【第15話】「もう一方の出来事」
これは和羽側の話である。
無機質な部屋に開かれた空間。第六部隊へと続くその深淵を、和羽は少し怯えながらも意を決して通った。
(うわぁ…!たくさん人がいる!)
和羽の視界を埋め尽くす人の数はかなりのものだった。が、これでも第一から第五と違って戦闘部隊ではない為、人数は少ない方である。
しばらくしてからやっと空間から現れる新米隊員がいなくなった。それを見計らったように、一人の隊員が現れる。
栗色の長く美しい髪を揺らしながら現れたその人物に、和羽は目を奪われると同時に忘れることなど出来ない人だと思った。
「皆さん、先の試験ぶりですね。改めて自己紹介させていただきます。私の名前は復先莢、第六部隊の副隊長を務めています」
麗しい笑みを絶やさず、最後に目を閉じながら微笑むその姿はまるで下界に舞い降りた天使のようで、同性である和羽でさえ見惚れていた。
つまり異性であればそれはなおさらで、
「復先副隊長!僕と付き合って下さい!!」
中には周りの目など気にせず本能のままに愛を告げるものまでいた。
「ふふ、貴方には私なんかより相応しい人がきっといます、ですのでお気持ちだけ受け取っておきますね」
「ありがとうございました!!!」
どこか慣れた口ぶりで断りを告げるあたり、初めてではないのだろう。
「では皆さん集まりましたのでこれからのことについて説明させていただきますね。まずここは第四部隊本部です。」
復先は、3ヶ月後の異神祭のこと、それまでは新人育成期間だということ、4人1組でこれから行動してもらうことなどについて話した。
「それともう一つ、第六部隊の本部は、総本部と同じトウ京に存在します。第六はこれといって独立した拠点は持たず各戦闘部隊と共に存在します。」
つまり、
総本部の中に第六部隊の本部が存在すること。
各部隊、第一から第五は第六と共に存在すること。
第一+第六、第ニ+第六、………といった形だ。
これは、第六には戦闘隊員がおらず、また戦闘部隊には回復系統の隊員がいないためだ。
回復系統の祝福は貴重だ、故に有事の際に第六の隊員を守れるようにという為でもある。
回復系統の祝福=貴重。
であれば、第六の隊長は貴重どころの話ではないのだろうか。
「それでは今からペアを発表しますね」
(私と一緒の班になる子…!仲良くしてくれるといいな……)
和羽は心臓の鼓動が激しく脈を打つのを感じながらそのときを待った。
「次ですね、和羽鈴里さん、」
(わっ私の名前だ…!)
─────
「山下命!よろしくお願いしま〜す!」
元気に自己紹介したのは肩ほどの高さまであるツインテールの少女だ。
「川上宙よ、よろしく」
次に自己紹介したのは腰ほどまである黒髪の女性だ。落ち着いた口調で、おそらく和羽よりも年は上だろう。
「和羽鈴里です!よろしくお願いします!」
最後に和羽だ、彼女に関しては言わなくて大丈夫だろう。
「和羽さん、山下さん、これから仲良くしてくれると嬉しいわ」
「さん付けなんて堅っ苦しいよ!命でいいよー!」
「私も鈴里で大丈夫です!!」
「あらそう?ならそうさせてもらうわ。私も宙でいいわよ」
「りょーかい!」
久瀬達と違って、雰囲気も良く仲も深まりそうな班だった。予想通り川上が18と年上、山下が15と同じだったが、これから一緒に過ごすためと3人の間での上下関係はなくなった。
「以上で班分けの発表を終わります。次に寮についてなのですが…何か質問のある方はいますか?お答えしますよ」
ここで、久瀬のときと同様の声が上がった。
「あの、どうして試験のとき、あの場にいたのが隊長ではなく副隊長だったんですか?」
「ああ、それはですね、貴方達では会えないからですよ。いえ、会う必要がないといった方が良いですね。」
「え…えっと…それはつまりどういう…」
復先は穏やかな物腰と美しい表情を変えず言った。だが雰囲気だけは違う。
「貴方達のようなまだ所属先も決定していない仮隊員を隊長に会わせるわけにはいきません。隊長を失望させない為に。」
