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嘘――守るための、さようなら  作者: 福 萬作
シルビナ編:表裏一体世界

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24/25

Obsession


「僕と、結婚して欲しい」


 ――したのに!!


 気付かないフリをしたのに!!


 なのに、あの男はバカなの!?


 事もあろうに、あの男は堂々と求婚してきたじゃない!!


 普通の女だったら、一度貴族と付き合ったら食らい付かんばかりに別れようとしないものよ?


 だけどあたしは自分の立場をわかってるから、何もなかったことにして終わらせてあげようとしたのに!!


 ――『商売女に本気になっちゃってバカじゃないの』って嗤ってやるのがいつものあたし。


 だから、そうしてやれば良かったのよ。しがみつかれても引き剥がしてさっさと立ち去れば良かったの。


 ――なのに、できなかった。


 頭が真っ白になっちゃった。だからつい、


「……あたしでいいの? 平民だし、酒場の女よ?」


 ……なんて、確認しちゃった。 


 めちゃくちゃ良い男なのに、その利点を一切使いこなせない男。

 

 真っ赤な顔で、あれこれ言葉を尽くして求婚してくるエルを見ていたら、胸の奥が、ぎゅっと掴まれたみたいに痛んだ。

 

 だって、この人は何も知らない。 

 あたしは望まれない子供(犯されて出来た子供)で、汚い血(盗賊の血)を引いていて、どれだけ嘘と罪を重ねてきた(この手を汚してきた)のか。


 あたしは選ばれる側の人間じゃない。


 選ばれていい人間でもない。


 それなのに、この男はあたしの過去を聞きもしないで、あたしを求めている。

 

 ホント、意味がわからない。

 あたしと、あたしが殺した盗賊の関係とか普通気になるものでしょ?

 なのに全く聞いてこないんだから……もしかしたら、偶然死んだとでも思ってるのかしらね?

 

 ホント、見た目に魅力が集中されてて、おつむの方はてんで弱いんだから……。


 でも、そんなエルだからこそついつい構いたくなって、可愛がってあげたくなっちゃうのよね。


 ――ええ、ええ、そうよ。

 

 あたしは、あたしを真っ直ぐに見てくれるエルのことを愛しているわ。


 離れる決断をした時は苦しかった。

 

 でも、エルがあたしのことを考えて結婚を申し込んでくれたのは、ホントに、凄く、嬉しかったの。


 でも――この人は、あたしが「はい」と言った瞬間から始まる地獄を、まだ知らない。

 

 貴族の妻として生活のことじゃない。


 あたしにはどう足掻いても、誰にも言えない忌まわしい過去が付きまとう。 

 それが、これからの人生で影を落とすことになるかもしれない。

 ふとした瞬間に思い出して、恐怖に苛まれるかもしれない。

 もしかしたら、あたしを知る誰かがまた現れて、幸せな生活を崩壊させようとするかもしれない。

 

 でも――その過去があるからお嬢様(シルビナ)息子(クロード)と出会えたし、子供連れの女二人が、この国で生きていくことができたのよね。


 少しは感謝するべきなのかもしれないわね。まあ、思い出したくはないけど。


 エルと婚約したことを伝えると、ルビーは自分のことのように喜んでくれた。一瞬、寂しそうな顔をしたのは勿論気付いていたわ。


 あたしがルビーの幸せを願ったように、ルビーもあたしの幸せを願ってくれた。言わなくてもわかるわ。


 だって、二人きりの姉妹だもの。

 

 エルと求婚を受けたということは、愛する二人と離れることを意味する。


 それは想像するだけで心が引き裂かれんばかりの苦しさだ。

 

 でも、もう、ルビーには守ってくれる人がいる。四人で、新たな家庭を築いていく。その中にあたしが入ることはできない。

 

 離れるのは切っ掛けが出来たのは調度良かった。きっと、そういう運命だったのよね。


 ――ああ、エル。

 エルはきっと、幸せな生活を夢見ていることでしょう。

 

 あたしの指に嵌められた、エルとお揃いのダイヤの指輪。


 美しいそれは、冷たい枷のように見えるのはあたしの心が汚れているから。


 でも、枷でもいい。重りでもいいの。

 

 むしろ、それを着けることでエルと一緒にいれるなら喜んで着ける。


 そう思えるほど、いつのまにか、あたしはエルの隣にいることを望んでしまっていた。


 真っ直ぐに見つめる情熱的な瞳を、あたしだけに向けてほしい――それは、確かに叶っていた。


 ――なのに、まさか――


『今、歌っていたのは君か?』

『今の歌は君が歌っていたのか?』

『答えろ、君なのか!?』

『そんな、まさか、じゃあ、君は……!!』


 歌詞の無い、短い旋律。

 そのか細い線が、消えかけていた点と点を繋いだ。


 シルビナが『アリシア』で、エルの『いなくなった奥さん』で、『初恋の女性』だと、エルに気付かせてしまった。


 エルの瞳が、シルビナを捉えていた。

 エルの手が、シルビナの手を掴んでいた。


 ――それだけなのに、どうしようもない嫉妬を感じて。


 頭に血が上って――あたしは、エルを噴水に突き落とした。


 ここでルビーを狙わない辺り、あたしの中ではエルよりルビーの方がちょっと愛情が大きいみたいなのよね。再確認できて良かったわ。

 

『もう二度と、ここへ来ても、あの男と会ってもいけない。……あたしが、絶対会わせないようにするから』


 訳がわからないと目を白黒させる二人を馬車に押し込んで告げた言葉は本心。


 エルはもう、あたしのもの。 

 

 

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