裸の女二人と、派手な男一人。立ち尽くす。
混乱は、更に深まった。
「君、ナイスホームランだった!そしてこんなに堂々と女湯に入れる日が来るとはな!なんという眼福だ、眼が心地良い!」
「ちょっ、ボス、あれレギオンじゃないっすか!?ひぃ~!」
後ろにいたもう一人の男が、腰が抜けたように逃げ出そうとする。
「こら!丸腰の女の子が戦っているというのに、君はどこへ行く気だ!」
家来らしく王の囮になり給え、と無茶を叫んで尻を蹴る。
華美だが整った衣服、そしてそれ以上に整った彫像のような美しい顔。流れる絹のような金髪。
怖気が震うような美形だった。
「君の肉体は実にしなやかで美しい!ひとつの完成形だ!それを一糸まとわぬ姿で拝めるとは!」
発言は変態で行動は狂気だが。
全裸ではない。軍手はしているだろ。
「お兄さんも、遊んでくれるの?」
メリの意識が、新たな獲物を捉える。
「一体はこちらで引き受けよう。こいつらを停止させるか圏外に出せば、彼女は止まるよ」
言うなり両拳を構える。…素手でやる気か?
複雑な軌道を舞い、ヤマムシが迫る。存在自体が冗談のような男は、繰り出される刃の軌跡を最低限の動きですべて華麗に躱し続ける。
「そうら、王様パンチ!」
カウンター気味に、一撃を当てて見せまでする。
見惚れている場合ではない。ミコトに騎乗し、もう一体を探す。居た。
ミコトの両翼の機銃が火を吹く。月下の薄暗闇を火花が散発的に照らす。
ミコがいれば、小型のレギオンなど敵ではない。
…これで。
「終わりだ!」
銃弾の嵐が、虫の身体をバラバラに吹き飛ばす。
金属を仕込んでいるらしい革靴が、頭部を砕く。
二体のレギオンが鉄クズに変わった瞬間。
メリの身体は力を失い、その場に倒れ伏した。




