表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そして、物語はつづく  作者: 矢月
【序章】第二幕の始まり
6/17

【第5話】「突然の出会い」


試験日の翌日、その日は休日だった為夕方からいつもの山へと久瀬は向かっていた。本当は朝から向かうつもりだったが昨日試験を終えたことで日頃の疲れが一気にきてしまい死んだように眠ってしまっていた。起きたときには驚いたがまぁこんな日もあっていいかと自身を納得させた。

山に着いた久瀬は、ふと足元に自分のものではない足跡があることに気づいた。その足跡を目で追えば先へと続いている。


(俺以外に誰が来てるのか?)


ここは近くで異怪の襲撃があった為人が寄り付いてこない、その為祝福の特訓には丁度いいスポットだったのであまり人にバレて欲しくはない。久瀬はそんなことを考えながら足元を辿り奥へと入って行った。 


(ん?あれは…女か?)


久瀬の目が捉えたのは見知らぬ制服を着た桃色の髪の少女であろう後ろ姿。ただ立っているだけで何もしていない。


「おいあんた、そこに突っ立って何してんだ?」

「え、ふぇえええええええ!!??わっ私ですか??何もしてませんよ!あと怪しい者じゃないですぅううううう!!」

「いやその発言が怪しさ満点だわ!!」

「ったく、急におっきい声出してびっく────」

(…こんな人気のない山奥で出会うなんて、もしかしてこの人………白馬、には乗ってないけど王子様?!今まで運命の人かもって思う人はいたけれど結局どれも違った…でも絶対!この人はそう!乙女の感が言ってるんだもの!)

「…あれ?あの、違ってたらごめんなさい。もしかして昨日、入隊試験の会場にいましたか?」

「え、いたけど…もしかしてあんたも?」

「はい!実は私もいたんです!」

(うわぁああああ!やっぱり運命だよこれ!!)

「あっあの!私、和羽鈴里(わうすずり)と言います!よかったらお名前!教えて頂けませんか?!」

「はぁ?!久瀬颯斗……だけど…」

「久瀬君ですね!あ、そうお呼びしてもいいですか?!」

「はぁ、好きにしろよ…」

「ありがとうございます!私のことは鈴里と呼んで下さい!」

「……てかあんた、ここで何してたんだ?」

「私ですか?実はお婆ちゃんの家がこの地方にあって、せっかくここに来たからと色々回ってたんです。それで偶々ここに来たら…見てください、ここに深くて大きな穴があるんです。それで何でだろうと思って…」


久瀬は和羽と言った少女が指を指した場所を見て冷や汗をかいた。何故ならその穴を作り出したのは久瀬自身だったからだ。改めて見ると中々酷い光景である。初めて祝福の特訓を始めた時、倒してしまった木々を見たときにこれは不味いと思い祝福を放つ対象を木から地面へと向けた。その日からずっと同じ場所に向けて祝福を放ち続けた為和羽が言っていたような穴が空いたのだ。


「あーそれ、俺がやったんだわ」

「久瀬君がですか?!」

「そ、ここで俺、最近祝福の特訓してんだわ。人が寄りつかねぇし、誰の所有地でもねぇから打ってつけなわけ。」

「なるほど…じゃあこの穴はずっとここに向けて祝福を撃っていたからなんですか?」

「そうだ。んじゃまぁ俺今から特訓始めるからさっさと帰れ」

「え!せっかくだし見ててもいいですか!?」

(こんなチャンス逃すはずないよ!!)

