【第13話】「氷の原石」
昨日の任務を一言で言うなら異怪討伐だ。
なので異怪を倒すこと以外特段変わったことはしていない為、昨日の出来事に鍵があるとは思えなかった。異怪を倒すこと以外にしたことと言えば住民の避難誘導、ただそれだけだ。今回の異怪採りに繋がるとは思えなかった。
合流してから十数分、3人は頭を悩ませていた。
「昨日の一部を切り取って思い出すんじゃなくて、1から振り返って見るか?」
赤炎は提案した。
2人はそれに賛同し、さっそく昨日の朝から振り返って見ることにした。
雪の大地に、銀色の世界。
「え〜と朝は6時過ぎくらいに城据さんが来たな。」
「ドア蹴ってな、唐突に」
あの出来事は3人にとって衝撃的だったため鮮明に覚えている。普通ノックするだろ。
「そっから入隊して初めての異怪討伐だったよな。」
「と言っても第二次試験のときとやることは変わらなかったが。」
「そうそう、んで俺が倒そー!って思って祝福を発動させたんだよな〜」
「ああ、そうしたらオレと白銀の方にいた異怪が久瀬の方に───────」
あ、
3人の声は重なった。
「そういやそうだ!なんであんとき俺の方に異怪が来たんだ?!あの距離ならお前らの方が近かっただろ」
「確かにそうだな、思い返せばあれは明らかにおかしかった、久瀬の祝福はそういうものなのか?」
「いんや、俺の祝福は水を生み出して操る、"それだけ"だ。」
2人はその疑問に頭を悩ませた。しかしいつまで経っても答えはまとまらない。
輝きを纏うその固き水は、まるで宝石のよう。
「考えても仕方がない、このアホの祝福が異怪をおびき寄せる効果があるのなら今回の任務で使わない手はない。」
白銀がそう言ったことで2人は一度考えるのをやめ、この久瀬の祝福をもとにした作戦を考えることにした。
その様子を見ていた城据は2時間もかからずにこの任務は終わるだろうと心の中で呟いた。
光がさらに■■を与える。
作戦の内容は至って単純。
森の真ん中で久瀬が思い切り祝福を使うこと、それだけだ。ただこのとき注意するのは祝福は発動させるだけで間違っても放ってはいけないということ。
異怪が祝福によって討伐される可能性がある為だ。
せっかく捕まえる手がかりを見つけたのにここで失敗してしまえば全てが水の泡だ。
赤炎は、上を向いて発動すれば木に当たることもないとアドバイスした。
任務開始から1時間と数十分、目的の位置についたので久瀬には予定通り祝福を発動してもらう。
残りの2人は、草の陰に身を潜めておき捕獲する役割だ。
「っし…いくぞ…」
ここに来るまでに幾度となく失敗するなと釘を刺された久瀬は、いつも以上に集中しながら、澄み渡る朝方の空に向かって祝福を発動させる、生み出された水は少しずつ、少しずつと大きくなっていきやがては数本の木を覆い尽くす程になっていた。
このとき発動した祝福は、久瀬が祝福の特訓をし始めた頃の威力はなるべく抑えたただの大きな水に変わりない為、そこまで体力が削られることはなかったが、ここからは時間と体力、集中力の勝負だ。
優秀な隊員ならばこの程度造作もないことなのだろうが、如何せん久瀬は新米中の新米だ。こればかりは仕方がない。
その■を■■は■■した。
話を戻すと異怪が早くに現れてくることがこの作戦の頼みでしか補えなかった部分だ。
待つこと5分、異怪が現れる気配はない。
「久瀬ー!まだ大丈夫かー?」
「おーう!まだ余裕だ!」
赤炎が心配の声をかけたが久瀬は大丈夫だと答えたので作戦は続行されることに決まった。
その■を■■は■■した。
待つこと15分、久瀬の額に汗が流れ始めた頃だった。
