【第16話】「合同任務」
翌日
昨日の一件で、城据は報告書を作成すべきか悩んでいた。
白銀の実力、赤炎の頭の良さ、そして久瀬の祝福の特殊性、これらはまだ全て分かりきった訳では無いが既に十分報告に値すべきことだった。
本来、一つの任務につき一枚の報告書を各隊の隊長、または副隊長に提出するというのが規則になっているが、例外の一つとして"新人育成期間中は作成しなくて良い"ということになっている。ただし関心を引くもの、急な特級以上の異怪の出現、新人隊員の異常事態など、必要に応じて隊員が判断し作成する場合がある。
これは、状況判断能力や思考能力、祝福の効果など、新人隊員の所属先を決定する際に必要な判断材料だけをすぐに目で通せるようにするためであり、大事な能力が埋もれてしまうのを防ぐためである。
白銀の強さについて昨日初めて知ったが、久瀬については以前からそれらしい考えは浮かんでいた。3人にアドバイスをしたのも、それを通じて自身の仮説を確かめる為である。
そして昨日、それは確信に変わった。
"久瀬の祝福は異怪を引き寄せる力がある"
まだ範囲効果はどれほどか、効力はどれほど持つのか、特定の条件によって発動するのかなど細かい情報は分かっていないが何にせよ異怪を引き寄せるという情報は確定だろう。
城据はしばらく思考を巡らせた後、煙草を一息吸うと、まだ真っ白の紙を雑に丸めゴミ箱に捨てた。
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入隊してからはや2週間が過ぎた。
普段と変わらず任務をこなしていく毎日、忙しくはあるものの案外充実した毎日を送っていた。同部屋の赤炎は気さくで場の雰囲気を明るくするいなくてはならない友人だ。
それに比べて白銀は、、、と落胆の表情をしながら顔を向ける。それに気付いた白銀は、久瀬に背を向けた。聞こえはしなかったものの、肩が大きく上下したので溜息をつかれたことが分かった。
「そういえば今日、城据さん遅いな」
「そーいやそうだな、もう9時過ぎてんぞ。」
ここは本部一階にある待機所の一室。最近ではここで毎日城据と集合するという約束になっていた。 毎朝新人の迎えに先輩隊員が行く義理もないと白銀が言い出したことによるものだ。前々から3人のもとへ出向くのを面倒くさいと思っていた城据はその提案を受け入れ、毎朝7:30に第3待機所に来いと集合場所と時間を定めた。
しかし現在の時刻は9時過ぎ、もう1時間半以上も過ぎていた。それなのに城据は姿を見せない。
普段からダルいだの面倒くさいだの久瀬達の前であろうと言っている先輩だが、驚いたことに集合時間に遅れたことは一度もない。
故にもしかすると城据の身に何かあったのではないか、大きな不安と微かな不安を3人は抱き始めた。が、しかし、そんな心配をよそに待機所の扉は開く。
「おーお前らちゃんと揃ってんなー、んじゃ今日の任務について話すから耳の穴デカくして聞けよー」
まるで自分の遅刻など何もなかったかのように喋りだす教育係。当然、久瀬は無視できなかった。
「イヤイヤイヤ!あんた遅刻してきただろ!なんでそのまま話進めてんだよ!!」
「そうですよ!なにかあったんじゃないかって心配したんですから!」
「理由くらいは話すべきだと思います」
今回は自身も思うことがあったのか、珍しく赤炎だけでなく白銀も久瀬に続いて声を上げる。
城据は両耳を人差し指で塞ぎ3人が静かになるのを待った。
「あーあーお前ら朝から元気だなーったく、俺が朝遅れてきたのは今日の任務でやることがあったからだ。」
「用事?」
赤炎の問いに頷き煙草を一息吐いてから城据は今日の任務について話し始めた。
「今日の任務はただの任務じゃねー、合同任務だ」
「合同…?!第六とのですか?」
