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01_機械の獣と戦ってたら謎の狩人が助けてくれた件


「『法律』って、なに?」

マムにそう聞いたのは、いつのことだったか。


来る日も来る日も貨物を運び、次々に襲い来るレギオンを撃滅し。

武装し、徒党を組み、荒野を爆走し、集落から集落へとコンテナを運ぶ大商船団フリゲート

あらゆる物資不足に喘ぐ村々の救世主といわれ、その巨大な体躯は素手でレギオンを打ち倒すとも噂されたファミリーのボス、鋼のヘヴィ・マム…にして、その唐突な質問の回答は少しの時間を要したのだった。


「皆で」

少し考えたのち、マムが応える。

「皆で守るべきと決めたルール。例えば」

盗まない、無闇に殺さない、約束は守る。

「仁義のこと?掟のこと?」

「どちらとも少し違う。法律ってのは」


国家と、秩序。

生きるために殺し合わなくて済むその概念を、思えばそのとき初めて知った。

そのときマムの力強い指先が書いてくれた数々の言葉は、いつも心の中にある。

罪。罰。裁き。治安。平和。


だがそれらは現実世界では、全て架空のものだ。

崖の上。純白の軍手の先に広がる澄んだ空から、革のブーツの先の乾いた大地に視線を落とす。


歪み、捻れ、魔物が彷徨く、廃墟の荒野。


ーー国家などもう、どこにも存在しない。



※※※



崖上から遠巻きに眺めていた砂塵が、動く。

砂漠の上。二人乗りのオートが、一体の中型レギオンと戦っている。


叩きつける右の爪撃。…回避。反撃。


後部席の射手がそれなりに銃弾を当ててはいるのだが、口径が小さいためか、レギオンの鋼の外皮に有意なダメージとなってはいないようだ。

運転手の方は回避に手一杯で武器が遊んでいる。


ーーそろそろ、頃合いか。


日除けの白フードを上げて視界を確保。手綱を引き寄せ、相棒の背に飛び乗る。待っていた、とばかりに相棒が軽く嘶く。

武器に手を伸ばし、一気に崖を駆け下りた。


「あっち!誰か来た!」

「何だ?崖から…ラクダ?!」


男の二人組と思っていたが、違ったようだ。

得物を軽く頭上に振り回す。レギオンの人工知能がそれをどう捉えるかは分からないが、オートの二人は味方と認識したのが判った。


力強く砂を蹴る相棒の二脚に揺られ、みるみるうちに巨体との距離が詰まる。

ランチャーに弾を装填。すれ違いざま、発射。


放った弾は至近直撃で、頭部に命中した。

鮮やかな塗料が大トカゲの頭を斑に染める。


「塗装弾?…目をやったつもりか?ダメだ、奴等はセンサーで!」

オート乗りの声は無視し、次弾の通常爆裂弾を装填。発射。

「」

疾駆でも安定した騎上でぽんぽんと彼の首を叩くと、心得たとばかりに相棒ーーミコトが応えた。

その左右の羽根の下から、機関砲が姿を現す。

オートの二人は息を飲み、見つめている。


敵。身長は人の二倍、体積十倍程度という所か。

狙いが容易くて、助かる。


トカゲを思わせる奇怪な容姿の中型レギオン、その足関節を狙い、グレネードと機関砲の集中砲火を浴びせかけた。


破砕の爆裂音が、両耳を叩き去る。

鉄が鉄を穿つ轟音の連撃が、遮るものなく砂漠に響き、高鳴る鼓動のように身体を高揚させる。

怪物が、咆哮する。


(左。右、フェイント。また左)


慌ただしく流れる視界。

装填。撃つ。装填。少し遠いーー撃つ。

緩い放物線を描いて、榴弾が弾着、破砕する。


次。

次。

絶え間なく畳み掛けた銃砲撃に、異形の装甲が、次いで精緻な関節機構が弾ける。

異質な音。自重の負担がその傷を押し拡げ、不可逆の歪みが発生し始めた。

苦し紛れか首の根付近の粗雑な銃口が蠢き、不吉な乾いた連続音が唸る。

しかし私が指示する必要もなく、相棒の両脚はその死角へ死角へと移動し銃撃を躱していた。

足元後方の砂が虚しく弾け飛ぶ。


「…!」

背面へ回りこんだ瞬間、巨大な尾が動いた。


暴力的な風切音と同時に振り下ろされたそれは、相棒が余裕を持って避けてくれる。

地をも揺らしたその一撃は、逆に自身のバランスを致命的に乱した。

咆哮。ダウン。舞い上がる砂煙。そしてーー


静寂。


「…は?」

「…消えていく…?何?」


ダメージが一定を超えたレギオンは、固有の特殊な機構を発動することがある。オートの二人は、それすら知らないようだ。

「………」

数秒で、巨体は背景と完全な一体化を果たした。


不可視の殺意と、凶器。経験の少ない者ならばここで逃すか、悔いながらの死かの二択になる。


だが私と相棒は、素人ではない。


構わず、初撃の塗装着弾部分ーーそこだけが浮いているーーに銃撃と砲撃とを集中させる。

暴風のような銃撃に晒され傷つき、貫通弾に穿孔されるたびに、見えない全身が大きく震える。

やがて透明化を解かれ再び眼前に現れた巨躯に、もはや抵抗する力はない。


程なくしてその中型レギオンは、轟音と共に、砂上に歪んだ巨体を横たえた。


終了。

砂塵が少しだけ巻き、すぐに流れて消え去った。

私は砂塵避けのマスクを少し下げ、息をついた。




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