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そして、物語はつづく  作者: 矢月
【第一章】祝福の英雄と名も無き英雄たち
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【第8話】「イチからの出発地点」


俺に何のようだ、その問いに久瀬が答えることはない。ここに来たのは和羽から聞いたことによる好奇心、言ってしまえばこのことを聞かなければ行けなかったということになる。

何かあるとすれば自身が希望する隊が第一だったということ、第一は六部隊の中で一番、つまるところ最強だ。


(ん?一番つぇーってことは…)

「あんた、隊長最強なのか!」


部隊の頂点、それが隊長だ。

ならば一番強い部隊の隊長が最強なのは当たり前で、久瀬でも分かることだった。


「そうだ!俺が組織No.3にして最強の隊長だ!3度の飯より酒と煙草が好き、覚えとけよ!」


またしても豪快に笑う胡桃、その笑いは胡桃称という人物を作る要素の一つなのだろう。


「ふーん、まぁ用件があるのは白銀(こいつ)だけだろうけどな、俺達はあんたがどんな奴か気になっただけだ」

「そうか、お前名前は?」

「白銀雅です」

「白銀、俺に何か用があるのか」

「では単刀直入に言います、俺と、一戦交えてください。」


静かに、それでいて熱意の籠もった言葉。その言葉は騒がしかったロビーによく響き、全員が白銀に顔を向ける。


「お前…何言って……」

「俺は、強くなりたい。強くなる為の一番の方法は強いやつを倒すことだ。だからあんたがここに来たと知ったとき、俺は運が良いと思った。」

「………。」


胡桃は一息煙草を吸った後、今までの愉快な表情から一変し、真剣な表情へと変わった。その眼差しを向けられていない久瀬でさえ、一歩後退りした。


「断る。」

「っ、理由をお聞きしても」

「単純なことだ、お前と戦いたくないから。お前と戦うくらいならこいつの方がマシだ」

「はぁ?!俺?!てか久瀬颯斗な!」

「おぉ久瀬か、すまんすまん」

「そんなの納得できません!」

「じゃあ聞け、強くなりたいから強い奴と戦う?それは結構なことだ。だが俺はそんな強くなることに執着してドブみたいに濁りきった目をしてる奴と何てごめんだ。」

「俺はそんな目なんてしていない!」

「落ち着け、冷静になれ。お前がどんなものを持ってるかなんて俺は知らない。けどな、濁ったまま今を見たってなんも見えてこないぞ。お前は今日隊員になったばかりの新米だ、まだどこの部隊かすら決まっていないな、焦ることなんてない。」

「まぁそういうことだ、俺は帰る。」


白銀の頭に一度手を乗せると、胡桃は先程とは違う破顔一笑の表情を浮かべ帰って行った。反論出来ぬまま胡桃が去った後も、白銀は悔しそうに俯いていた。


─────

「おーしお前ら集まったなー」


翌日、今日は自身の仮所属先が発表される日だった。久瀬はこれから先への不安と希望、期待が入り混じった感情を持ちながら自身の所属先が発表されるのを待った。


「んじゃ次ー久瀬、」

「っ!はい!」

(うお心臓がぁぁあああ…!)

「お前の所属先は…第二部隊だな。」

「え、あっわっかりました…」

(あーあ、第一じゃなかったかぁ…第二ってどんなとこなんだよ)


白銀の方を見ればこちらは向いていないものの鼻で笑っている。


「次ぃー白銀ー」

「はい」

「お前の所属先は第二だな」

(しゃあああお疲れー!!…はぁああ?!こいつと一緒なのかよ!!)


白銀の驚いた顔が傑作だったので久瀬はしっかり顔を向けて笑ってやった。だが同時にいけ好かないやつと一緒なのかと気づき絶望した。

その後も発表は続き、和羽は希望していた第六に決まったようで目を輝かせ喜んでいた。


これが運命と呼べるなら、これは即ち偶然ではなく必然で、起こるべきことだったということ。

既に■■は動き出している。


「よーしこれで全員終わったな…っと、他のとこも終わったか。ついてこいお前ら、今から早速仮所属先に送る。」

「今から!?もう夜だぞ!!」


久瀬は弾けたように声を上げた。そう、今の時間帯は夜なのだ。

異怪神軍は主に六つの部隊で構成されており、それぞれに管轄区域が存在する。

第一部隊の管轄は「関トウ(かんとう)地方、チュウ部(ちゅうぶ)地方」

第二部隊の管轄は「北カイ道(ほっかいどう)地方、トウ北(とうほく)地方」

第三部隊の管轄は「近キ(きんき)地方」

第四部隊の管轄は「中ゴク(ちゅうごく)地方、四コク(しこく)地方」

第五部隊の管轄は「九しゅう(きゅうしゅう)地方」となっている。

第六部隊は主に「回復系統」の隊員で構成された非戦闘部隊な為、管轄を持つことはなく五部隊と共に存在している。

そして今いる場所はトウ京(とうきょう)だ。すぐに行ける場所ではない部隊もある。


「あー夜だが関係ねぇぞ。一分もかからず着く」

「一分も?!」


夜の飛行機やら電車やらで行くのかと思っていたがそんな発言のせいで砕け散り疑問だけが残った。


「どーどー、ついてきたら分かるからさっさと来い」

(どういうことだよ…白銀のやつは何か納得してるし…)


