【第7話】「なんやかんやで入隊式」
「うん、皆んなきまってるよ!さて、始めようか」
台に手を付け、相変わらずの笑顔で鏡水は始まりを告げた。
「まずは改めて自己紹介だね、僕は異怪神軍総隊長の鏡水静だ、よろしく。次に皆んなも気になってる彼らの紹介だね、左から自己紹介よろしく!」
「まずは俺からやな、俺は第一部隊副隊長、下凪八重言います。おもろい奴と腕に自信のあるやつは是非うちを希望したらええわ、よろしく。」
左目に眼帯を付けている白銀の男、下凪はそう言った。喋り方からおそらく関サイ地方出身だろう。久瀬は鏡水とはまた違った笑みに胡散臭さを感じた。
「俺は第二部隊副隊長、九操楓だ、うちは管轄範囲が広いからな、誰でも歓迎するよ、よろしく。あぁそれとお疲れ様。」
─あ、絶対良い人だ。─
水色交じりの白髪の九操は優しい声で、それでいて威厳に満ちた表情で言った。
久瀬を含めその場にいた新隊員はほとんどが直感で良い人だと悟った。
「僕は第三部隊副隊長、雨水皴。特に言うことはないから、よろしくとだけ。」
薄い黄緑の髪をした雨水は淡々と告げた。ここまでで雨水の情報量は皆無に近いが何となく気難しい人なのかと久瀬は思った。
一人飛ばして鏡水の右にいる人物が立つ。
「私第四部隊副隊長、桃山千于と言います!皆さんどうぞよろしくお願いします!!」
名前の通り濃い桃色の髪をした桃山は、元気な声で言った。先程の雨水とは違いこちらは話しかけやすそうだと久瀬は安堵した。
「第五部隊副隊長、葉桜籠目です。よろしくお願いします。一つ、ふざける方は第五にはいりません、それが気に入らないなら別の部隊に入って下さい。」
黒よりの茶髪の長い髪を一つにまとめた葉桜は、いかにも真面目という感じがした。真面目で厳しい性格、それは久瀬が苦手とするタイプの一つだ。久瀬の性格上、そういうタイプとはそりが合わない。
「第六部隊副隊長、復先莢です。名前だけでも覚えて下さると嬉しいです。」
栗色の髪をした復先はそう言いながら微笑んだ。新隊員の何人かは心を射抜かれただろう。それに第六と言えば和羽が希望していた部隊だ。
そして最後なのだが…
(いや、どう見ても寝てんだろ)
空を仰ぎ鼻風船を膨らませている姿は誰がどう見ても寝ていた。
「いや〜ごめんね!でも許してあげて!彼今朝からずっと祝福発動しっぱなしだったから!まぁこいつはいつもこんな感じだけど」
ごめんごめんと全くそんな気持ちはなさそうに言っている組織のトップ。しかしそんなことはどうでもいい、気になるのは
(今朝から?!今はもう昼だぞ!!)
そう、祝福の使用時間の長さだ。祝福というのは長時間使用すればするほど疲労が増す、それは例え威力が弱くても蓄積されていく。俗にいう塵も積もれば山となる、だ。だから時間という単位が付くほど使用していれば使用中に倒れてもおかしくない。
格が違うやつはここでも格が違うのかと久瀬は納得した。
「因みにこいつは神喰妖、副総隊長だから!」
全員が納得した。
「よし!自己紹介も済んだことだし次にいこうか。」
「…諸君!入隊おめでとう!今日という日を誰一人欠けることなく迎い入れたこと、心から嬉しく思う。君達はこれから先、苦楽を共にする友であり仲間でありライバルでもある。年齢の差はあると思うけれど壁を感じず困ったときは互いに助け合い、支え合って欲しい。」
「さて、さっきの抜き打ち試験について話そうか。…異怪はいつ何処で現れるか分からない。異怪を倒すには個々の実力が必要だけれど君達はまだ弱い、だから仲間と協力すること、チームワークが大切になってくる。だからそれらを踏まえて抜き打ち試験なんだ。
だが実際、あれですら生易しい。なにせあのときは異怪の動きを止めていたからね、でも実戦ではそうはいかない、君達のことなんて待ってくれない。常に殺意を抱いて襲ってくる。」
「ぶっちゃけ言うとあのとき逃げ回ってくれても良かったんだけど第二次試験は合否を決めると共に君達の仮所属を決めるものでもあったんだ。
だから本当に逃げ回ってた奴は落とすつもりだったよ。戦場で逃げ腰の奴なんていらないからね。」
(こいつさらっとやべぇこと言ったぞ、ちゃんと戦っててよかったー!ナイス俺)
「けれども君達はそんな僕の想いを裏切り勇敢に戦ってくれた、これは称賛すべきことだ!」
「今から君達は異怪神軍の一員である!その名に恥じぬよう、そしてこの組織が誰によって成り立っているかをしっかり理解して日々に励んでくれ!」
─はい!─
一同が了承の返事をしたところで鏡水は満足したような表情をした。
─────
鏡水達が去った後、久瀬達は別室に移動させられた。
「明日仮所属が決まるからお前達は今日ここで過ごしてもらう。いいか、お前らはもう組織の一員だ、騒ぎなんて起こしたらしばくからな。で、何か質問ある奴いるか?今なら聞くぞ。」
誰も質問することがないのか辺りは静かだった。だがそこに少年の声が響いた。
「では一つ質問よろしいでしょうか」
「おお、何だ」
(またあいつかよ、何聞くんだ?)