カサリ、と草木を這うような音がしたのだ。気づいた2人は息を殺す。音はどんどん近づいてきており、久瀬の耳にも届くようになったとき、異怪はついに姿を現した。
2人の見つめる先にある1本の木、そこにあのトカゲ型の異怪が漆黒の身体を見せていた。
ゆっくり、ゆっくりとさらに息を殺しながら確実に近づいていく。
不意に赤炎の足元にあった木の枝が、音を立てて2つに割れた。踏んでしまったのだ。
その音に気づいた異怪は、慌てて逃げようとする。
しかしやっときた好機をやすやすと逃すはずもなく、白銀は左足に力を込めその場から思い切り前に飛ぶ。手に持った虫取り網を振りかぶり一瞬にして詰めた間合いに、異怪は逃げることなど叶わず網の中に入ってしまう。
捕らえた異怪をカゴの中に入れたことを赤炎が確認すると、
「終わったぞー!!もう祝福は解いていい!!」
「っかぁああああ疲れたぁぁあああ!!さすがにここまで長く使ったのは初めてだわ」
「おつかれさん」
地べたに座り込んだ久瀬の肩を叩き、笑顔を浮かべながら赤炎は労いの言葉をかける。
「おい、早く行くぞ。まだ任務は終わってない。」
「ちょっとは待てよ!俺は疲れてんの!てか今回は俺のおかげだろ!ありがとうの一つもねーのかよ!」
「ふん、これは任務、やって当たり前のことだ。それに、そんな程度でへばっているようじゃこれから先が見えないな。」
「んだとごらぁ!!上等じゃねぇか表出ろごらぁ!」
「またかよ〜、久瀬も、そんな元気があるんだったら大丈夫だな!ほら行くぞ!いつまでも城据さんを持たせるわけにはいかないしな」
「ちっ、また赤炎のおかげで命拾いしたな!」
「誰があほに殺されるか」
相変わらずの会話を繰り広げながら城据のもとへ戻って行く。3人と1匹?で。
いつの日か■が誕生する、これは■の力、ひいては原石である。
「おーう、おめーらおかえりー」
「ほら見てみろ!取ってきたぞ!!」
「あー見えてる見えてる、にしてもすげーな、ほんとに2時間もかからず帰ってくるとは」
「城据さんは予想してたんですか」
「まーな、」
城据は煙草に火をつけながら言った。
「ま捕まえたならそれでいーんだよ」
「というか捕まえてどうするですか、異怪なんて」
「研究に使う」
「研究?」
「ああ、この組織には───ってどうせ1ヶ月後に説明すんだ、今はそういうもんってだけ覚えときゃいいんだよ覚えときゃ」
(面倒くさいんだな…)
「それよりもお前ら次の任務行くぞー」
「えっこれは?」
城据の前に捕まえた異怪が入ったカゴを見せる。
「これは俺が預かっておく、んじゃ行くぞ」
故にいつか来る運命という未来に、未来という運命に、大きな■■を与えるだろう。
─────
3人の目に映るのは、12体の異怪。階級は中級だ。
あたりに住宅地はなく、あるのはすでに廃墟となった建物だけ。もとより人が寄り付かない為、逃げ遅れた人を心配する必要はない。
「よし、いけ」
「唐突だなおい!」
突然の出撃命令に口を出さずにはいられなかった。
「…城据隊員、この任務、俺一人にやらせてもらってもいいですか?」
「は?何言ってんだよ」
白銀は突然、久瀬が思わずアホ面をさらしてしまうほど発言をした。
「理由は?」
「ただ、自分の力を見ておきたいと思ったからです。あのときの試験も確かにかなりの数の異怪がいましたが、全て下級でした。しかし今前にいるのは中級です。それに、この数を一度に相手にするのは初めてなので、どれほど通用するのか知りたいんです」
「……お前レベルなら全然通用すると思うけどな」
「……………」
「分かった、ただしやるのは5分だけだ、それを過ぎたらこいつらにも行ってもらう」
「十分です」
白銀は1人、異怪の群れへと足を運びに行った。
聞け、これが■■を変える1つだ。