「いや無理、帰れ。」

「えー何でですか!お願いしますぅう!」 

「人がいると集中出来ねぇんだよ!」

「そこをなんとかぁああ〜〜!」


和羽は泣きながら久瀬に向かって飛び付き駄々を捏ね始めた。


「あ〜〜〜鬱陶しい!ガキかよ離せ!」

「じゃあ見てもいいですか!?」

「1回!1回だけな!1回見たら帰れよ!」

「!ありがとうざいます!!」

(くっそ…めっちゃ苦手だこいつ!こんな奴も入隊試験受けてたのかよ…)


初対面でこんなにずかずかと来れるなんて和羽のパーソナルスペースはどうなっているのか、久瀬には到底考えられなかった。ただ確実に言えるのは和羽とは合わないこと、たった十数分の出来事でそう思えてしまうほど和羽の性格は久瀬にとって苦手だった。例え和羽の様にずかずかと来るタイプが居たとして、久瀬が苦手と、合わないと思わない人が居ればそれはまた違ったベクトルだからだろう。

さらに残念なのが久瀬がこう思う一方で和羽は彼のことを好いている、ましては白馬の王子様などと思っていることだ。だが逆を言えば彼女の思いは砕けたということ。そもそも、和羽が久瀬に向ける感情が恋情なのかすら分からないが。

なんにせよ久瀬は和羽を苦手だと思うよりもさっさと見せて帰って欲しいと思っていた。


(うし…集中…!)


久瀬は自身の帆を両手で叩き気持ちを改めた。

いつもの様にイメージする、それはもう慣れたことであり1ヶ月ほど続けていれば造作もないことだった。久瀬ものの十数秒で自身を覆うほど渦めいた水を生み出し、そのまま地面に打ち付けた。その際衝撃で発生した水しぶきが体にかかってしまい久瀬は顔を引きつった。


「まっまぁ!もう見ただろ!ほら、さっさと帰れ!」

(くそ!いつもはこんな失敗しねーのに…絶対こいつがいたからだ…)


久瀬はいつにも増して不機嫌になりながら大きく悪態をついた。座り込んで少女の方を見る、和羽はじっと久瀬を見つめたままそこから動かない。

疑問に思いながらもそれを言葉にすることはなく、両者に無言の時間が流れた。しかしその沈黙を破ったのは和羽の方だった。


「あっあの…!」

「んだよ…てかお前いつ帰ん────」

「ちょっと失礼します!」


和羽は久瀬の手を取り自身の額に当てた。久瀬は驚きつつも何をするかという興味の方が勝ったので手を振りほどくことなく和羽の方を見た。

すると久瀬は目を見開いた。

久瀬の体から淡い桃色の光が溢れ出ていたのだ。しかし驚いたのはそれだけではない、


「体が…楽になってる…?」


先程祝福を使用したことにより体には多少の気怠さがあった。それはものの数分で回復するようなものではない。だが今はそれがなくなり祝福を使用する前と何ら変わりない状態になっていた。


「ふぅ、これで大丈夫だと思います!疲れは取れましたか?」

「あ、あぁ…ていうかお前今のって祝福か?」

「はい!先程の様に相手の手を取って私の額に当てると疲労が回復するんです!」

「回復系の祝福か…でもそれ、結構不便じゃねぇか?いちいちそれやらねぇと駄目なんだろ?」

「う…そうなんですよね、だからこの力を更に強くしてみんなの役に立ちたいので異怪神軍に入ろうと思ったんです!因みに第六部隊希望です!」

「第六部隊って言ったらあれか…回復系統のエキスパートだろ。ま、何はともあれサンキュー、助かった。」

「いえ、私のわがままの所為なんでこれくらいはお安い御用です!」

(お礼言われちゃった〜!やった甲斐が合ったよ!)

(にしてもこいつ…)


久瀬はチラリと和羽を見た。祝福を使った久瀬は多少の疲労と汗をかいていた、にもかかわらず和羽は疲労を感じさせるどころか汗すらかいていない。不本意だが自身よりもこの女の方が祝福を扱うのは上手いと久瀬は感心した。


「それじゃあ帰りますね、ありがとうございました!もしお互い合格してたら仲良くして下さい!