天使の中に宿る悪魔をみたような気がした。有無を言わさず、圧のあるその言葉に誰も疑問を投げることなどできず冷や汗をかきながら頷いた。
一応訂正しておく、ちゃんとした理由は存在するのだ。だがその理由と復先個人の理由の行く先、つまり隊長に会えない、という結論が同じだった為ややこしくなってしまったのだ。
もう一度言う、ちゃんとした理由は存在するのだ。
「さて、他に質問のある方はいませんか?……いないようなので寮の説明をさせていただきますね、皆さんついてきて下さい。」
もとの雰囲気に戻った復先は相変わらず天使のようで、ほとんどの隊員が先程起こった出来事をまぁいっかとほうり投げた。
「うわぁおっき〜!!」
「ここが皆さんの寮になります、班同士で生活してもらいますのでご理解ください。今日はこのまま解散となります。明日の早朝、皆さんの指導係である隊員が来ます、それではおやすみなさい。」
3人が目にしたのは久瀬の方と同じような寮だ。
中も配置が違うだけで、構造は変わらなかった。
「3人だけなら、これくらいで十分かもね」
「うんうん!家族以外で人と暮らすって初めてだからワクワクしてる!」
「私も!」
「私よ」
机の上に置かれた説明書を読みながら、3人は部屋を探索する。寝具はベッドではなく敷布団だったが誰も不満は言わなかった。
どうやら3人は、田舎暮らしで自然に囲まれていたということもあり敷布団の方が落ち着くようだった。
意外な共通点にクスリと笑う。
「今日は疲れたからもうお風呂に入って寝ましょう。私が布団を敷いておくからどっちか先入っていいわよ」
「なら私も手伝うよ!」
「じゃあー私はお風呂だね!行ってきまーす!」
和羽と川上は布団の準備を、山下はお風呂へ、それぞれがやるべきことをやりに行く。
今のところ特に言い争いもなく順調だ。どこかの班と違って、
─────
次の日、朝早くから玄関の扉がノックされた。
「あっ、もしかして先輩の隊員かなぁ?」
和羽が嬉しそうに2人に話しかける。そのまま玄関の方へと駆け足で向かい、扉を開ける。
そこには、
「おはようございます、3人とも起きていますか?」
姿を見せたのはショートヘアーの薄い抹茶色のような髪に、赤の眼鏡をかけた女性だ。
「起きていますね、上出来です。ではついてきて下さい」
3人は女性の後をついていく、新しい隊員に身を通して。
「初めてまして、私は米倉綾音、本日から3ヶ月間、3人の教育係となりました。どうぞよろしく」
米倉の自己紹介に続き和羽、山下、川上と自己紹介をする。川上が自己紹介をし終えたところで米倉は一度頷き区切りをつける。
「3人ともありがとうございます。それでは早速任務へ向かいます。」
3人は微かにざわつき真剣な顔つきになる。
和羽と山下は不安なのか汗をかいていた。それに気づいた米倉は、危険なものではないから大丈夫と2人をなだめた。
「第六は上の人達を除いて、一般隊員は基本的に任務を遂行する場合は他の部隊と一緒に行います。ですが、危険なものでなければ第六単体で行います、覚えておいて下さい。」
「それと、今言ったように基本的に、です。戦況が苦しかったり戦闘部隊の人手が足りなければ戦場であろうと第六単体で駆り出されます。」
その言葉に3人はゴクリと固唾を飲み込む。
死を伴う組織、いつ死ぬか分からない、死と隣合わせの組織、それが異怪神軍だ。
だからとっくに死ぬことなんて覚悟していた。だが、それでも、今一度それを認識してしまえば恐怖を感じられずにはいられなかった。
しかしそれでいい、
死を受け入れることは、人を殺すことに慣れることと同じ程愚かなことだ。死とは常に恐れるべき対象だ。
だが、物事には必ず例外が存在する。絶対などありえない、
そういう存在を、人は狂気と呼ぶのかもしれない。
この3人は、狂人ではない健常者。
死を恐れるものこそが、異常者ではない。
上辺だけを隠しても、心のどこかでは死を恐れる。
人間とは、そういう生き物なのだ。




