【第12話】「異怪採りも立派な任務」
和羽達と別れ、長い1日を終えた久瀬達は寮へと戻ってきていた。
城据からの課題と共に。
初任務の感想を明日の朝までに書いてくること、それが課題の内容だ。
「っにしても課題が感想文とか…普通すぎんだろ」
「紙もこんなんだしな」
感想文用に渡された用紙はまさかのハガキサイズだった。こんなもの、字を小さくしない限りは多くは書けない。
しかし会ったばかりにしろ九操が言っていたことから察するに、城据はかなりの面倒くさがりなのだろう。ならばこの渡された用紙からは、
"いちいち長ったらしい文なんて見てられねぇからこれに一言二言書いとけ"
という城据からのメッセージが含まれているのだろうと予想できる。
がしかし久瀬も感想文を書くのは苦手な為これは嬉しかった。
「ま、ちゃっちゃと書いて寝よーぜ、明日もはえーんだし」
欠伸をしながら言う久瀬を、赤炎はそうだなと肯定しながら感想を書いた。
「白銀は書けたのか?」
「うげっ…」
少し離れた場所で二人に背を向けて座っている白銀に赤炎は話しかけた。
「当たり前だ、これは悩むようなものじゃないだろう」
「ハハッ確かにな!」
「それとそこのアホ、何がうげっ、だ。お前にそんな反応される筋合いはない。」
「は?誰がアホだよ!ふざけんな!!」
「ならバカか?」
「おいおい二人も!そんな幼稚な喧嘩はよせって!」
もう時間帯は夜だ、このまま騒ぎ続ければ隣の部屋から苦情がくるかもしれないし城据の耳に入ればおそらく…。
しかし赤炎が早めに仲裁に入ったことにより二人の言い争いがそれ以上発展することはなかった。
─────
「あー、お前らちゃんと一言二言で書いてるな、よしよし良くやったー」
「こんなんならなんで課題なんか出すんだよ」
「育成期間中は出さねーといけねぇ決まりなんだよ」
「じゃあ3ヶ月間ずっと書かないとダメなんですか?」
「はあ?!嘘だろまじかよ」
「いや、課題の内容に決まりはねーぞ」
「よっしゃあ!ずっと感想文とかまじ勘弁だぜ!」
「…………」
3ヶ月感想文は回避できたか別に課題自体がなくなるということはないので安堵出来るわけではない。
というより感想文も書くのは一言二言なのでそっちの方断然楽だろう。
久瀬はそれに気づかないが。
「それよりお前ら、今から任務行くぞー」
「今日もですか?」
「今日もと言うよりこれから一カ月くらいはずっと任務だな」
「…その後は?」
「ん?あー、そしたら次は座学だな」
「座学?!それって勉強ってことか?!嫌だああああああ!!」
「うるせーな落ち着け、座学って言っても学ぶのは異怪とか祝福とかこっち系のことだ。」
「あぁ…」
「ま今は先のことよりも任務のことに集中しろ、行くぞ」
三人が返事をしたところで早速任務へ向かって行った。
今回の任務は予定通りに進めば全部で三つ。
1つ目は森林区域に現れた下級クラスの異怪の駆除。
2つ目は住宅街に現れた中級クラスの異怪の群れの討伐。
3つ目は避難所へ向かう第六部隊を無事に送り届けることだ。
何も起こらない限り命の危機の心配もない安全な任務だ。
今回は城据は手を出さない。非常時の際も三人が瀕死の状態にならない限り助けることはない。
2日目の任務の全容はこうだった。
森林区域に着いた久瀬と赤炎は疑問のマークを浮かべた。どこにも異怪は見当たらないからだ。
「なっなぁ…どこにもいねーぞ?ここじゃないのか?」
「いんや、ここであってるぞ」
「ですが当たりませんね」
森の中は静寂に満ちており、到底異怪がいるようには思えなかった。というよりその巨大で、異形で、漆黒の化け物が見つからないのだ。
すると生い茂る草木が掠れる音がした。3人はそこへ目をやる。
「「「・・・」」」
そこに居たのはトカゲのような生き物、ただしトカゲではない、あくまで形状だけだ。その生き物が木に張り付いている。
因みに色も付け加えておくと漆黒である。
久瀬と赤炎はゆっくりと城据の方を見る。何故か手に虫取り網とカゴを3人分持っていた。
