第五話 新たな旅
これで第一章終了となります
「この森出よう」
「は?」
ネアが自分の提案にひどく驚いた様子を見せる。流石に唐突すぎたか。
「だってさ、ネアは強すぎて得られることは少ないじゃん。あるんだよ、あるにはあるけど、今の自分のレベルじゃついていけない。魔物もほとんど相手にならないんだよ」
そう言うと、ネアは『鑑定』をした。おそらく自分がどれだけの能力かを確かめようとしているのだろう。
『名前』
七瀬優太
『レベル』
30
『力』
610
『体力』
755
『魔力』
16899
『俊敏性』
637
『スキル』
言語理解 感覚過敏 魔力体漲+紅天 魔力操作 代償強化 爆破
『体術』
竜王体術
『代償強化』と『爆破』は魔物を倒すことで得たスキルだ。『代償強化』は文字通り、何かを代償として、何かを強化するスキルだ。例えば、『俊敏性』を代償として、『力』を上げることができる。
『爆破』は、対象を爆破する。まんまだ。だが、扱いがかなり難しいので絶賛封印中である。ちなみに『代償強化』は巨〇兵が、『爆破』は青狸が持っていた。話を戻すが、ここまで強くなると、レベルもなかなか上がらず、魔物との戦いで得られることもほとんどない。要は効率が悪いのである。なので外の世界に出て、戦ってみようということだ。それをネアに説明した。
「そうか……仕方がないことだ。そうだ、仕方がないんだ」
ネアのその言葉は、ネアがネア自身に言い聞かせているような感じだった。
「どうしたんだ? 言いたいことがあるならはっきり言えよ。ネアらしくないな」
「そうだな。……ここは昔の勇者と初めて会った時の洞窟なんだ」
昔の勇者ってあの? 人族と竜族の戦争の最中に、ネアと仲良くなったっていう。だから洞窟が壊れた時もあんなに取り乱したのか。
「それなら一人で行こうか? そんなに弱いわけじゃないし、ネアがいなくても何とかやっていけるはず――」
「無理だな」
ネアに否定されてカチンときた。
「そんなに言わなくてもいいだろ! 昔よりは全然強くなってる。ネアからしたら雑魚かもしれないけど――」
「違う、そういうことではない」
「じゃあ、なんだよ!」
「お前は確かに強くなっている。だが世の中のことをどれだけ知っている? それに金もないし食料もない。服装もこの世界のとは全然違うから勇者だってバレるだろう」
ネルに説明されて冷静になった。よく考えてみればそうだ。自分は一か月くらいここにいたけど、この世界の説明はネアからほとんど受けていない。召喚されたときすら、何も説明されていない。
「ごめん、つい感情的になった。ネアの言うことが正しい」
「大丈夫だ。こちらもきつい言い方をした」
それから、外の世界に出るための用意をした。主にアイテムボックスの整理だ。武器や食料、服などを手際よく整理していく。食料が腐ることはない。なぜなら、アイテムボックスは時間経過がないからだ。便利な世の中だ、と思った。
「よし、大体の荷物は終わったかな。ネアー、そっちは大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
戦利品の準備をしているネアが答えた。戦利品は大体がポーションだ。そういえば、ネアに回復魔法の使い手はいないのか聞いたら
「回復魔法を使えるのは、歴史上でも数えるほどしかいない。それほど貴重だ」
と答えられた。
「へぇ、回復魔法ってそんなに貴重なんだ」
「あぁ。俺が知る中でも二人しかあったことがない」
閑話休題。そんなこんなで外の世界への準備が終わって、これから外へ出よう、というときにネアがこんなことを聞いてきた。すごく真剣な顔だった。
「優太、お前は強くなりたいか?」
なんでこんなことを聞くんだろう。と、訝しんだが、素直に答えた。
「決まってくるだろ。強くなる、それが目標だ」
するとネアは少し考えた素振りを見せてから、また口を開いた。
「なんで強くなりたい?」
そう聞かれると考えてみた。なんでだろう? 単なる小説へのあこがれ? いやそんなんじゃない。
じゃあなんだろう? ネアに恩返し? そうでもない。そんな感じで、あーでもないこーでもない、と考えていたら一つの答えにたどり着いた。
「復讐だ。見下してきた王国の奴らへのな」
おそらく自分の中で、もう答えは出ていたんだろう。召喚してから、マッハで自分を捨てた。そんなあいつらが憎い。復讐はだめだ、そんなことをほざくやつが前の世界にいた。でもそういうことを言うやつは大体、理不尽にあったことがない。頭の中がお花畑なんだ。
「そうか、お前も一緒か」
ネアがそう言ってきた。一緒? 何のことだ。
「俺もな、昔理不尽にあったことがあるんだ」
そういうネアの顔はとても怖かった。憎悪に満ちていた。それにしても、ネアが理不尽にあったなんて信じられない話だ。むしろ理不尽を与える側かと。
「お前今、失礼なこと考えただろ。顔に出てるぞ」
バレたか。
「まぁ、人間が強くなる理由、というか大義名分か。それは大体憎しみなんだ。すまん。少し余計なことをしゃべったな」
「いやいや全然、それよりネアの昔とか気になるな」
そういうとネアは渋い顔をした。
「それはちょっと……いつか話す。今じゃないほうがいい」
ちぇっ、ケチなの。まあいいか、いつか話してもらえるんだし。
「それより、準備はいいか?」
「いえっさ~」
「気の抜けた返事だな」
ネアが微笑んだ。
「それじゃあ……出発!」
「しゅっぱ~つ」
右腕を空に掲げて、新しい世界への旅は始まった。幕開けだ。
最後までお読みいただきありがとうございます。そういえば初ブクマつきました! 感激しました。これからもよろしくお願いします。