それでは!」


和羽はびしっと敬礼をしてから一礼したあと走ってその場を去っていった。


「やっと帰った…しっかし祝福ってのはあのおっさんがいった通りほんといろんなのがあるんだな」

「よし、体も元通りになったことだし特訓再開だーーー!!!」


ぐっと拳を握り空へと向け叫んだ。この叫びが聞こえたのは、おそらく和羽と飛び立っていったカラス以外に居ないだろう。


─────

試験終了日から3日後、遂にこの日は来た。

入隊が認められるかどうかの合否が分かる日だ。

久瀬は学校に遅れて行くと1本の電話をした後家を出た。


(遂に分かるのか…もし落ちてたらどーしよぉ…来年からやり直しとか…待ってられねーぞ!)


久瀬は落ち着くことの出来ない大きな不安を抱きながら役所へと向かっていった。

季節は春だがまだ始まったばかりなので肌寒い。それに高校生活が始まってまだ2週間も経っていない、それなのにもし合格していたら辞めなければならないなんて酷な話だと久瀬は思った。何故高校が始まる前に試験をしないのかと過去に思い調べてみたことがあったがどうやら異怪の関係で特定の日にすることは難しいらしい、その為試験日はその年その年で変わるらしくそれが今年はこの時期だったというわけだ。事情があるならこれ以上どうこう言うことも出来ない。久瀬は大きく溜息をつき足を速めた。おそらくこの溜息には不安と緊張が混じっているのだろう。


「つ、着いたぞ…頼む…受かっててくれ!」


役所に着いた久瀬は一度立ち止まり大きく深呼吸をしてから中に入った。


「あの、久瀬、で、す。届いてる…ますか?試験の結果」

「はい、お待ちしておりました。届いておりますよ、少々お待ち下さい」


対応してくれたのは古橋さんだった。表情から一瞬でも合否を読み取ろうとしたが以前と変わらずだった為結局読み取ることはできなかった。


「こちらが久瀬の合否通知になります。」

「あざっ…す」


手渡されたのは二つ折りにしてある1枚の白い紙。ここに、久瀬の運命が書いてある。


(頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む!合格しててくれ!!)


久瀬はここまできたらひとおもいにいこうと勢いよく紙を開けた。そこに書いてあったのは…


─厳正なる審査の結果、ここに"試験合格"をお知らせします。─


は?合格?不合格じゃなくて合格だよな?俺の見間違いじゃねぇよな??つまり、入隊出来るってことか?

頭が回らない久瀬はその紙を古橋へと見せた。


「おめでとうございます!頑張って下さいね」

「あ、アリガトウゴザイマス…」


古橋の一言で確信した。本当に合格したのだと、


「〜〜〜〜〜〜〜っよっしゃあああああああああ!!!」

「久瀬様、大声はお控えください。」

「あ、すっすんません」


久瀬は周りの目が自身に集まっていることに気づき焦りを覚えた。前にも1度、こういうことがあったような気がする。

再び紙に目をやり読み直す、やはり許可されている。


(やった!やったぞ!手の甲つねっても痛みがある、夢じゃねぇ!くぅ〜〜〜〜!!)


久瀬は思う存分その喜びを噛み締めた。

─────


「それでは久瀬様、改めて合格おめでとうございます。大変なこともあると思いますが挫けずに頑張って下さいね。では今から大事なお話をします。まずは異怪保障制度についてですね、久瀬様の合格が確定しましたのでこの制度が有効となるのは入隊日いっぱいまでとなります。つまり入隊式の日まではこの制度は無効になりません。次に学校についてですが中退して頂きます。理由はご存知かと思われますが組織に集中して貰うためですね、主な手続きはこちらで済ませますのでご了承ください。そして最後に入隊式は今日から1週間後となります。あとで他の書類と同時に詳しく詳細をお渡ししますので暫くお待ち下さい。」

「何か質問はございますか?」

「いえ、大丈夫です」

「では暫くお待ち下さい。」


久瀬はその後、書類を受け取った後家に帰り学校へ行った。


そして、1週間後。



─入隊式当日─


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