第16話 記録に刻まれしもう一人の名
屋敷に入り、客室で待っているとヴァルトが沢山の書類を持ってきた。
「さあ遠慮なく見てくれ、第一次聖戦・第二次聖戦や旧支配者、新支配者の書類だ!」
渡された書類や資料を見てみると様々な事が書いてあった。
リュミエールという神の事、帝国がなぜここまで勢力を伸ばしたのか。
そして俺はある資料を見て、目を疑った。
「……ある一人の男が帝国の力を助長させ、旧支配者の討伐に成功した」
「その男の名前は東雲 一希……」
そう、異世界や中世などのよくある名前ではなく。
我々日本人にとってはよくある名前。
「な……なぁテラ、もしかして俺がこの世界に来る前に別の奴も転生してたのか?」
恐る恐る聞くとテラはゆっくりと今までの口調は忘れたかのように話した。
「ええ、新支配者が用意した男です。彼のせいで私達旧支配者は次から次へと封印や信者を殺されていきました」
俺は声が出なかった。
「この男は第7師団、つまり帝国軍のエリートと呼ばれていた師団を率いてたの」
「そして彼らを裏から動かしていたのは新支配者の神、”リュミエール”よ」
リュミエールという言葉がでた瞬間、テラの表情は苦虫を潰したような表情であった。
「他にも協力者がいた。東雲一希もだけれど近接戦で負けたことが無いダガン、そして一希のサポート役であり副官のミレリア。彼らも新支配者の信奉者だったので」
俺は唖然とした。
俺の他に異世界へ転生した者がいたという事が。
その男が悪に加担していたという事に。
頭が混乱しているとヴァルトは落ち着いた声で話し始めた。
「確か第二次聖戦だったかな。あの戦いでワシたちヴァルト族は第7師団と戦ったことがあるんじゃ」
皆が静かに聞く。
「彼らは勇敢であった。あるものは魔法を使い、ある者は近接武器を使い、そしてある者は不思議な兵器を使っておった」
「我らヴァルト族は勇敢に戦ったがまさかあの結果になるとはな」
最初は落ち着いた声だったヴァルトは段々と振るえた声になっていった。
「なあ、ヴァルトさん。その東雲 一希って奴は今も生きてるのか?」
「いや、分からぬ。戦争が終わった瞬間第7師団は解体され、兵士達は散り散りになった」
「しかしそいつの書類はある。これだ」
渡された書類には東雲 一希についての情報が書いてあった。
身長、体重、そして使っている武器。
何より驚いたのは彼は元自衛隊だったという。
俺は何処かやるせない気持ちが込み上がった。
同じ日本人として、同じ転生者として。どうしてそういう選択をしてしまったのか。
そうして悩んでいると後ろからテラに抱きしめられた。
「我が子よ、同じ同胞として思うところは分かります。しかし貴方が悩むことではありません」
心が浄化されるような優しい声で耳元に語りかける。
「彼が間違えた道、世界線をこれから正すのが我々の使命なのですよ」
そう言われた俺は耐えられず涙を流し謝った。
「本当にごめん、本当に……ごめん……」
テラは無言で抱きしめた。
周りはとても静かだった。
「……では私は少し娘と話してきますかな」
そういいヴァルトとはシオンを連れて行った。
「では私達も少し庭の散歩に言ってきましょうか」
リリアとセバスはローデンの案内と共に外へでた。
多分皆俺のことを気遣ってくれてるのだろう。本当に申し訳無さが出てしまう。
「ねえハルト……」
テラから消えそうな声で囁かれた。
「少し昔話をしてもいいかしら?」
俺は静かに頷いた。
はい、私の別作品の世界線と繋がっているのでもし分からない方がいればぜひ見てください!
【元自衛官が異世界で軍を任された件について 】で分かります!
※次回は聖戦についての話を書いていきます