声の正体はフル無視少年、白銀雅だった。
「先程の入隊式で気になっていたのですがあの場にいた8人、総隊長と副総隊長がいることには納得できます。しかし何故あとの6人は隊長ではなく副隊長なのでしょうか」
言われてみれば確かに、と久瀬はフル無視少年の言葉に納得した。あの場に隊長がいるのなら分かるが何故あえて副隊長がいたのか、それは久瀬にとっても他の者にとっても気になるところだった。
「あぁあれな、正直…俺もよくわかんねぇんだわ」
「どういうことでしょうか」
「そのまんまだよ、ま分かりやすく言うと知らされてない、だな。俺みたいなただの隊員じゃ理由すら教えてくれねーんだ。」
「そうですか、ありがとうございます。」
フル無視少年は口では感謝を述べながらも結局自身の疑問が晴れなかったことに不満を持っているようだった。
「ま、俺がタイミングミスっただけで普通に答えてくれるかもしんねーけど、そういうことは副隊長か隊長にでも聞いてみるといいさ。他に質問ある奴いるか?…………いねぇな、よし解散!」
「よーし、早速夕飯食いに行くかぁ」
12時などとっくに過ぎており時刻は6時手前まで来ていた。お昼は食べれなかったものの夕飯を食べるには丁度いい時間帯だと思い外に出ていこうとした。去り際に横目でフル無視少年を見たが女子に群がられている。何か聞かれているが当然のごとく無視をしている。それでも女子の声は止まらないのが癪に障った。
(けっ!イケメン君はあんな対応しててもモテるんですねー)
気に食わなかったので顔面を使って全力で煽ってやった俺は悪くない。
外に出るために入口に向かって歩いていると後ろから何やら聞き覚えのある声がした。知っているその声に久瀬は顔は青ざめた。
「久瀬君〜!待ってくださいよ〜!!」
「ちっ何だよ俺はお前と話すことなんてねぇ」
「そんな酷いこと言わないでください!私はあるんです!」
「くだらねぇことだったらぶっ飛ばすからな…」
「実はですね、噂なんですけどここに第一部隊の隊長が来てるらしいんです!」
「なっ?!それって「それは本当か」」
「!?」
後ろを振り返ると群がっていた女子を切り抜けたらしいフル無視少年がいた。
「君ってもしかしてあの氷の子…?」
「そうだが。」
「何しに来たんだよ」
「あぁ、先程俺を挑発してきたやつを叩きのめそうと追ってきたら丁度そいつらが気になる話をしていたからな。」
挑発してきたやつとは自分のことだと久瀬は焦りながら顔を反らした。見られていないという予想は外れ最悪の形で返ってきそうになっていたらしい。こればかりは和羽に感謝するしかないと心の中で久瀬はお礼を述べた。
「それで、ここに第一の隊長がいるというのは本当か」
「うん、でもあくまで噂なんですけどね」
「そうか、」
フル無視少年は一言告げると久瀬達の前を歩き出した。しかし白銀の動きはピタリと止まり次の瞬間背中から倒れ込んだ。久瀬がフル無視少年の足を引っ掛けたのだ。
「おい、なにするんだ!」
「何って、お前どうせ第一の隊長探しに行くんだろ、だったら俺も行く。」
「私も行きたいです!」
「はぁ?!なんでお前らを連れてかないといけないんだよ!」
「勘違いすんじゃねぇよ!俺は一緒に行くだけで連れて行ってもらうわけじゃねぇ!」
「ちっ好きにしろ」
「久瀬颯斗」
「あ?」
「俺の名前だよ」
「…はぁ…白銀雅だ」
「和羽鈴里と言います!」
「…ていうかどこ探すんだよ、俺達新人だろ、あんまうろうろしてたら怒られるんじゃねーのか」
「確かにそうですね…どうしましょうか」
今日隊員になったばかりの新米中の新米だ。それに加えここは本部、総隊長が居るところだ。下手に動いて立ち入り禁止区域に入ったり不審がられたりしてしまえば元も子もない。いきなり立ちはだかった難題に3人は頭を悩ませていた。
「あれ、お前らこんなとこで突っ立って何してんだ?」
「あんたは!……………誰だっけ?」
「いや会ったことねぇよ、瀬渡、第一所属の隊員だよ」
「第一の隊員…てことはやっぱ隊長来てんのか!」
「何、お前ら胡桃隊長に会いたいの?案内してやろうか?」
「いいんですか!」
「おー、もう用事は終わったらしいからな」
「なら、よろしくお願いします」
思わぬところで解決してしまった。偶然とはいえ本部の中で本部の隊員ではなく第一の隊員に出会ったことは幸先が良かった。
─────
案内されたのは正面入口から入ってすぐにある吹き抜けのロビーだった。やはり隊員が集まる場所なのか所々に本部所属と思われる隊員がいた。
「ほら、あそこにいるのが胡桃隊長だ、失礼のないようにな、でもまあ隊長の中では話しかけやすいぞ」
「ありがとうございます」
「あざっす」
「ありがとうございます!」
示された方を見るとそこには赤ベースの髪に前髪を左に流すように上げ、銀色のメッシュがいくつか入っている大柄な男がいた。そして手には煙草、煙をまとっている。案内してくれた隊員と隊服は異なるものの色が白と同じだった。だが本部の隊員は深い紺色ベースだった為部隊ごとに隊服は異なるのだろう、思い返せばあの6人の副隊長も違っていた。
「あの、あなたが第一の胡桃隊長ですか」
「ん?おぉそうだ!見かけない顔にしては本部の隊服だな、もしかしてお前ら今日入隊した新人か!」
「はい、そうです。白銀雅と申します。」
「俺は久瀬颯斗!」
「和羽鈴里です!」
「はっはっは!元気が良いなぁ!」
豪快に笑う男は聞いていた通り話しやすそうだった為、久瀬はますます第一に入りたくなった。
「俺は第一部隊隊長、胡桃称。何の用件だ」