閑話:勘違い女と2人の勘違い男
うふふ あはは やったわ
私は異世界転生できたわ!
ほぉらみなさいよ、やっぱり私は特別だったのよ。
いつも口煩かった両親。
なにが現実を見なさい、地に足を付けて生きなさいよ!!
私はねぇ、あんたたちみたいな凡人とは違うの!
選ばれた特別な人間なのよぉぉぉ!
この転生者 ユメカ はこの時まだ解っていなかった。
自分が 邪神に選ばれし特別な人間だった事を・・・。
ユメカは学生の頃から異世界転生の小説が大好きだった。
いつか自分もそんな世界へいけたなら、そう思って居た。
特にお気に入りだったのは生まれる世界を間違えていて
死後本来生まれるはずだった世界へ転生し聖女になるという物だった。
本当の私はきっと聖女として皆に大切にされて
世界を救って王子様と結ばれるのよ!
私はこんな所へ生まれるべきじゃないのよ!
いつしかユメカは学校へも行かず部屋に閉じ篭るようになっていった。
食事をする事も忘れ
小説を読み漁り自分だったらこうする、自分ならこうなりたい そんな妄想を繰り広げた。
そして気が付けば衰弱死して、転生していたのである。
但し、聖女としてではなく 娼婦の娘として・・・。
ここでもユメカは現実を受け入れず、都合のいいように解釈した。
親に虐げられて成長し聖女としての才能を開花させる
なんて素敵なストーリーなの!
そう、ストーリーならそれもありだろう。
だがこれは現実である。 その事をユメカは理解していなかった。
更に言えば ユメカの生みの親は綺麗な顔立ちをしていた。
客である男たちは皆この母親にご執心だ。
それは顔のせいばかりではなく、ちゃんと母親の努力もあったからだ。
体系を維持するために適度な運動もしていたし
世間の流行などの情報収集もしていた。
そんな母親の努力を知ろうともせず
あの母親の子供なんだからきっと私も美人よね。
将来私もモテモテ確定じゃない!アハハハハ
やがて10歳で鑑定式を迎え、ユメカも鑑定を受ける事となる。
ユメカの鑑定結果は聖女と出た。がこれは邪神による偽装である。
邪神によるものなので誰も見抜ける訳がない。
可愛そうなのは鑑定を行った神官である。
本来ならば聖女は1人しか現存しないハズなのに2人目が現れたのである。
アタフタと神官長に伝え指示を仰ぎとりあえずは教会に迎え入れる事となった。
その後はとんとん拍子で話が進む。
聖女としてチヤホヤされて王子と結婚したい勘違い女ユメカ
なんとか教会の威厳を見せつけて政治的権力が欲しい神官長
とにかく金金金、金が欲しい魔導士長
そしてなにかと比較される第一王子を押しのけて王太子になりたい第二王子
利己的4人が手を組む形になったので 王国民にはご愁傷様としか言いようがない。
まだここで現王が抑止出来ていれば救いはあったのかもしれない。
が、残念な事に現王は病に倒れ寝た切りになっていた。
王を補佐すべき宰相は第二王子の母:第三妃の兄であったが為
当然第二王子が有利になるように動く。
抑止できる者はいなかったのである。
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フハハハ 俺にもやっと運が向いて来たぞ。
2人目の聖女はどうやら頭が弱いようだ。
少しチヤホヤすれば面白いように手の平で踊ってくれる。
現聖女は大人びていて思う様にならんからな。
いやそれが聖女本来の姿であり誘惑にはなびいてはならんのだが。
だが俺が権力を手に入れるのは邪魔なのだ。
操りやすいコマとするならば2人目の方がいいだろう。
こうなると第二王子と現聖女の婚約は早まったかもしれんな。
まあそれもすぐに対処出来るか。
あの第二王子は少し煽れば思う様に動いてくれるからな。
フフフ フハハハハハ 俺の時代がついにやって来る!
どうやらこの神官長も勘違い男だったようだ。
何をどこで間違えたのかこの神官長
神に仕える身でありながらそれを疎かにし権力に取りつかれてしまっている。
この新官庁の父親も神官だった。
とてもまじめで民にも慕われる優しい神官であった。
だが真面目故に出世が出来ずにいた。
賄賂など受け取る事も無く、貴族にも違う事は厳しく意見し
貧しい者には手を差し伸べ、まさに神官の鏡とも言えたであろう。
そんな父を見て育った彼は思った。
真面目なだけじゃ駄目だ。弱き者を守るには権力も必要なんだ。
そう、最初に芽生えた思いは弱き者も護りたいという正義感から欲した権力よくだった。
それが歳月を重ねるうちに当初の思いは忘れさり権力欲だけが残ってしまったのだ。
神に仕える者に対して権力が弱すぎる
神に仕えているのだ、俺にはもっと権力があってもいいはずだ
神に仕えているのだから聖女よりも力があってもいいはずだ
俺は父を尊敬してはいるが父の様にはならない
もっとうまく立ち回って権力を手に入れてやる
もっと権力があればもっと色々と出来るのに
もっと権力があれば・・・
もっと権力を・・・
俺はもっと上に立つべき人間なのだ
俺は 俺は神の代行者なのだから!
何故そこまでの曲解に辿り着いたのか・・・。
そこにも邪神の根回しがあった事をこの神官長はまだ知らないのであった。
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これは丁度いい。
面倒な権力など神官長にくれてやる。
俺が欲しいのは金だ。金さえあればいい。
あいつらと組んでいれば甘い汁を吸わせて貰えるだろう。
この際古臭い考えのじじぃ共には隠居してもらって。
現聖女を追い出して第二王子とくっつけて
チヤホヤして着飾らせて好きにさせればいい。
2人目の聖女も第二王子も数字には弱そうだったからな。
お飾りとして祭り上げておけば口も出してこないだろう。
さてまずは第二王子と2人目の聖女を・・・
上手くくっつくか?
2人目の聖女は 王子様が~など夢見がちだからいいとして
第二王子は・・・まぁそこは適当に煽るか。
いざとなれば薬でも盛って既成事実を・・・
いやいやそれは駄目だろう、落ち着け俺。
2人目の聖女はまだ10歳。現聖女ですら13歳だぞ。
いくら俺でもそのくらいの常識はあるぞ・・・。
まあ惚れ薬程度ならいいか・・・。
この魔導士長、変な所で悪役になり切れていないのだ。
現聖女にとってはそれが救いだったかもしれないが。
魔導士長は若い頃のトラウマで女嫌いである。
見た目は割と整った方だったが下級貴族の出だった。
才能もあったがそれだけで魔導士長になれるほど甘くはない世界だ。
上級貴族からの嫌がらせもあったが負けないように努力もした。
ゆえに若くして魔導士長にまで上り詰めたのは彼の努力の結果とも言える。
そんな彼の生まれて初めての恋を無残に蹴散らしたのは中級貴族令嬢であった。
『いくら見た目がよくてもお金が無いと贅沢出来ないじゃない!』
魔導士長である彼の球菌はそんなに悪い訳でも無かった。
単にこの中級貴族令嬢が金遣いの荒い我儘令嬢なだけだったのに。
女性付き合いの無かった彼にはそれが解らなかった。
女と言う物はそんなに金がかかるのか。
金さえあればいいのか?
金さえあればなんでも望みは叶うのか?
金さえあれば・・・
彼の純粋さが恐ろしく変な方向へ向かった瞬間でもあった。
これも邪神の差し金だった事も彼はこの時知る由も無かったのだが・・・。