第9話 旧神の神殿と、倒れてた弓少女(と、刺される俺)
神殿の内部は、外観からは想像できないほど神聖な空間だった。
ひび割れた大理石の床の先には、古の祭壇。
中央には、大きな魔方陣が淡く光を放ち――その中央に、小さな光の塊が静かに浮かんでいた。
「……あれは?」
ハルトが声を漏らす。
テラは足を止め、その光をじっと見つめた。
やがて静かに口を開く。
「……あれは、私の“かつての分身体”ですわ」
「えっ? じゃあ、あれって……」
「はい。第二次聖戦の時に、この地に置いていった“私の一部”。
ここでの守護を担わせていたのですが……どうやら力を失い、眠っていたようですね」
光の塊が微かに震えた。
テラの呼びかけに応えるように、魔方陣が一際強く輝く。
「これを吸収すると……どうなるんだ?」
「……少し、成長しますわ♡」
にこやかに微笑むテラ。
「それって、もしかして……ロリじゃなくなるの……!?」
ハルトがちょっと寂しそうな顔で尋ねると、リリアとシオンが同時にジト目を向けた。
「ど、どんな感情なんですか……」
「……変態です」
「うるせぇよ!!」
テラが一歩前に進み、光へと手を伸ばす。
その瞬間、空間がきらめき、光が彼女の体へと吸い込まれていった。
「……っ、ぅ……!」
テラの体が包まれるように輝き、ふわりと浮かび上がる。
その姿が、少しずつ変化していった。
小さな身体はすらりと伸び、
胸元はややふっくらとし、
髪は伸びて風になびくようになり――
女神らしい、神秘的で成熟した美しさを帯びた姿へと変わった。
「……っ、終わりましたわ」
その声も、どこか艶やかで、どこか寂しげ。
「テラ……?」
「ふふ……どうかしら? 少しは“母親らしく”見えるかしら?」
優しく微笑むその姿に、ハルトは思わず見惚れる。
「めちゃくちゃ綺麗だぞ……」
「ん……ありがと♡」
照れながらも、テラはそっとハルトの手を取った。
だが次の瞬間――
「……とはいえ、私の“お仕置きモード”は健在ですのよ?」
「えっ」
「えいっ♡」
バチン! と再び謎の光の刃がハルトの背中に突き刺さった。
「ぐはぁ!?なんでぇぇぇぇぇえええええ!?」
「……また“アレ”言いそうになってましたわよね?♡」
「いや言ってない!思っただけぇぇぇ!!」
シオンは無表情で呟いた。
「……やっぱり変態です」
こうして、テラは本来の力の一部を取り戻し、“母なる女神”としての片鱗を見せた。
その傍らには、彼女の変化に驚きつつも、新たな旅に挑もうとする仲間たちの姿があった。
旧支配者の封印を巡る旅は、始まったばかり――。