【第14話】「実力」
微かに冷気を纏いながら、白銀は確実に異怪へと歩みを進めていく。
吐き出す息は白いが、それに気づかない。獲物を捉えた肉食動物のように鋭い目を向ける。
白銀は足元から地面を伝うように氷を展開していく。それは、白銀を中心とし、扇形のように広がっていく。
自身に向けられた殺意に気づいた一体の異怪が、白銀の方へと猛スピードで走り出す。それに反応し、また一体、一体とこちらへ向かってくる。
白銀を簡単に覆うほどの鋭い手が、声を上げながら飛んでくる。
「ふん、バカめ…ここはすでに────」
展開された氷の地から、巨大な氷柱が勢いよく現れ異怪の腹を貫く。
「俺の領域だ」
異怪は泣き声を離れた久瀬にも聞こえるほどの大きさで上げる。
それを見た異怪は、まるで仲間の仇と言わんばかりに次々と襲いかかる。すんでのところで躱しながら、白銀は着々と距離を詰めていく。異怪側もこちらに来ている為、その差はあっという間に縮まった。
数体の異怪が後方に回り込み、白銀を囲むように逃げ場をなくす。それを好機と捉えたのか、はたまた偶然タイミングが重なったのか、異怪は同時に白銀に攻撃を仕掛ける。
それを己の体ギリギリまで引きつけ、膝と足に力を込め空を向かって思い切り飛ぶ。途中、滞空時間を延ばすために片足で蹴れる程の氷を生み出していきさらに高く飛んでいく。
異怪全体を見渡せる程の高さまで到達した頃、白銀は左腕を前に出し、ゆっくりと上へ上げる。それはまるで何かを合図しているようだった。
白銀の動作の後、地面が振動し始めた。何か来る。それを感じ取ったのか、異怪は宙にいる白銀に向かって異形の手を伸ばす。しかし異怪は攻撃した手を地に置いていた為遅れを取ってしまう。
瞬間、
その光景に、久瀬は唖然とした。
辺り一面が氷で覆われ、異怪は全て氷漬けにされてしまった。
日の光に照らされ輝きを放つそれは、まるで宝石のようだった。
全てを凍りつくした後、白銀は加速していく落下速度を利用し、強烈な蹴りを食らわす。
その衝撃により氷全体がひび割れ、異怪とともに砕ける。
白銀は華麗に着地し、消えていく異怪を背に城据のもとへと向かって行った。
─────
城据は少し、いや、正直かなり驚いていた。
(あれがド新米の実力かよ…)
溜息を交えながら吸った煙草の煙を口からだす。
副隊長候補が驚くほど、白銀の実力は新人隊員の中でもずば抜けていた。
このままいけば副隊長、いや、隊長だって夢ではないほどに。
ただし順調にいけば、の話だ。実力を伸ばしていけば必ず壁にぶち当たる。苦労することなくトントン拍子で強くなることなどないのだ。
(いや…この考えは違うな…)
城据は自身の考えを否定した。そういう人物に心当たりがあるからだ。しかもそれは1人ではない。
ただ、それは一部の生まれながらの天才の話であるということを付け足しておく。
才能を持つものと持たないもの、同じ道を進みながらその過酷さは全く違うのだ。
(ま、これからに期待だな)
難しく考えず、強いことは良いことだ、強ければ自分の負担が減るかもしれない。そんな自身にとっての利益を嬉々として考えながら、丁度吸い終わった煙草を捨て、新しい煙草に火をつけた。
もちろん、吸い終わった煙草は持ち帰る。
捨てた煙草の残り火からの火事など笑えないからだ。
「いや白銀、お前凄いな!!そんなに強かったのか!」
興奮したように赤炎が話しかける。
「ちょっ、調子乗んなよ!俺だってあれくれーできるからな!」
出来ない。
「雑魚はほざいてろ」
「きぃーーーーーーーーーー!!!」
久瀬はハンカチを口にくわえながら甲高い叫びを上げる。普通に久瀬が余計だ。
「次行くぞー、と言いたいところだが急遽予定変更だ。」
「予定変更?何するんですか?」
「今日の任務は終わりだ、帰っていいぞー」
「「は?」」
仲の悪い2人の声が重なった。
「いやわりぃ、ちょっと予定が入っちまってな、夜まで帰ってこれそーにねーんだわ」