「ほら、さっさと行けー逃げちまうぞー。あっ逃げた。」
「えっもしかして…」
「あぁ、そのもしかしてだな、今逃げてったのが異怪だ。」
「「はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!???」」
二人は目を見開きながら驚きの声を上げ、一人は声は上げなかったものの目を見開いた。
「あれを倒すんですか?」
「いや、道具を見る限り捕まえるんだろう。」
「えっ倒さねーのか???」
「白銀が正解だ、倒すんじゃなくて捕獲する、これが1つ目の任務だ。」
「でも駆除って言ってませんでしたっけ?」
「駆除な、討伐とは言ってねー」
「あー…」
「てことは……」
3人は森を見渡した。この広大な場所からたった一匹の異怪を見つけるのだ。下手すれば1日なんて時間では終わらない。しかし今日は任務がこれを除いて2つある。今日中ではなく数時間で終わらさなければならない。
これを即座に理解した3人は、いつまでも突っ立っているわけにはいかず全力で走り出した。
「これまでのことを思い出せーそうすりゃ絶対に捕まえられるぞー」
先輩からのありがたい助言を、すでにかなり距離がある場所にいながらも3人は確かに聞きとったのだった。
─────
3人は手分けをして探すことにした。
落ち葉の下から雑草の中、石ころの裏。ときには木の上を登ったりそこから見渡してみたり。と現在進行形で久瀬は木の上にいた。
「あ~〜〜〜見つからねーーーー!!!」
「もう無理だろこれ」
捜索が始まって数十分、すでに久瀬は弱音を吐き始めていた。淡々と先の行動を繰り返す、体力も少しずつ減るしかわり映えしない景色に視界も退屈してきる。メリットと言えば緑は目に優しいということだろうか。しかしそんなもの久瀬にとっては無いも同然だった。
そもそも異怪なんて捕まえてどうするのだろうか。異怪とは倒すべきものではないのだろうか、異怪神軍だって異怪を根絶することを目標として掲げてきたはずだ。
この任務から逃げ出したい久瀬は別のことを考え始めていた。しかし城据に聞けば分かるという結論に至ってしまい現実に戻された。
何の成果もないというのは白銀も同じだった。
久瀬と違うところをあげるとすれば的確に、それでいて素早く探しているところ。立ち止まっては溜息をついている久瀬とは違った。
「はぁ…」
(そもそも分が悪すぎる、こういうのは普通探索系の祝福者がやるものじゃないのか。何故攻撃系の俺達がやるんだ…)
こうなればもう己の感に頼るしかない。しかし下級クラス、それもあれほど小さな異怪を、この広い森で探すのはほぼ不可能に近いだろう。白銀はより集中しながら探索を続けることにした。運よく見つかることを心の片隅に置いて。
さながら見つからないのは赤炎も同じだった。
(トカゲの生態なら日当たりのいい草地や枯れ木を探せば見つかるけど…異怪だもんな、形状がトカゲってだけで関係ないしな…)
もういっそここ全体を焼いてしまうかとも考えた。森なので少しの炎で燃やすことは可能だし、炙り出すことも案の一つにしようかと赤炎は思ったが流石にやりすぎだしそのまま異怪を殺しかねないので断念した。
もうそろそろ1時間が経つ。
まず初めは手当たり次第に探し、見つからなければ1時間後に元の場所で合流し作戦を考えようという話になっていた。
3人は一度捜索をやめ約束の場所へと戻っていった。捕まえたときの合図がなかったことに落胆しながらも。
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「はぁ…これ見つかんのかよ」
「この調子では1日経っても終わらないぞ」
「でも城据さんは見つかるって言ってたよな、」
「確かこれまでのことを思い出せ、そうすれば絶対捕まえられる、だったか」
「これまでのことを思い出す…」
偉大な先輩のアドバイスをもとに、3人はこれまで、というより昨日のことを振り返った。