だがここでいちいち文句を言っていても仕方がない、久瀬は黙って他の同期達と隊員についていった。

相も変わらず何もない廊下を通ること数分、連れてこられたのは何の変哲もない一室の扉、隊員はその扉に手をかけ、一度に全員は入れないからと4、5人で来いと促した。始めたに入って行ったのは隊員の近くを歩いていた数人、久瀬はその次になりそうだった。

一分も経たないうちに扉が開く、姿は見えないものの隊員が入ってくるように言っている。久瀬は歩みだした他の4人に混じり歩き出す。その中には白銀も居た。

部屋に入ったとき、久瀬は理解した。何もない無機質な空間、そこにある深淵のように渦めいた六つの空間、これは第二次試験のときに見たものと同じだった。


「左から第一に繋がっている、第六は副隊長の元へと繋がってっから。ちゃんと行けるからビビらずさっさと行けー」

(この先が第二部隊…希望とは違ったがまぁ正直入れたらどこでもいい…早く母さんの手がかりを探さねぇーと!)


久瀬は先に入って行った白銀に続き空間に足を踏み入れた。


─────

瞑っていた目を開く、まず見えたのは本部ほどの大きさはさすがにないが中々のサイズの第二部隊の拠点と思われる建物だった。

次に目に入ったのは星々が光る空、その次は自身以外に先に来ていた隊員、そして最後は入口に立つ隊員、案内を任されているのだろう。


「他にも来るから、少し待っててね」


ざっと目をやれば50人程度の同期が居た。第二次試験のときに目立っていた白銀は、同期の間で有名になっていたのか人が集っていた。フル無視少年になっているが。

そこから待つこと十数分、開いていた空間が閉じる頃には久瀬の視界を埋め尽くすほどの同期が居た。100なんて数字じゃない、確実に300は居るだろう。


「うん、揃ったみたいだから副隊長の元へと案内するよ」

「隊長のもとではないのですか?」


どこからか疑問の声が上がった。


「君達はまだ隊長には会えないよ、それよりも早くついてきて、副隊長をいつまでも待たせるわけにはいかないから」


有無を言わさないその発言に、疑問を述べた隊員は反論することなく了承の返事をした。

4列の長い列を作り、偶然にも手前の方にいた為久瀬は白銀と共に最前列に並ばされた。

本部にあるような何もない廊下を歩き階段を上がる。そこからまた暫く歩いたところで案内役の隊員は足を止めた。


「君等はここで待っててくれ、これから副隊長をお呼びしてくるからくれぐれも失礼のないように!」


案内役の隊員は隊員を並ばせた後、そのまま副隊長の元へと駆け足で向かった。


「九操副隊長!新人の隊員を連れて参りました!」

「おお、分かった今行く」


一つ、また一つ足音が響く。その音でさえ、自分達とは違う品があった。壁の影から薄い水色混じりの白髪が顔を見せたのが久瀬の目に入った。


「お前達が今年うちに仮所属で来た新人達か、改めて自己紹介する、九操楓だ。」

「さてさっそくだがお前達にはこれから3ヶ月後の異神祭(いしんさい)を目標に任務を行ってもらう。異神祭を知らない奴が殆どだと思うから説明するぞ、良く聞け。」

「異神祭は新人隊員が3日間に渡って行う本所属を決定する行事だ、副隊長も隊長も集まるしお目にかかれば招待もあるかもな。」


【招待】それは隊長以上が行うことの出来るものである勧誘行為だ。滅多にされることがない為招待を貰うことは一種の名誉であるとされている。招待を貰うことは隊長に認識され、評価されていることだからだ。


「お前達は一時的にここに所属しているだけに過ぎない、だから3ヶ月後には見知った顔がいないことも当然ある。それと最後、第二は六部隊の中で一番人数が多い、それは管轄が広いからだ。だから…」


九操は威厳に満ちた表情を一変させ満面の笑みで言い放った。


「一番忙しい、手を抜いたやつからしばくから覚悟しろよ。以上、水戸(みと)、あとは頼んだ。」

「了解しました。」


新米隊員達は震え上がっている。

かくして久瀬の怒涛の日々が始まるのであった。




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