第6話 報告書 No.77 / 帝都ヴェルゼグラード
帝国首都ヴェルゼグラード――その中央塔に聳え立つ、漆黒の螺旋宮。
帝国治安局・本局最上階、円形会議室にて、ゼルヴァ・エインは一枚の報告書を机に置いた。
「――以上、南部辺境“グラント村”における魔物襲撃と、その収束に関する報告だ」
淡々とした口調。それを囲むのは、漆黒の法衣を纏った魔導官クラリス・フェルドと、冷酷な戦鎧に身を包んだ将軍グラン・ドマス。
奥の玉座には、帝国皇帝――マグナ・ヴァルツ三世が無言で座している。
クラリスが目を細め、書類に目を落とす。
「ふむ……魔物の襲撃。それ自体は想定範囲。だが――」
彼女は一つの箇所に指を置いた。
「“自然干渉型の旧術式が使用された痕跡あり”……これは、どういうことかしら?」
ゼルヴァは目を細めた。
「一人の少年。外部から流れ着いた者。彼の体に、旧支配者由来の魔力の痕跡を確認しました」
「ほぅ……それは“我らの敵”の匂いだな」
グラン・ドマスが鼻を鳴らす。
「抹消対象か?」
クラリスが問うた。
だが、ゼルヴァは小さく首を振った。
「……確証はない。あくまで、“兆候”だ。村の構造も、保護者を名乗る女も怪しい。だが、今は泳がせるべきだと判断した」
「……あの少年の背後に旧支配者がいると?」
皇帝マグナが初めて口を開く。その声は、鉄と硝子を擦り合わせたように冷たい。
「可能性はあります、陛下。しかも……」
ゼルヴァは一歩踏み出すと、低く頭を垂れた。
「“あの女神”の加護と思しき波長も、微弱ながら確認されました」
沈黙が室内を満たした。
クラリスの顔から微笑が消え、グラン・ドマスが不機嫌そうに指を鳴らす。
マグナは立ち上がると、玉座の背後に飾られた“新支配者の紋章”に手をかざした。
「テラ……あの旧き女神が、未だ生きていたと?」
皇帝の瞳が、ぞっとするほど細くなった。
「ゼルヴァ・エイン。お前に次の任を与える」
「御意」
「“その少年”と“保護者の女”を監視せよ。証拠を掴め。もし旧支配者の再臨を示すものならば……」
「――即時、処分だ」
「了解。次回は“狩猟隊”の名のもとに、より強硬な手段を講じます」
「よかろう。帝国の意思に背く者は、例外なく――塵と化す」
その声と共に、会議室の灯りが全て消える。
帝国という名の“怪物”が、ゆっくりとその牙を向け始めていた。