「いや、違う。そもそも第六は戦場において単体で活動することは基本的にない。常に別の隊とセットだ。今は育成期間中だから俺達はセットで動いていないが他の正隊員は一緒に動いてんぞ。」
第六と共に動く、と言ってもこれはあくまで第六に任務がある場合のみだ。
第一から第五は第六と共に行動する、ではなく”第六は第一から第五と共に行動する、というのが正しい。
「まお前らも正式な隊員になったら今よりもっと会うようになる。話を戻すがつまりこの合同任務が指すのは第六を除く部隊、第一部隊から第五部隊までってことだ。分かったかガキども」
3人はコクリと頷く。
「それで、どこの隊とやるんですか」
白銀の問いに城据は一度目線をよこすとまた前を向き一区切りつけるかのように口から煙を出した。
「第一」
「「なっ────?!」」
久瀬と赤炎は大きく目を見開き体を前のめりにした。白銀も大きく驚くことはなかったものの上半身が揺れたことにより僅かに動揺を見せたのが分かった。
「つっても合同任務だからな、部隊全体で動くんじゃねー」
今回の合同任務は各部隊の一班と各部隊の一班、つまり4人+4人で8人グループを作り動く。以前の第六と任務を行ったときのような感じだ。それに今回の合同任務はランダムで行っている為第二の全てが第一と行動するわけではない。
「第……一……」
白銀の少年が呟いた言葉は誰にも拾われることなく消えていった。
「そろそろ来るはずだー」
チラリと時計を見ながら第一の班はもうすぐ到着すると伝える。その言葉を聞き3人は大人しく待っていた。すると─────────
4人しかいない待機所の外側から3回程ノック音が響いた。外側にいるであろう人物は一定のリズムで扉を叩くと「失礼する」と言ってそのドアを開け中に入ってくる。
「本日共に合同任務につく第一部隊班教育係の落葉だ。お前達、自己紹介しろ」
落葉は久瀬達の同期であり今回同じ班になる3人に自己紹介をするように促した。
「風鳴豹馬と言います、よろしく」
「矢部司だ、よろしくな」
「係冬至」
左から真面目、爽やか、無口、といった印象を受ける。第一のメンバーが名を名乗ったところでそれに応えるように久瀬、白銀、赤炎の順に3人は自己紹介をし、最後に城据で締めくくった。
「城据第一席、私の方から説明致しましょうか」
「おーよろしく頼むわ」
「了解しました。お前達、一度しか説明しないからよく聞け。今回の任務は上級クラスの異怪の討伐だ。」
上級クラスの異怪、その言葉を聞いた瞬間空気がガラリと変わりピリつく。その空気に久瀬の頬には一筋の汗が伝いゴクリと固唾を飲む。
「本来なら上級以上の異怪は正隊員になってからだ。故にお前達のような教育期間中の仮隊員に討伐任務がくることはない、しかしそれでも今回上級クラスの異怪を討伐してもらうのはひとえに城据第一席がいるからだ。」
それまでの説明を聞いた後、久瀬の中に一つの疑問が浮かぶ。それは久瀬だけではなかったようで、口にだした者もいた、風鳴だ。
「質問ですが落葉隊員では上級クラスの異怪のは倒せないのでしょうか、今の説明ではそう言っているように聞こえます。」
そうそれだ。
城据がいることで上級クラスの討伐に行けるのであればそれは城据がいなければ行けないと言うこと。もっと言えば城据クラスの実力がなければ駄目だということ。それは落葉クラスでは倒せないと言っているようなものだった。
しかしその問いに落葉は首を振った。
「いや、そういうわけではない。俺だけでなく教育係に任命されている程の者であれば討伐は可能だ。」
「それではなぜ………」
「後から説明する、今はここで長く時間を取っている場合ではない」
「分かりました」
「それでは早速現場へ向かう、準備はいいか」
全員揃った返事を聞いたところで久瀬達の合同任務は始まった。