「でも次の任務って第六部隊の護送でしたよね?大丈夫なんですか?」
「ああ、それについてはもう他のとこに頼んである。んで、お前らはもうやることないから帰って良し」
「じゃあ自由ってことか?好きなことしていいのか?」
「ああ、どっかに遊びに行ってもいいし寝ててもいいぞ。とにかく面倒事起こしたり他の奴らの邪魔しなきゃ何してもいい。」
「まじかよ…!」
「もういいな、じゃ解散!」
城据は手を叩き解散命令を出した。
予期せぬ出来事に久瀬は一瞬戸惑ったがすぐに喜びへと変わった。
「赤炎はこれから何すんだ?」
「オレか?特に何もないんだよなー、いきなり過ぎて予定はない!」
「まっ、そうだよな。俺もなんもねーわ」
「白銀は?」
「特に」
「てことは3人とも何もないのか…あっ」
「どーした?」
「なら今から3人で飯でも行かないか?!」
「おっさんせー!!腹減ったー!!」
「白銀はどうだ?」
「俺は行かん」
相変わらずの白銀に、久瀬はまた嫌味を言う、嫌な顔を添えて。これも相変わらずだ。赤炎は特に引き留めて強制しようとせず白銀の返答を受け入れ、お昼ご飯は久瀬と赤炎の2人で行くことになった。
しかし隊服のまま行くのはあれなので、一度寮に戻って私服に着替えてから行くことにした。
─────
2人が入ったのはどこにでもあるようなファミレス。
というのも、久瀬も赤炎もこの地に来たのは初めてだったので、どこに何があるかほとんど把握していなかったのだ。
任務に向かう最中に、偶然見かけたここを赤炎は覚えていたためスマホでマップを辿りながらここまで来た。というのが事の経緯だ。
2人は同じハンバーグプレートを頼み、到着するまで待っている。今の時間帯はお昼時で混んでいる為、注文したものが来るまでは時間がかかりそうだった。
「はぁー今日も昼抜きになるかと思ったぜ…」
「確かに昨日は一日中続けて任務だったもんな」
「そーだぜ、終わったと思ったらあんなでけー異怪が現れて…」
「城据さんがいてくれて助かったな」
2人はまだ短い思い出を語っていく。しかし1つの話題で思った以上に話は進むのだ。気付けば頼んでいたハンバーグプレートが到着していた。店員が去っていった後、2人は一度目を合わせ頷きハンバーグに目をおとす。そしてそのまま
「いっただっきまーす!!」
空腹の腹を満たしていくのだった。
食べ終わった2人は、他愛もない会話をしながら帰路へと向かう。
寮へと着き、ドアノブを回しながら久瀬はあいつがいるのかと白銀の顔を思い浮かべながら扉を開ける。
だが部屋は明かりもなく暗闇で、カーテン越しに日の光が差し込んでいるだけだった。
「あれ、白銀はいないのか」
「帰るとは言ってねーしな」
「お前嬉しそうだな…」
憎ったらしいイケメンがいないことに歓喜しつつ椅子に腰をかける。そのときだった。
玄関の扉が開いたのだ。
久瀬は思わず芋虫を踏み潰したような苦い顔になる
その顔を向けられた当の本人は、特に気にすることもなく風呂場へと歩いていく。
「なんでそんなに汗かいてるんだ?」
当の本人、白銀は、全身が汗だくで前髪は額に張り付き、肩で大きく息をしている。
「別に、ただ走っただけだ」
赤炎の疑問に素直に答える白銀、これが久瀬だったならばおそらく無視していただろう。これは白銀の赤炎に対する印象がいいからだ。
逆を言えば久瀬への印象は悪い、それどころか以前より下になっているかもしれない、まだ片手で収まるほどしか日は経っていないというのに。
「運動か…!それいいな、オレもやろー!久瀬、一緒にやらないか?」
「おっ俺も…?!」
久瀬は正直もう動きたくなかった。だが白銀はしている、たったそれだけのことが久瀬の闘争心を沸かせる。
「うっしゃああああああ!やってやるぜ!!テメーなんかに負けるかよ!」
「そのいきだ久瀬!」
2人はまた青空のもと駆け出して行く。




